ストレングス&コンディショニングコーチとして活躍している岡田千詠子さんに、気になる成長期の栄養や基礎トレーニングなどのお話をおうかがいしました。

成長期のジュニアは身長・体重の管理が必須!幼い頃から筋力をつける生活を

「ジュニア選手は成長期でコンディションに変動が多い時期だと思いますが、どこに気をつけて指導されていますか?」

「体重が減ったり止まってたりしている場合は、食事量が足りていないと思います。パーソナル指導している選手や自分の子に関しては、身長と体重曲線をチェックしています。身長曲線がちゃんとキレイに出るようにするには、体重が足踏みしている状況を作っちゃいけないと思うので、体重はこまめに測ってもらいます。
スポーツにおけるエネルギー不足の問題をRED-S※1と言い、国際オリンピック委員会がこれについて警鐘を鳴らしています。エネルギー不足によって、女子は月経不順、無月経や骨の問題など様々な問題が起きます(FAT※2)。ジュニア期は特に成長について注意しなくてはいけないため、順天堂大学女性スポーツ研究センターが出している『スラリちゃん、Height!』※3というソフトウェアを使用してチェックしています。女子は身長のピークが来てから半年~2年くらいの間に初潮(初経)が来るので、そのピークが来ないと初潮が来ません。月経(生理)があるという事は、骨密度を上げる重要な役割のあるエストロゲンの分泌も意味します。初潮が遅いと、人生の中で唯一骨密度をグンと上げられる10代~20歳位迄の時期にそのエストロゲンが出る時期が遅くなることから、骨があまり丈夫じゃないアスリートが育つことになります。女子アスリートでは15歳 (一般女子は18歳) をめどに初潮が無い場合、婦人科の受診を進めています。初潮が遅すぎたり、無月経になると骨密度に弊害(へいがい)が出ます。新体操の選手などは食事制限が厳しくて成長ピークや月経が来ないパターンも多く、20歳過ぎてから初潮が来る人もいて、身体にとって相当なハイリスクがあると思います。」
※1 RED-S…スポーツにおける相対的エネルギー不足
※2 FAT(Female Athlete Triad)…女性アスリートの三主徴「摂食障害の有無に関わらない低エナジー・アベイラビリティー」、「機能性視床下部性無月経」、「骨粗鬆症」のこと。
https://www.jpnsport.go.jp/jiss/Portals/0/column/woman/seichoki_handobook_5.pdf
※3 スラリちゃん、Height!…女性アスリートヘルスサポート(FAHS)ソフトウェア
https://www.juntendo.ac.jp/athletes/surari/

「だから疲労骨折なども多いんですね。疲労骨折は、(量も偏りも含め)食事の摂り方も原因の一つと言えることが多いようです。丈夫な骨を作るためには“カルシウム”は欠かせません。牛乳やヨーグルトに含まれている九州のよいカルシウムを意識して摂りましょう。また、カルシウムだけでなく、たんぱく質の一種である“コラーゲン”もしなやかな骨を作るのに欠かせません。そのコラーゲンの生成には“ビタミンC”が不可欠です。そう考えるとやはりバランスのとれた食事を心掛けることの大事さが分かりますね。」

「最近は手足が長く細長い体型の子も多いようですが、ガッチリした体格にするにはどうしたら良いですか?」

「体幹をしっかりさせるトレーニングもありますが、ジュニアに関してはそれ以前に、最低限の筋力がない子がすごく多いんです。最近は、腹筋が弱すぎて床におしりだけつけて足を浮かせられない子がいます。普段の運動、活動不足で筋肉を使っていないせいでできないんです。イス中心の生活や車などの便利な乗り物など、快適な環境のお蔭で筋力を省エネして生活できる世の中になってしまいました。体幹が弱く、猫背のような姿勢の子も見かけます。」

「確かに姿勢が悪い子が多いですよね。しゃがむのが苦手な子も。野球のゴロなど片ひざを立ててしゃがんで取りますが、しゃがまず腰を曲げて二つ折り姿勢で取ろうとする。ひざを曲げる事に慣れていないせいか、しゃがむと後方に転ぶことも。」

「多いです。背もたれにもたれて背筋を伸ばさず座る姿勢の子も多いですね。スクワットの中間の姿勢のことを“アスレティックポジション”と言うのですが、悪い姿勢によって裏もも(ハムストリングス※4)が硬くなってその姿勢が取れなくなるとケガもするし力も出ない。悪い所だらけです。使っていないから使い方がわからないし、柔軟性がないからしゃがめない。アキレス腱や股関節、ハムストリングスなどが小学校高学年くらいから中学生くらいにかけて硬くなってしまうようです。毎年1回、母校で高校1年生を対象にケガ予防の講習会をしますが、身体が硬い子ばかりです。正しいスクワットも腕立て伏せもできない子が多く、大人になったらどうなるのか不安です。こういった柔軟性と筋力不足の新入生は、部活開始から夏にかけてケガに陥るケースが非常に多く、養護の先生と相談して、こういった取り組みをしています。」
※4 ハムストリングス…人間の下肢後面を作る筋肉の総称。

