特別企画

食物繊維で腸から“げんきだもん!” その② 人間と共に生きる、腸内細菌

最近、“腸活”という言葉をよく聞きますよね。腸活とは、腸内環境をよくするための活動のこと。なんでも、腸をよい状態に保つといろいろな“健康にいい効果”が期待できるのだとか。特に、食べ物にふくまれる食物繊維は腸内環境と深い関わりがあるのだそう…!

そこで今回は、①食物繊維にはどのような健康効果があるのか?腸内細菌はどのように私たちの健康に関わっているのか?腸内環境をよくするにはどんな食生活を心がければよいのか? について、食物繊維研究の第一人者である大妻女子大学教授の青江誠一郎先生に教えていただきました!

「その① 食物繊維のスゴイパワー!?」はこちらからご覧ください

次に、腸内細菌についてお聞きしたいと思います。
例えば、けがをしたときに傷口を消毒するのは、からだの中に菌が入り込まないようにするためだと思うのですが……腸の中には菌がいても大丈夫なんですか?

たしかに、体の中に菌が入ってはいけません。でも、実は腸の中というのは“からだの中”ではないんですよ。

えっ!? 腸の中がからだの中じゃないって、どういうことですか?

人間の口から肛門まで(消化管)は、一本の管でつながっています。その管の中は、外と通じてますよね? だから、からだの内側にあるけど、“外”なんです。からだの外である腸に細菌がいるからといって人間にとって害になることはありません。

ちなみに、お腹の中の赤ちゃんの腸内は無菌です。しかし、お母さんの産道を通った時に、赤ちゃんのからだにお母さんの腸内細菌が入り込みます。また、母乳を飲んだりすることで外から色々な菌が入ってきて、赤ちゃんの腸内細菌叢が定着していくんです。一度定着した腸内細菌叢はそれでほぼ固定されるんですよ。

腸内細菌の中には「善玉菌」と「悪玉菌」がいるっていいますよね。名前から考えて悪玉菌=悪い菌だと思うんですが、悪い菌ならいない方がよいのではないですか?

「善玉」や「悪玉」というのは、あくまで人間側が決めたものです。腸内細菌叢は「腸内フローラ」ともいわれます。“フローラ”というのは“お花畑”のことです。お花畑に色々な花が咲いているように、腸の中にはいろんな菌が存在しているんです。

その中には、人間にとってよい働きをする菌(善玉菌)もいれば、悪い働きをする菌(悪玉菌)もいます。ただ、それらの占有率(善玉菌が優勢か、悪玉菌が優勢か)が違うということです。例えば腸内環境を改善したいとき、腸内の特定の菌だけを減らしたり増やしたりすることはできず、善玉菌・悪玉菌の占有率のバランスを変えるしかありません。善玉菌を少し優勢にすれば、悪玉菌は少し居場所がなくなり、悪さをしにくくなる…というような感じです。

悪玉菌というのは人間にとっては完全に“悪”なんですか…? 何かちょっとくらい良いところもあるのでは…?

基本的に、悪玉菌は人間にとって有害な毒素を出すんです。そのため、悪玉菌自体が人間にとって有益な働きをすることはありませんが、中には「日和見菌」とよばれる、腸内環境がよければ有益な物質を出し、悪ければ有害な物質を出す菌もいるんですよ。

実際に、腸の中にはどのくらいの菌がいるんですか?

1,000種類、40兆個の腸内細菌がいるといわれています。

そ、そんなにいるんですか…⁉ 1人の人間のお腹の中に、世界の人口(およそ80憶)よりたくさんの菌がいるとは…ビックリです!
そのたくさんの菌たちは、健康にどのように役立っているのでしょうか。

善玉菌といわれる菌は、短鎖脂肪酸という酸を出します。その酸が健康に役立つのです。例えば、体内に吸収された短鎖脂肪酸は、エネルギー消費の増加血糖のコントロール脂肪燃焼など、生活習慣病予防に有益に働きます。また、短鎖脂肪酸は大腸内でもはたらき、大腸がんをおさえたり、免疫を活性化させたりしてくれます。
さらに、悪玉菌は酸に弱いという性質があります。善玉菌が酸を出すことによって、悪玉菌の働きをおさえることにもつながります。

腸内環境を整えることで、からだ全体によい影響があるということですね。

そういうことです。

お話しを伺っていて、人間と腸内細菌の関係は、なんだかクマノミとイソギンチャクの共生関係()に似ているなと思いました…!

クマノミという魚は毒のあるイソギンチャクの触手に耐性があり、イソギンチャクに隠れることで敵から身を守ります。一方、イソギンチャクはクマノミが近くを泳ぐことで、新鮮な海水を送ってもらうことができます。
このように2種類の生物が互いに利益を受けながら生きることを「共生」といいます。

人間が食べたものが腸内細菌のエサとなり、腸内細菌は短鎖脂肪酸など人間に有益な物質を出していることから、腸内細菌は人間と共生しているといえますね。最近では、腸内細菌が人間の意思をコントロールしている可能性も指摘されているんですよ。例えば、ある食べ物を無性に食べたくなる…というのも、私たち自身ではなく腸内細菌がそれを食べるように指示を送っている可能性があるのです。

監修

大妻女子大学 家政学部 教授/日本食物繊維学会 理事長
青江 誠一郎(あおえ せいいちろう) 先生

腸内細菌叢の改善を介した生活習慣病予防などについて研究。
日本栄養・食糧学会 評議員、日本栄養改善学会 評議員 など。
2007年 日本栄養改善学会学会賞受賞
2008年 日本酪農科学会学会賞受賞
2010年 日本食物繊維学会学会賞受賞
2022年 日本栄養・食糧学会学会賞受賞