スポーツ食育インタビュー

今回は、2017年3月に開催された、元プロテニスプレーヤー 浅越(あさごえ)しのぶさんによる『テニスクリニック&公開食育インタビュー』にてお話いただいた内容をお伝えします。 テニスプレーヤーとしてWTA自己最高ランキング21位、ダブルス13位、グランドスラムシングルスベスト8、全米オープンテニスシングルスベスト8、全豪オープンテニスダブルスベスト4、日本女子No.1等と実に輝かしいご実績をお持ち浅越さんに公開インタビューを行い、子どものころのお話や、「ごはん」についてうかがいました。

>>テニスクリニックはこちら http://gohagen.jp/special/003/

母の影響で、小4からソフトテニスを始めました

「ジュニアテニスプレーヤーのみなさんに、テニスをご指導いただきありがとうございました。みなさん、クリニックは楽しまれましたでしょうか?(スクール生:「はーい!」) ただ今より、浅越さんにみなさんから事前にいただいた質問も交えながら、お話をうかがっていきたいと思います。管理栄養士の久保田尚子(くぼたひさこ)先生には、スポーツ栄養の観点からコメントお願いします。」 (拍手)

「小さいころはどのようなお子さんでいらっしゃいましたか?活発な印象ですが。」

「そうですね。活発は活発なんですが、あんまり自分の意見も言わずに、大人としゃべるのが苦手で、体育の時間は元気だけど、算数の時間は静かみたいな、そういう幼少期でした(笑)。」

「それは意外ですね(笑)。参加者から、『何歳からテニスを始めましたか?』と質問がありました。」

「小学校4年生の終わりからソフトテニスから始めたのですが、硬式(こうしき)テニスを始めたのは中学1年生からでした。」

「『テニスを始めたきっかけは何ですか?』という質問もいただいています。」

「ソフトテニスは母親がやっていたので、それにちょこちょこ付いていきながら始めました。田舎町の育ちだったので、ソフトテニスを教えていた先生と母親が習っていた先生が一緒で、ジュニアクリニックもすると言われたので、月500円というおどろきの安さ(笑)で通っていました。その日が楽しみで楽しみでしょうがありませんでした。もうどっぷりのめりこんで、レッスン日が唯一の楽しみ。田舎なので、小学校まで歩いて40分かかりました。小さなころからすごく歩いていたんです。それが自分の基礎(きそ)体力になっていたんじゃないかなって、すごく感じています。」

「ソフトテニスをされた時から、並はずれてお上手だったんですか?」

「いや、ソフトテニスはダブルスしかなくて、そうでもありませんでした。県で優勝して、全国大会の1回戦で負けるくらいのレベルだったので、それほど上手いとか、そんなのでは全然なかったんですよ。」

「今日も初めてテニスをしたという方がいましたが、今後のきっかけになれば良いですね。」

「はい、そうなると良いですね。」

子どものときは野菜が苦手…でも、ごはんはたくさん食べました!

「運動するうえで食事も大事だと思いますが、小さいころに好ききらいはありましたか?」

「めちゃくちゃ好ききらいが多い子どもではなかったんですけど、ふつうの子並みには(笑)。たとえばピーマンが苦手とか、煮物があんまり好きじゃないけど食べるみたいな、そういうふつうの子でしたね。特別偏食(へんしょく)があるっていう感じでもなくて。ただ子どものころから、量は結構食べるほうでした。」

「朝、昼、夜、全部しっかり食べられましたか?」

「結構しっかり食べました。うちはお菓子を買ってもらえなかったので、ごはんをたくさん食べておなかを満たすっていう感じでした。」

「ちなみに、朝はパン派、ごはん派、どちらでしたか?」

「朝は、どっちかというとパン派ですかね。ごはんも食べるんですけど、自分はパンが食べたいから。現在でも子どもにはごはんがいいなと思って、ごはんにはおにぎりを作って、自分はパンを食べてます(笑)。」

「小さいころは野菜が苦手でしたか?」

「そうですね。青っぽいものが。今はね、不思議とお野菜も大好きで、煮物も食べますし、苦手なのはセロリくらいですね。セロリ、パクチー、におい系がちょっと苦手で。」

「セロリやパクチーはくせがあるので、苦手な方は多いですね。」

「ピーマンとか、野菜がきらいなお子さんが多いと思うんですけれども、スポーツをする上で、苦手なものはどうしたらいいと思いますか?」

「野菜が全部きらいというのは、やはり問題だとは思うんですけれども、においの強いセロリがダメとか、どうしてもニンジンが食べられないとか、そういうのはおいおい食べられるようになれば良いと思います。
私は普段サッカー選手との関わりが多いのですが、ある選手の話で、ニンジンがどうしてもきらいな選手が、小さいころからそれでも食べられるようになりたいと思い、食べられないかもしれないけど毎月必ずニンジン料理を出して欲しいとお母さんに頼んでいたそうです。食べなくてもあきらめずにニンジン料理を出し続けて下さったお母さんの応援もあって、ついに食べられるようになったそうです。食べられるようになる前は、ニンジンの代わりに似た栄養素が含まれているカボチャで代用していたそうです。多分、食べなければという意識が出てくると食べられるようになるのかな、と思います。 浅越さんが始まりのごあいさつで、『朝ごはん食べてきた?パン2枚食べてきた?』っておっしゃられたのがすごく素敵でした! セロリはダメ、パクチーはダメなんていう小さな問題ではなくて、そうやってしっかり食べることを意識なさっているのがさすがだなと思いました。」

