特別企画

食物繊維で腸から“げんきだもん!” その③ 腸の元気をつくる食生活

最近、“腸活”という言葉をよく聞きますよね。腸活とは、腸内環境をよくするための活動のこと。なんでも、腸をよい状態に保つといろいろな“健康にいい効果”が期待できるのだとか。特に、食べ物にふくまれる食物繊維は腸内環境と深い関わりがあるのだそう…!

そこで今回は、①食物繊維にはどのような健康効果があるのか?腸内細菌はどのように私たちの健康に関わっているのか?腸内環境をよくするにはどんな食生活を心がければよいのか? について、食物繊維研究の第一人者である大妻女子大学教授の青江誠一郎先生に教えていただきました!

「その① 食物繊維のスゴイパワー!?」はこちらからご覧ください
「その② 人間と共に生きる、腸内細菌」はこちらからご覧ください

腸内環境をよくするためのポイントについてお伺いしたいと思います。まず、食事では具体的にどのようなことに気をつければよいのでしょうか?

腸内細菌にはエサが必要です。そのエサとなる食物繊維、特に水に溶ける“水溶性の食物繊維”をしっかりとることが大切です。しかし、日本人は食物繊維の摂取がすごく少ないんです。1日にとりたい食物繊維の量は男性の場合21g以上、女性(15~64歳)は18g以上なのですが、実際の平均的な摂取量は14~15g程度です。最新の調査では食物繊維の摂取量は平均で18g程度になりましたが、それは成分の算出方法が変わったためです。数字だけ見ると摂取量が増えたように見えますが、実際は1日あたり5~6g足りないような状況です。
不足分を補うには、主食(穀物)から食物繊維をとることがおすすめです。主食は、1回に食べる量が多いので、野菜を増やすよりも効率よく食物繊維をとれるのです。ご飯なら白米ではなく玄米や雑穀、パンなら全粒パンやライ麦パンなど、“色のついた穀物”を取り入れるようにするのがポイントですね。

「〇穀米」のような雑穀や、もち麦など、お米に混ぜて炊くような商品もよく見かけますが、そういうものを利用しても食物繊維をとれますか?

もちろんです。そうすることで、1食で2~3g程度の食物繊維がとれますので、3食のうちの2食くらい“色のついた穀物”を取り入れるとよいと思います。

さっそく試してみたいと思います!
ほかに何かおすすめの食材はありますか?

優秀なのは豆類ですね。野菜なら根菜類がおすすめです。
食物繊維をとるためにサラダを食べる方も多いようですが、水分の多い生野菜よりも水分の少ない根菜類の方が、効率よく食物繊維をとることができます。あとは海藻類もいいですね。
基本的に、これらはすべて腸内細菌のエサになる食材です。

腸内環境を整えるというと、発酵食品も思い浮かぶのですが。

そうですね。発酵食品に含まれる菌が補給されることで、腸内環境を整えるのに役立ちます。ただ、発酵食品に含まれる菌は大腸に定着するわけではなく、そのまま大腸を通過してしまいます。

えっ!そうなんですか⁉ 発酵食品に含まれる菌がお腹に住み着いて、腸内環境をよくしてくれるのだと思っていました!

発酵食品なら、定期的に食べるとよいですね。含まれる菌がいつも通過することになり、腸内環境の改善の助けになるからです。
発酵食品で多数を占める菌は数種類程度ですが、大腸の中には1,000種類の菌がいますので、もともと大腸の中にいる菌を元気にすることも重要ではないかと思います。

最近、スーパーなどで「発酵性食物繊維」や「レジスタントスターチ」という言葉が表示されている食品を見かけたのですが、これらはどういうものなのですか?

「発酵性食物繊維」とは、腸内細菌のエサになる食物繊維のことをいいます。

先ほど、水溶性食物繊維が腸内細菌のエサになると伺いましたが、つまり“発酵性食物繊維=水溶性食物繊維”…ということですか?

それが、発酵性食物繊維と水溶性食物繊維はイコールではないんです。腸内細菌が利用できる(=エサになる)ものは全て発酵性食物繊維とよばれ、その中には水溶性食物繊維ではないけれど腸内細菌が利用できる成分もあります。それを「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」といいます。“レジスタント”というのは“抵抗する”という意味です。消化に抵抗する…ということで、その名前がつけられました。

水溶性食物繊維以外にも、消化されずに腸内細菌のエサになるものがあるんですね!そのレジスタントスターチというのはどんな食品に含まれているのですか?