「基礎体力のない子どもが増えているように思います。今は厳しい指導や無理させてはダメという風潮があり、基礎トレ指導もやり辛いのでは?」

「スポーツ庁の運動部活動のガイドライン※5に、中学校の部活時間制限ができましたよね。週2回は休むとか平日は2時間以内とか。それ以前も、中学校では冬は1時間も部活の時間がないとか。その時間内で練習するとなると、ウォーミングアップ・クーリングダウンの時間がまず削られるんです。スキル練習しかしない。身長がどんどん伸びたり、伸び終わって柔軟性を戻さなきゃいけない、維持しなきゃいけないっていう時期に基礎トレをやらないもんだから、本当に最悪な状態で高校に上がることになるんです。」
※5 「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/013_index/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/03/19/1402624_1.pdf

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家でもできる簡単ストレッチ

ウォーミングアップは目的意識を持って!練習後のクーリングダウンも重要

「強度の高い運動をする前には、最低どれくらいウォーミングアップに時間を割くべきですか?」

「選手や競技によっても違うとは思いますが、15分~20分くらいはやって欲しいです。トップ選手では、約1時間かけてアップをする人もいます。トップ選手になると特に繊細(せんさい)な調整力が必要なので、あらゆる部分を目覚めさせておかないと闘えませんから。準備運動、ウォーミングアップはすごく大事です。トップ選手でも全然やっていなかった選手も多いですが、ちゃんと教育を受ければその重要性が理解されます。やれば全然違うと本人も実感するから、継続するのだと思います。部活では学校によって伝統などもあり、ルーティンも色々なパターンがあります。だから押さえて欲しいところを伝えて、ケースバイケースでやってもらっています。」

「練習前のウォーミングアップは、残念ながら流してやっている事が多いように思います。でもケガ予防のためには本当はしっかりやらないと危険ですよね。小さいうちからその大切さを知るべきですね。」

「ウォーミングアップは何のためのものなのか、考えてやって欲しい。関節の可動域を広げるためにやるなら、関節の可動域を十分に使ってやらないと効果はないので、流してやる程度だと意味がないんです。プールや海に行って準備運動なしにいきなり水に入る人がいますが、競技ではあり得ませんよね。結果を出すという目的をハッキリさせて、特にジュニアの選手の時からアスリートだという自覚をしっかりもたせる。自分の身体が資本でやっているわけなので、自分の身体のコントロールやメンテナンスをしっかりできるようにならないといけません。ウォーミングアップは自分の身体をより良くするためにやる、という事を伝えています。」

「ウォーミングアップもクールダウンも選手によって意識の差があるように、実は“栄養補給の意識”も個人差があります。練習の総仕上げのつもりで、しっかりエネルギー補給をする、翌日を見越したいち早い疲労回復のための栄養補給などに育成年代からトップ選手まで意識を持ってもらえるような働きかけも大事だと思っています。食事(栄養補給)はケガ予防だけでなく、パフォーマンスにも大きく影響します。練習の総仕上げともいえる試合はもちろん日々の練習を効率よくするためにも“運動前の食事”が大事です。また、試合や練習後に疲労を翌日に持ちこさないためにもやはり“運動後の食事”が大事です。」

「最後は使った筋肉をちゃんと伸ばして終わる、アイシングするならアイシングする。やるとやらないとではリカバリーなどでも全然違うので、ぜひしっかりやっていただきたいと思います。」

日本のスポーツ科学は遅れている!子どもには適切なフィードバックを

「日本人選手と海外の選手の体格差など、海外と比べて日本はどう違いますか。」

「骨格は日本人の方が小さいかもしれません。米メジャーリーグの経験のある野球選手は、(米国人選手のトレーニングについて)『まずやってるトレーニング内容が違う』と言われています。日本人は適切なトレーニングをしていなくて、身体の大きな外国人は適切なトレーニングをしているんです。適切なS&Cトレーニングをしていれば体格も筋力もパワーも向上させることができます。日本では今でこそ高校の野球部でもウェイトトレーニングをするようになりましたが、どこでもウェイトトレーニングができる環境が揃っているわけではなく、スタートする時期も遅いし適切に教えられるコーチも少ない。日本は遅れています。」

「日本は、スポーツを科学としてとらえるようになった歴史がまだ浅い。根性とか精神論から、ようやくトレーニングを科学的にやるようになってきましたよね。たとえばサプリメントにしても、ソウルオリンピックを目指した頃に輸入品を中心に取り入れられたり、スポーツを支えるトレーニングや栄養など、すべてのことを科学的に考えることがもしかしたら日本は出遅れてたのかもしれませんね。」

「私の先輩方も、その部分が遅れすぎていると長年訴えていらっしゃいます。国が調査している体力テストにしても、毎年全国でただデータを集めているだけ。学校によっても様々ですが、うちの学校の体力テストは4~5月と9~10月にありますが、その結果が返ってくるのが翌年3月の終業式だったことがあります。これだと、有効活用ができません。」