「ありがとうございます。よかった、怒られるかと思いました。」

ひさこ先生の栄養アドバイス

ぜったい守りたい食生活の基本とは、①朝・昼・夕食の最低3食は、しっかり食べる②《食事バランスガイド》のコマをイメージした食事を心掛ける、この二点です。作る方も、食べる方も“バランス”を意識することが大事ですね。

>>食事バランスガイド http://www.maff.go.jp/j/balance_guide/

主食はパンとご飯のどちらが良いか、お悩みの方も多いですが、まず大事なことは、《主食》をしっかり食べることです。朝はパンでないと食欲が出ないという方は、パンでも構いませんし、朝はご飯とみそ汁派という方は、もちろんごはんが良いと思います。ただ、それぞれの特徴を知って、使い分けることが出来るともっと良いかもしれませんね。
たとえば、パンはパンの原料にもバターなど脂質が入っているし、パンに合うおかずは、脂質を使ったものが多いので、“脂質控えめ”にしたいときには注意が必要です。一方、ご飯の場合はバターを使ったおかずも、煮物や納豆など何でも比較的合わせやすいのも大きな長所です。

においが強い野菜が苦手だという浅越さんですが、香りや苦味などが強いものは、食べられなくても特に問題はないと思います。中には大人になると食べられるようになったり、むしろ好きになったりという方もいらっしゃいますね。ただ、『野菜は全部苦手』とか、『大豆製品は豆腐も納豆もきらい!』というようなことは(アレルギーでない限りは)ないように努力しましょう。
『嫌いなものでもいずれ食べられるようになりたい。それまでは“似ているもの”を見つけて、代用しよう!』という意識を持つことは、とても大事です!

テニスをやめたいと、100万回くらい思いました

「硬式テニスをされたのは中学からということですが、軟式(ソフトテニス)との違いで苦労されましたか?」

「そうですね。やっぱりラケットも、ボールの弾み方も、重さも、色々なことで違いはありましたが、ラケットでボールを打つっていうのはほとんど一緒。スイングして当たる瞬間が気持ちいいのは一緒だったので、硬式テニスもすぐのめりこんでいきました。 ただ、硬式を始めた時に通っていた中学が全国大会で優勝するような学校で、そこからがちょっと厳しいテニス人生の始まりでした(笑)。テニスは好きなんだけれど、上下関係とか、がっつり体育会系だったので(笑)。私はその全国優勝するような、先輩には今も現役で頑張られている伊達公子さんとかもいらっしゃった、そんな厳しい状況下に飛び込み、かなりきたえられました。最近のプロ・テニス界の傾向としては、テニスクリニックとかアカデミーとかテニスクラブとかで上達してプロになる場合が結構多く、専属(せんぞく)のコーチをつけてみんな上手になっていきます。私のように学校の部活テニスからプロになった選手というのは、あまり周りにはおらずまれなケースでした。」

「中学のときから、テニスの実力が発揮(はっき)されたのですか?」

「父親に『硬式にはシングルスがあるけどやってみるか』って言われ、やったのがきっかけだったんですね。シングルスは人のせいにもできないし、硬式を始めてみる事にしました。中学から始めて、中学3年生で県大会優勝して、高校3年生で全国大会優勝して、そんな感じですかね。」

「今まで、テニスをやめたいと思ったことはありますか?」

「もう100万回くらいありますね(笑)。」

「挫折(ざせつ)をした時期があったんですか?」

「そうですね。まず中学1年生で寮(りょう)に入ったんですね。親元をはなれて寮生活したので、そこでまず1回挫折しました。」

「ホームシックですか?」

「ホームシックではないんですが、母親から洗濯(せんたく)のしかたとかごはんの作り方とか、何も教わらないまま寮に入ったので苦労しました。これはもう母親のせいだと思ってました。お母様方、気を付けてください(笑)。わが子が可愛いから、何でもやってあげようって思うのはわかるんですけど。今、私の娘は5歳なんですけど、私は極力(きょくりょく)子どもには自分でやりなさいって言って、みそ汁とかを作らせたりしています。」

「すごい。」

「中学1年生からどこかに行っても、困らないようにしとかないといけないなと思うんです。私の母は可愛がってくれてたけれど、世間を知らずに放っぽり出されたので、そっちの方が結果的はツラいじゃないですか。だから、そういう風にならないようにと思ってやっています。」

「浅越さんがテニスに夢中になったのは、何が面白かったのでしょう?」

「ラケットの真ん中にスパンと当たるのが気持ちいいなと思って、それが一番楽しかったです。徐々にレベルが上がるにつれて、試合があって対戦相手に勝ったりするとうれしくて、それでやっぱりどんどん上手になりたいなっていう思いがありましたね。」

ひさこ先生の栄養アドバイス

“作る(≒一緒に料理する、家庭菜園を一緒にする)”ことも好ききらいをなくす方法の一つと言われています。
“自分が一生懸命作ったもの”への愛着を持たせるようにすることも大事です。

取材日:2017年3月29日

選手&チームのご紹介

浅越(あさごえ)しのぶさん

1976年6月28日生まれ(40歳)兵庫県出身。身長170センチ、利き手は右。
1997年デビュー、2006年引退。キャリア自己最高ランキングシングルス21位、日本女子No.1、ダブルス13位。全米オープンテニスシングルスベスト8、全豪オープンテニスダブルスベスト4。

編集部より

後編では、浅越さんが現役時代に何を目指して強くなっていったのか、ご自身の子育ての中で悩んでいることなどをおうかがいしました。また会場からの質問に答えるコーナーもありますので、後編をどうぞお楽しみに!