特別企画

よりよく“いきる、たべる、くらす”ために大切な口の中のお話 その①乳歯から永久歯へのリレー

食べること、そして話すこと。生きていく上で必要なことであり、また精神的に豊かに暮らしていくためにも大切なことです。今回は、食べる・話すという機能を支えている“お口”の健康のお話しです。

歯の全くない状態から乳歯が生え、永久歯へと生え変わる乳幼児期、受験・就職など生活が不規則になりがちな青年期、お口の悩みも増え始める壮年期、そしてお口の機能が低下してくる高齢期。それぞれのライフステージにおけるお口のケアのポイントについて、大阪大学教授の天野敦雄先生に教えていただきました!

天野 敦雄(あまの あつお) 先生

最初に、乳幼児を含む子どものお口のケア、主に虫歯予防についてお聞きしたいと思います。

子どもが虫歯のない健康なお口を保てるように、おうちの方も子どもの歯みがきを習慣づけようと日々がんばっていると思うんです。ただ、その時に「虫歯になったら歯医者さんで痛い思いをするよ!」と、子どもを脅してしまうようなケースもよくあるのではと思います。子どもは、痛いのはイヤだからと歯をみがくかもしれませんが、それによって「歯医者=痛いところ・行きたくないところ」のようなネガティブイメージができあがってしまうのもよくないんじゃないかな、と……。

子どもがポジティブなモチベーションをもって歯みがきを習慣づけられるようにするには、どういうアプローチがよいのでしょうか。

子どもに歯が生えてくると、おうちの方は「虫歯にならないように、とにかく歯をみがかなくちゃ!」と思ってしまいがちです。でも、実は、虫歯予防に最も効果的なのは“歯をみがくこと”ではないんです。

えっ!いきなり意外なお答えでビックリです。虫歯予防には“1に歯みがき、2に歯みがき”だと思っていました…!

虫歯予防に最も効果的だと科学的に証明されているのは、フッ素を含む化合物である“フッ化物”が入った歯みがき粉です。そして、2番目に効果的なのが、食習慣。具体的には、甘いものを食べないこと、それから食事の間隔を一定にする(=ダラダラ食べ続けない)ことです。歯をみがくことはその次、3番目なんですよ。

とはいえ、歯をみがくことはもちろん大事です。おうちの方にしてほしいのは、子どもの歯をみがこうとするよりも、歯みがきをする人のモデルになることです。子どもはその姿を見て「なんか楽しそうやな」と、マネをします。そして、歯ブラシを口に入れることを怖いと思わなくなります。
歯みがきを自分で口に入れるようになったら今度は「気持ちよくしようね」といってみがいてあげるんです。“きれいにする”ではなく“気持ちよくする”というのがポイントです。そして、最後に「きれいになったねぇ~!もうピッカピカ!」と褒めてあげるのが大切です。

なるほど。“きれいにする”ではなく“気持ちよくする”という視点は目からウロコでした…!子どもも歯をみがくことが楽しくなりそうですね。
ところで、2番目の“食事の間隔を一定にする”ですが、ダラダラ食べ続けるのはなぜいけないのですか?

虫歯のリスクは食べ物が口に入っている時間で決まるからです。たとえ1回に食べる量が少なかったとしても、食べる回数が多ければその分虫歯になりやすくなるということです。ですから、おやつなど、ダラダラと食べ続けることのないようにおうちの方にはしっかり管理していただきたいと思います。

キシリトール入りのタブレットやガムなど、歯の健康効果を謳った商品が市販されていますが、それらは虫歯予防やお口のケアに有効なのでしょうか。

キシリトールにも虫歯予防効果はありますので、お子さんが好きならキシリトールの入った商品を利用するのもよいと思います。でも、虫歯予防効果の高さでいえば、フッ化物には到底かないません。歯医者さんで塗布してもらえるフッ化物は濃度が高い分、効果もありますが、自宅でフッ化物を含んだ歯磨き粉を利用するのもおすすめです。

ちなみに、まだ歯が生えていない赤ちゃんのお口のケアはどんなことをすればよいのでしょうか。

何もしなくていいです(笑)。なぜかというと、赤ちゃんは「ここまで出すか!」というほど唾液を出すからです。唾液には抗菌物質が入っているため、赤ちゃんの口の中は自浄作用で勝手にきれいになってくれるんです。

親の虫歯菌が子どもに移るから、子どもにチューをしたり、同じ食器を使ったりしてはいけないと言われています。以前は大人がかみ砕いた食べ物を子どもに食べさせることもあったと聞きますが…、虫歯菌というのは親から子へ移るものなのですか?