「成長の著しい時期に2回/年実施できるのはよいように思いましたが、フィードバックがないと2回実施しても変化が見にくいですね。」

「せっかくやっているのに、子ども達のためにもなっていない。そこはちゃんと専門家を介入させて、向いている競技を教えてあげるとか弱い部分を補う指導をするとか、その先につなげる指導をするべきです。また肥満の子もさらに増加傾向にあり問題になっているので、肥満の子のためのレッスン案など、調査結果にうまくつなぎ合わせてやれたらいいなと思います。学校によっては私達みたいな専門家を入れてソフトを作り『あなたはこういう競技向いてます』などのフィードバックまでしているところもあるようです。また、ストレッチだけでも体育の授業で正しい方法でちゃんと教えて欲しい。ポイントだけでもやってくれれば、少しは良くなると思います。」

「様々な問題はあると思いますが、小学校でも音楽や図工の専科の先生と同様に、理想的には栄養も含めた専門知識を持った体育専科の先生も必要な時期になってきているのかもしれませんね。」

色々なタイプのトレーナーがいていい。女性トレーナーを増やすことが今の課題

「指導者として、保護者のサポートについてご意見などありますか?」

「私が見ている選手の保護者は全力でサポートする体制で、親としてもいつも色々な事を教えてもらっています。よく勉強されていますし、とても頭が良い。遠征のコーディネーションも全てお母さんがされていて、事務所に所属していない選手のために多額の遠征費用を自ら集めてくる方もいる。本当に万能で素晴らしいと感心しています。」

「トレーナーになって良かったと実感されるのはどんな時ですか?」

「単純に、頼りにしてもらえるのは嬉しい。その積み重ねではありますね。自分と同じような思いをしている子に対応するのも、自分がやりたかった事です。幼少期まで運動ができなかった子に運動ができるようになる方法を教えてあげられるし、ケガをしてしまった子にもトレーニング方法を伝えられる。過去の自分の経験を活かせることに満足しています。」

「トレーナーの男女比はどのくらいなんですか?」

「NSCAの認定者は、女性は3割弱です。勉強会で女性は私1人になるのも珍しくありません。だけど女性のパーソナルトレーナーやストレングスコーチを探しているので紹介して欲しい、という声はよく聞きます。それだけ女性は足りないんです。」

「栄養士の資格を持っていてもそれを使っていない方も多いので、残念ながらそれを仕事として活かしてる方は少数になるのではと感じています。」

「女性の指導者を増やしていくのも私が所属しているNSCAジャパン女性S&C委員会の目標の一つなんですが、みなさんすごい不安を抱えていらっしゃいます。私のセミナーでも、若い女性トレーナーから相談されることがよくあります。将来結婚しても仕事を続けていけるかすごく悩まれている人が多く、周囲に理解がない環境下にいて、女だからとチャンスをもらえなかったりして、大変な思いをされている方もいらっしゃいます。続けられると思いますが、やはり協力的な相手を選ばなきゃいけないですね。女性というのは個性の一つであって、男女の優劣はないと思います。」

「トレーナーを目指す人に、アドバイスをお願いします。」

「気持ちがあれば、誰でもできると思います。色々な人がいて良いと思うんです。例えば美容室はすごくたくさんあり、色々なタイプの美容室、美容師さんがいる。トレーナーもそうであっていいと思うし、その対価もそれぞれで決めるスタイルでいいのでは。パワー系のウェイトを使った指導は苦手でも、ヨガみたいなストレッチ系を教えられるのであれば、それでいいと思うんです。目的に合ったクライアントに、自分の特技やスタイルが活かせる指導ができればいい。乳幼児から後期高齢者までどの年代にも対応できる仕事だと思うので、自分が健康でさえいればおばあちゃんになってもできる仕事だと思います。子育てしながらでも働きやすい仕事だと思うので、もっと女性コーチが増えてくれたらいいなと思います。」

取材日:2018年7月25日

選手&チームのご紹介

岡田 千詠子(おかだ ちえこ)さん

ストレングス&コンディショニングコーチ
所属:NSCA(National Strength And Conditioning Association)-CPT,*D,
2001 年よりS&C コーチとして、(株)森永製菓ウイダー・トレーニングラボにてオリンピア、プロ、学生選手の指導を行う。2007年結婚、2008年森永との契約を終え、2009年第一子出産、2010年第二子出産、2011年よりフリーランスとして、静岡県袋井市を中心に活動再開。子ども~学生選手といった育成を必要とするボトム層の指導、普及に力を入れる。現在は学生選手へのS&C指導と、3歳から9歳までを対象とした子どもへコンディショニングの基礎となる運動教室(アスリートクラブ)を主宰。
NSCA ジャパンでは東海地域アシスタントディレクター、女性S&C 委員⾧、認定検定員を兼任し、会員の実践力向上のため、講義などを中心に活動中。

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