一番多いのはインゲン豆などの豆類ですね。あとは、冷めたごはんやパスタ、ジャガイモも調理したものを冷ますとレジスタントスターチがかなり増えますね。

「冷ます」というのがポイントなのですね?

そうですね。米などに含まれるデンプンには、水を加えて加熱すると糊(のり)状になる性質があります。それを冷ますと、“老化”といって次第に粘りがなくなり固くなります。その老化したデンプンにレジスタントスターチが含まれるのです。

なるほど。ごはんなら炊き立てよりも冷やご飯の方がレジスタントスターチが多く含まれているということですね。

だからといって、冷やご飯がおすすめかというと、そういうわけではありません。そもそも穀物をしっかり食べることで、食物繊維を十分にとることができるからです。豆類などにはもともとレジスタントスターチが含まれているので、あえて冷やご飯を食べようとしなくても、豆類などからとってもらえばよいと思います。

腸内環境を整えるために、食事以外で何か有効なことはありますか?

まず、朝起きたらしっかり朝食をとるという生活リズムが大事ですね。朝起きて太陽の光を浴び、朝食をとることで体内時計がリセットされ、腸も朝であることを認識し動き出します。生活リズムが乱れてしまうと、腸が動き出す時間もずれ、消化・吸収にも影響を及ぼしてしまいます。そういう意味でも、朝食抜きはNGです!
他には、過度なストレスや、“腸の冷え”も腸が動きにくくなる原因になるんですよ。例えば、ウエスト部分を強くしめつけてしまうとか、夏場に冷房の効いた部屋にずっといるとか、入浴時にお湯につからずにシャワーだけで済ませたりとか…。「停滞腸」というのですが、そういう行動によって腸が冷えて、腸の動きが悪くなってしまうのです。

太ってしまったからといって、きつい服を無理やり着たりするのは腸にとってよくないんですね(苦笑)

長時間だとよくないですね。家ではゆったりした服でリラックスすることも大事です。

最後に、ご専門家のお立場から、腸の健康についての最近のトピックスや読者のみなさまへのメッセージなどをお願いします!

最近では、「脳腸相関」といって、腸の調子が脳機能にも影響することが明らかにされ、“うつ”や認知症などにも腸内細菌が関わっている可能性が指摘されています。高齢化が進む中、そういう意味でも腸内細菌叢をよい状態に保てるように食事を見直すことが大事なのではないかと思っています。
先ほどもお話ししたように、日本人は食物繊維が不足しています。まずは主食をしっかり食べ、副菜で豆や根菜、海藻などの食物繊維の多い食材を使うようにするなど、意識して食物繊維をとるようにするとよいと思います。

貴重なお話しをありがとうございました!腸内細菌が私たちの健康と密接に関わっていることがよく分かりました。腸内細菌が住みやすい環境をつくれるように、食事や生活習慣を見直していきたいと思います。

ママの腸内環境が生まれてきた赤ちゃんの健康を左右する…⁉

出産を予定している女性にとって、腸内環境の改善が特に重要だということをご存じですか?

【理由①】 ママの腸内細菌叢が赤ちゃんに受け継がれるから!

お母さんの腸内細菌はお腹の赤ちゃんが産道を通るときや授乳のときなどに移り、赤ちゃんの腸内細菌叢として定着します。実際、お母さんが妊娠中に食物繊維をほとんどとらないような食事をしたところ、もともといた腸内細菌の7割ほどがいなくなり、その腸内細菌叢が子どもに受け継がれたということが実験でも明らかにされています。

【理由②】 ママの腸内環境は、赤ちゃんが生まれた後の生活習慣病に影響するから!

腸内細菌によってつくられた短鎖脂肪酸は胎児にも届けられ、生まれた後の生活習慣病予防につながることが分かっています。

お腹の赤ちゃんのためにも、食物繊維をしっかりとるようにしましょう!

監修

大妻女子大学 家政学部 教授/日本食物繊維学会 理事長
青江 誠一郎(あおえ せいいちろう) 先生

腸内細菌叢の改善を介した生活習慣病予防などについて研究。
日本栄養・食糧学会 評議員、日本栄養改善学会 評議員 など。
2007年 日本栄養改善学会学会賞受賞
2008年 日本酪農科学会学会賞受賞
2010年 日本食物繊維学会学会賞受賞
2022年 日本栄養・食糧学会学会賞受賞