スポーツ食育インタビュー

今回は、フリーランスのストレングス&コンディショニングコーチとしてご活躍されている岡田千詠子さんに、トレーナーの立場から考える食事と生活習慣についてお話をおうかがいしました。

できなくても大丈夫!成長のタイミングに合わせて楽しんで運動すればいい

「小さい頃から運動は得意でしたか?」

「実は、生まれた時は1,700gほどしかない未熟児でした。特別扱いされるほどではないけれど、幼少期は小っちゃくて細くて、運動ができない子でした。友達や兄弟と外遊びなどいっぱい運動はしてきましたが、母は内心心配していたと思います。小学2年生までは足も遅くて運動全般ダメで、体育の成績は悪かったです。」

「運動能力が上がったのはいつからですか?」

「小学4年生からバレーボールチームに入りましたが最初は一番下手で、みんながやっている練習も、先生から私だけ少しで良いと言われてしまうほど。私自身も、それに甘んじてあまり熱心にしていませんでした。ただその頃から身体が第二次成長期に入り成長スパートが早く、ぐんぐん背が伸びチームで一番高くなりました。バレーボールは背が高いととても有利で、それから戦力として使ってもらえるようになりました。そのタイミングで運動能力も一気に伸び、体育でも一番良い成績が取れるようになりました。特に何かしたわけではなく、子どもの時に外でよく遊んでいたのが後に活きてきたのかなっていう感じでした。」

「小学高学年くらいから運動神経が急によくなるケースは、たまに聞きますね。」

「そうですね。成長曲線のピークなど、定型はあっても個人差があります。」

「ご自身の経験で、運動に自信がない子に夢や希望を与えられる指導ができそうですね。」

「そうですね。とにかくできない事に対してそれをすごく背負い込んじゃってやろうとしなかったり、あきらめちゃったりする子が多い。だから“できなくても大丈夫!”をモットーに、楽しんでやればいいと指導しています。鉄棒ができなくても今やれる事ができればそれで良いし、楽しんでやっていくと体は素直に反応するのでできるようになります。“早く走れ”という前に、その子の成長のタイミングに合わせて筋力をつけたりパワーをつけたりしてからでないと。ゆっくりで良いんです。」

「陸上競技よりも球技が得意だったり、スピードは遅いけど持久走は得意というように、自分に合う競技がすぐ見つかればよいのですが」

「学校の運動会やマラソン大会では、速く走ることで評価がつきますが、何かを上手にする器用性やコントロールする能力などは評価されづらいんです。私の小学3年生の娘は足はそんなに早くないのですが、なわとびやキャッチボールなどのボール扱い、バッティングをさせたらすごく上手です。でも運動会やマラソン大会で活躍するわけでもなく、跳び箱も高いのを飛べないから、体育での評価が付きにくく、運動神経がいいとは言われません。そういう特性の分析をして、その子の得意分野に合った競技をさせるのは“アリ”だと思います。一方で、私がみている小学6年の柔道をしている子は、体が小さくケガもしがち、メンタル的にも優しくて、実際のところ柔道が合っているとは言いがたいところがあります。親も継続に不安を抱えていましたが、本人は柔道が大好きでずっと頑張って続けている。それを見ていると、単純にシステマティックに判断するのもどうなのかなって思ったりもします。その子が今苦労してやってる事は、後の人生にきっといきてくると思うと全然ムダにはならない。親御さんにとっては、競技スポーツとして取り組むのに、犠牲にするものも多いですし、心配してしまう気持ちはよくわかります。しかし、私たち大人が理屈で口を出し過ぎてはいけないなと思っています。」

「子どもが成長期に運動することは、技術の向上だけじゃなく、身長を伸ばすためや、丈夫な身体・体力づくりなど健康のためにも良い効果はたくさんありますよね。」

「そうですね。健康になるし、野球やサッカーなど色々なスポーツができれば選択肢も広がり、大人になっても生涯できるスポーツを楽しめるから、色々な事を経験するのもすごく良い事だと思います。」

「トップ選手になれる方は一部ですし、選手になるだけが選択肢じゃないですものね。」

わが家の家族は「ほめ上手」!「美味しい」の声がはげみになる

「ご自身のご家庭の食生活、生活習慣を教えてください。」

「実家は両親共働きで、幼い頃からよく祖母が自家栽培したお米やお茶、野菜などで料理を作ってくれました。父や祖父は昔ながらの人だったので厳しく、静かな食卓でした。だから結婚して夫の家族と食事をした際、みんなが『すごく美味しいね!』と料理をほめたりしながらだんらんするのを見て、カルチャーショックでした。とても素晴らしいと感じ、食卓はこうあるべきだと思いました。義父はスーパーで野菜や果物の仕事をしていたので、美味しい物を探してきて調理するのが得意。義母は野菜をたくさん食べさせたい方で、ケーキなど甘い物を食べた後にお漬物やサラダ、野菜のおひたしを出してくれるのですが、デザートの後に何気なく置かれてあると食べたくなり箸が進みます。すごい作戦だなと感心しました(笑)。夫の実家は食への意識が高く、わが家もそうなりたいと思って頑張っています。」