はい、親の口の中にいる虫歯菌が子どもの口に移ってすみつくことは以前から知られています。ですから、大人が自分の口でかみ砕いた食べ物を子どもに食べさせるなんて、子どもに虫歯菌をごっそりあげることになるので論外ですね(笑)。

ただ、虫歯菌が移るからと過剰に対策する必要もありません。なぜなら、コロナの経験からもご理解いただけると思いますが、虫歯菌も指から感染するんです。指には自分の唾液がけっこうついています。その指で触ったものには、菌がつきます。一方、乳幼児は、なんでも舐めてしまいますよね。

親の指についていた虫歯菌も、そこから子どもの口に入ってしまうんですね。

そういうことです。親の虫歯菌が子どもに移ることは完全には防げないのです。実際、子どもの口の中には、親、兄弟、おじいちゃん、おばあちゃん、友達……いろんな人に由来する菌がいることが分かっています。だから、虫歯菌が移らないようにすることよりも、虫歯を発症させないことの方が大切です。虫歯は確実に予防できる病気なんです。小さいうちは食習慣に気をつけて、無理のない範囲でフッ化物入りの歯みがき粉を使って歯みがきをする―これだけで十分虫歯は防げます。

もしも乳歯が虫歯になってしまったとしても、その歯はそのうち抜けて永久歯に生え変わりますよね。乳歯の時に歯の状態がよくなくても、永久歯になった時点でリセットされるのではないか?と思うのですが、そのあたりはどうなんでしょうか?

乳歯の虫歯がよくない理由は3つあります。1つ目は、乳歯がちょっとでも虫歯になると、そこが虫歯菌のすみかになってしまうことです。そのうち乳歯が抜けて永久歯が生えてきますが、そこにはたくさんの虫歯菌がいるわけです。汚れたドブの中に「こんにちは~!」って顔を出してくる永久歯くん、かわいそうでしょ(笑)。2つ目は、虫歯になることによって乳歯のかみ合わせが悪くなってくることです。かみ合わせが悪くなると、あごの形が変わってきて、上手にかめないということにつながります。3つ目は、乳歯が虫歯になって抜けてしまったりすると、歯並びが悪くなるということです。その歯並びは永久歯にも引き継がれてしまいます。

これらの理由から、乳歯だからといって虫歯を放っておくのは絶対NGです!乳歯から永久歯への生え変わりは“リセット”ではなく“リレー”です。乳歯が虫歯になったらしっかりと治療をして、永久歯が生える頃には虫歯のないきれいな状態にしておかなければいけないのです。

天野 敦雄(あまの あつお) 先生

ロウソクの火を吹き消せない⁉ “お口ぽかん”の子どもが急増中

最近、子どもを中心に、口まわりの筋肉が弱いために日常的に口が開いてしまう“お口ぽかん(口唇閉鎖不全症)”がとても問題になっています。あるデータによると、3歳では2割弱、12歳では4割近くが口を開けているのだそうですが、私の肌感覚では、もっと増えているように感じています。「口笛を吹く」「誕生日ケーキのロウソクの火を吹き消す」などができない子どもがとても多いのです。

“お口ぽかん”の子どもは「噛む」「話す」などのお口の機能の発達が十分でないまま大人になってしまいます。また、“お口ぽかん”では口腔内細菌叢の状態が悪くなってしまい、歯肉炎、歯周炎、口臭などの原因にもなります。

かむ力を鍛えるためには、かみごたえのある食べ物を食事に取り入れることが大切です。また、フーセンガムもおすすめです。フーセンガムでは、かむこととあわせて、風船を膨らませるという動作によって、口や舌の筋肉の発達を助けてくれます。

監修

大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授
天野 敦雄(あまの あつお) 先生

1984年 大阪大学歯学部 卒業
1987年 大阪大学歯学部予防歯科学講座 助手
1990年 歯学博士(大阪大学)
1992年 ニューヨーク州立大学歯学部 ポスドク
1997年 大阪大学歯学部 障害者歯科治療部 講師
2000年 大阪大学大学院歯学研究科 先端機器情報学 教授
2011年 大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学 教授
2015年 大阪大学大学院歯学研究科 研究科長・学部長
2021年 日本口腔衛生学会理事長