特別企画
食べること、そして話すこと。生きていく上で必要なことであり、また精神的に豊かに暮らしていくためにも大切なことです。今回は、食べる・話すという機能を支えている“お口”の健康のお話しです。
歯の全くない状態から乳歯が生え、永久歯へと生え変わる乳幼児期、受験・就職など生活が不規則になりがちな青年期、お口の悩みも増え始める壮年期、そしてお口の機能が低下してくる高齢期。それぞれのライフステージにおけるお口のケアのポイントについて、大阪大学教授の天野敦雄先生に教えていただきました!
それでは、最後に高齢期の口腔ケアについて教えてください。
まず、70歳を超えると歯磨きが下手になります。70歳になる前から電動歯ブラシを使い始めてください!歯ブラシは“ほうき”で、電動歯ブラシは、“電気掃除機”だと思ってください。電気掃除機なら、誰でも簡単に短時間で綺麗になるでしょ。
例えるなら、70歳を超えてスマホを渡されても困るでしょ?(笑) 60歳の頃から慣れておかないとスマホは使いこなせません。電動歯ブラシも一緒です!
なるほど!
電動歯ブラシを使うんですね!
手が動かない、手が上がらないとなったら、介助の方にお願いすることになるのですが、介助の方も、他人の口は綺麗に磨けません。
入院患者さんの歯磨きを、看護師さんと歯科衛生士さんにやってもらったら、看護師さんであっても歯科衛生士さんにはかなわなかったという研究データがあります。
歯みがきは難しいんです。歯科衛生士さんを毎日連れてくるわけにもいかないので、介助する人も電動歯ブラシを使って、他人の口を磨くことに慣れていただきたいです。
他人の口は見えないから、いっぱい食べかすついてるやん!と思いながらも、こんなもんだろうと適当にやると綺麗になりません。
電動歯ブラシを使って、覗き込みながら丁寧に磨いてあげてほしいです。
ところで、よく耳にする「プラークコントロール」とは、どういう意味ですか?
簡単に言うと、磨き残さない丁寧な歯磨きをしましょう!ということです。
正確に言うと、長い間ついたままになっているプラークを作らない。プラークを取り残して長時間たつと病原性があがってきます。そうならないように、コントロールしましょう!ということです。
磨き残しは、セルフケアでは取れません。歯科医院でのプロによるクリーニングが必要です。定期的に、年2~4回くらい歯医者さんに行くとよいです。
家でのケア、歯科医院でのケア。予防がちゃんと出来ていれば、歯周病にはなりません!歯周病は予防できる病気です。
そうすることで、歯を沢山残すことが出来るのですね!
歯が抜けてしまった場合、その後の治療はどうすればよいのでしょうか?
インプラント、入れ歯、ブリッジなど何がよいですか?
入れ歯は違和感が残ります。1本だけ抜けた場合は、ブリッジでも自分の歯と同じように噛めますが、多くの歯がない場合は、インプラントしかありません。
ただ、インプラントの良くないところは、歯みがきに不熱心な人はインプラントも歯周病になりやすいです。
インプラントそのものは、金属なので腐ったり、むし歯にもなりません。しかし、インプラントを支えている骨は痩せます。骨が痩せ始めるとインプラントの歯周炎の進行は速いです。
歯周病で歯を失くして、歯周病の治療をせずにインプラントを入れる。
これは、土地がぬかるんで家が崩れたのに、そこにまた家を建てるようなものです。
しっかりと歯周病の治療をして、さらにセルフケアができなければ、インプラントを入れてはいけませんよ!!
インプラントを入れたから安心ではなく、その後のケアも大事なのですね。
今までお話を聞いてきましたが、全体を通して、先生が一番伝えたいことを教えてください。
ずばり!! 「患者さんも主治医だよ!!」
患者さんは、痛くなったら先生のところに行ったら治してもらえるやろ!と思っているんですが、それは間違いです。歯は削れば削る程、寿命が短くなります。それに、むし歯と歯周病に完治はありません。一度治っても、油断したら再発します。歯医者は、痛くならないために行くところ。むし歯と歯周病は予防できる病気なんです!!
そのためにも、かかりつけの歯科医院を見つけてください。欧米では、美容院に行くのと同じような感覚で歯医者に行くんですよ。セルフケアとプロケアの両方が大事なんです!
- ●セルフケア:歯ブラシや歯間ブラシを正しく使用
- ●プロケア:定期的な歯科受診(治療と予防)
天野先生、年代別でそれぞれわかりやすく、口の中の健康について教えていただき本当にありがとうございました。
健康で美味しいものを食べ続けたい!食べるのが幸せ(笑)
そのためにも、80歳で20本の歯を残せるよう頑張ります!!
監修
大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授
天野 敦雄(あまの あつお) 先生
1984年 大阪大学歯学部 卒業
1987年 大阪大学歯学部予防歯科学講座 助手
1990年 歯学博士(大阪大学)
1992年 ニューヨーク州立大学歯学部 ポスドク
1997年 大阪大学歯学部 障害者歯科治療部 講師
2000年 大阪大学大学院歯学研究科 先端機器情報学 教授
2011年 大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学 教授
2015年 大阪大学大学院歯学研究科 研究科長・学部長
2021年 日本口腔衛生学会理事長