「今のご自身の家庭では、だんらんしながら楽しく食べるようにされているのですね。」

「そうです。夫がよく『美味しい』と言うせいか、子どもたちも『お弁当美味しかった!』『最高だったよ!』『ママのご飯が最高だな、一番おいしい!』とほめ上手。そう言われると大変だけど頑張って作ろう!という気になります。逆に、そう言ってくれなきゃやる気にならない。手の込んだお弁当は作れないけれど、美味しい美味しいって言ってくれるのはすごくはげみになり嬉しいです。」

「それは素敵ですね。ご主人や祖父母と過ごされるうちに、お子さんたちも食への関心が高まり、感謝の言葉が自然と出るようになられて。やはり周りの大人の影響力は大きいですね。」

「身についた習慣ですね。ご家庭を大事にされてきた結果ですよ。育児期のその時にしかできない事、自分にしか出来ない役割を果たされたからだと思います。ご家庭のために仕事にいったん区切りをつけて家事育児に専念されるという大きな決断をされたこと、それがあったからこそ今があるのではないでしょうか。」

トレーニングでケガを減らしたい!反対を押しきりストレングスコーチの道へ

「トレーナーになろうと思ったキッカケは?」

「小学高学年で身長が急に伸びた頃、それまでバレーボールは6人制のローテーションで、1プレイごとにポジション移動がありましたが、ローテーションしないルールに変わりました。エースポジションはその位置でずっと打ち続ける事になり、すごく負担がかかる。そのため、小学校のころから、ケガが多かったです。中学・高校に行ってもケガばかりで、腰痛や膝の半月板の手術や両薬指骨折など、高校での部活期間2年3ヶ月の半分程度しか活動できずにモヤモヤしていました。小・中・高とずっとキャプテンで、人に指示する立場なのに自分がやれなかったことが悔しくて。どうしてこうなっちゃったんだろう、ストレッチだってすごく一生懸命やってるし、手を抜いて練習をやってたわけでもないし、やれる事は全力でやってきたのに。なぜ自分がこんなにケガをするのか疑問で、その原因を探るために勉強したいと思いアスレティックトレーナーの専門学校に行く事にしました。そしてケガをしないためにはどうしたらいいのかを考えるうちにトレーニングの重要性を感じ、もっと勉強したいという思いで東海大学のサポートスタッフに入り、そこから森永製菓㈱ウイダートレーニング・ラボを紹介を受け、そちらのトレーニング施設でストレングス&コンディショニングコーチとして働くことになりました。」

「学生の頃から、スポーツに関係する職業に就きたいと思っていましたか?」

「そうですね。その時も今も変わらないんですが、自分はトップの選手をみたいわけではなく、自分のように誰に相談していいかわからない、どこの病院に行っていいのかわからないような一般のジュニアたちの力になりたいという気持ちがすごくありました。でも最初の職場はトップ選手の指導が多く、一般レベルの子どもを指導する機会はそうありませんでした。それでトップ選手の話を聞いていると、子どもの頃にケガが少ない傾向があり、『やっぱりケガをしない選手が強いんだ』と確信しました。そういう経験を経て一時休業し、今子育てしながら仕事復帰したこのタイミングで、ジュニアの指導をしています。」

「学生の時には、トレーナーという職業をご存知でしたか?」

「アスレティックトレーナーは知っていましたが、強化専門のストレングスコーチの存在はまだ知りませんでした。専門学校でストレングスの教科があり、そういう道もあるんだと。ストレングスをやりたいと先生に話したら『女性だしお前には絶対無理だ』と大反対。実技の授業で使用するタオルに可愛い柄のものを持っていったら、『そのタオルでトレーニングするのか!』と注意されました。それでも、『なんで反対されなきゃいけないんですか?』と思い、自分の考えは変えず前に進みました。今でも可愛いタオルを持って指導しにいくので、スタイルは変えていません。その後の職場はすごく人に恵まれて、上司からは『男とか女とか関係ないからどんどんやれ』と育ててもらえました。

中食も外食も選び方次第!状況に応じてできるサポートを考える

「今の子どもの食生活で、気になることはありますか?」

「家庭によって差があると感じています。パンのようなものを口にくわえながら保育園に登園する子がいたり、温かいお茶が飲めなかったり。遊びに来た娘のお友達に温かいお茶を出したら『温かいお茶を飲んだ事がないからこわくて飲めない』と言われ、おどろきました。地元の静岡はお茶の産地で、温かいお茶はどの家庭でも飲むものと思っていましたが、そうでないご家庭もあると知りました。食事はちゃんとしていても、飲み物はペットボトルなのかもしれない。何が良い悪いというのではなく、家庭により違うんだと。」

「食の意識の差は大きいですね。」

「働きながらごはんの準備をするのは、すごく負担です。私も子どものためにやらなきゃと頑張りますが、それでも外食が多い方だと思います。そこは悩むというか、へこんだりする事もあります。最近では様々な調査から“食生活の乱れが体力の低下に結びついている”とか“生活の乱れもパフォーマンスに関わる“と言われていて、確かにそうだと思います。ただ、食生活の乱れに“中食※1が増えていること”を指摘しているところは、今の自分の環境を否定された感じがして、ちょっと辛いですね。多くの小学校で調査した結果をもとにしていますが、国を挙げて女性の社会進出を支援し、保育園を増やしているこの時代に、中食の否定は現実的ではないと思います。確かに中食も外食も推奨(すいしょう)されるものではないかもしれません。でも母親が働いている家の子はアスリートになれないのではなく、現実的には今の環境の中でどう上手く食事ができるのかを考え、教える必要があると思うんです。そんな時、私がパーソナル指導している三木つばき選手(静岡県掛川市出身のアルペンスノーボーダー/全日本スキー連盟ナショナルチーム強化指定Uチーム)のお母さんも仕事をしながら子どものサポートもされているすごく忙しい方ですが、『そんな事は気にしなくていいですよ!外食をうまく使えば大丈夫だから』と言ってくださって。それで外食するにしてもコンビニを使うにしても、選び方次第だなっていう考え方に変わりました。」
※1 中食(なかしょく)・・・総菜やコンビニ弁当などの調理済み食品を自宅で食べること。

「そうですね。確かに“食”に関してはいろいろな考え方があります。まずは、食生活と体力の関係について、関心が寄せられることはとても良いことだと思います。ただ、理想を求め過ぎていると逆に食事がおろそかになってしまうこともあるように思います。ある程度のところで“今の妥協点”のような“落としどころ”を見つけるのも大事かと思います。以前、私が関わったある競技の学生代表の真面目な女子選手が、一人暮らしを始めたときに“自炊”にこだわり過ぎて食事が摂れなくなっていたことがありました。その時にその選手と話したことは“落としどころ”でした。新しい生活に慣れてきて、時間的にも精神的にもゆとりが出来てきたら少しずつ理想の自炊生活をすることにして、それまではご飯を炊くだけでおかずはお弁当屋で調達、または非常食の整理に缶詰を主菜にするなどでも全く問題ないということです。』

「ご自身のお子さんに、これだけは気をつけてあげたいと思う食生活でのポイントはありますか?」

「栄養士ではないので細かい計算は出来ませんが、ごはんとメインのおかずと野菜がある、そのバランスをわかってくれれば良いなと思っています。野菜が少ない時に『足りない』と気づき、コンビニに行っても自分で栄養のバランスを考えて選べるようになれば一安心です。」

「“食の自立”はコンビニやファストフード店での選び方がスタートともいえるような気がしています。もちろん、コンビニやファストフード店に頼らない食生活が送れれば一番良いのかもしれませんが、その環境の中でどのようにすればより良いものになるかを自分で考えたり、選択できることが大事だと思います。そう考えると、岡田さんのお子さんへの対応は素晴らしいと思います。」

「大人になった時に困らないように、ですね。」

「そうですね。留学経験者の知人の話で、親から“留学の条件は自炊、料理がちゃんとできる事”だと言われたそうです。自炊できないまま外国で一人暮らしを始めるのはすごく心配だから、自炊できるようになってから留学すれば最低限食べる事はできると。うちもそうなって欲しいなと思いました。」

「日本にいる間に自炊ができたら留学して良いという親御さんの条件、深い意味があり素敵です。本来の食育は、知識だけでなく実践も含めてできるのが理想ですね。」

「男女平等の社会進出では、男性でも料理や家事を女性と同じようにやれるようになる必要がありますね。」

「料理が作れないなら、せめて買うものは自分の身体のためを考えてしっかり選択できるよう、幼い頃からそういう知識も備えていきたいですね。」

「その通りだと思います。まずは“バランスのとれた食事”のイメージが出来ること。次に、足りないものを調達できる力をつけること。そして、“調達する力”が“作って調達”になるのを到達目標にしていけば、食事や栄養に関して柔軟な考え方が身に付くと思います」

取材日:2018年7月25日

選手&チームのご紹介

岡田 千詠子(おかだ ちえこ)さん

ストレングス&コンディショニングコーチ
所属:NSCA(National Strength And Conditioning Association)-CPT,*D,
2001 年よりS&C コーチとして、(株)森永製菓ウイダー・トレーニングラボにてオリンピア、プロ、学生選手の指導を行う。2007年結婚、2008年森永との契約を終え、2009年第一子出産、2010年第二子出産、2011年よりフリーランスとして、静岡県袋井市を中心に活動再開。子ども~学生選手といった育成を必要とするボトム層の指導、普及に力を入れる。現在は学生選手へのS&C指導と、3歳から9歳までを対象とした子どもへコンディショニングの基礎となる運動教室(アスリートクラブ)を主宰。
NSCA ジャパンでは東海地域アシスタントディレクター、女性S&C 委員⾧、認定検定員を兼任し、会員の実践力向上のため、講義などを中心に活動中。