スポーツ食育インタビュー

女子サッカー日本代表のセンターバックとして2011年FIFA女子ワールドカップ優勝、2012年ロンドン五輪銀メダル、2015年FIFA女子ワールドカップ準優勝に貢献(こうけん)。現所属先リヨンではボランチもこなし、2015-16シーズンでリーグ優勝、カップ戦、チャンピオンズリーグ優勝、MVP獲得、そして本年なでしこJAPAN新主将に指名されるなどの活躍が注目されている熊谷紗希(くまがいさき)選手に、幼少期から学生時代の食生活とサッカーについてお話をうかがいました。

わが家は家族そろって必ずしっかり食べていました。

「子供の頃はどういうお子さんでしたか?」

「あまり家でじっとしている子ではなかったです。(住まいが)北海道で寒いのですが、学校から帰ってきてランドセルを置くと、ずっと外に出てサッカーをして遊んでいました。」

「お兄さんと2人兄弟ですね」

「はい。両親もすごくサッカーが好きで、先に始めた兄の影響でサッカーを始めました。兄がいなかったらサッカーはやっていないと思います。兄にいつもついて行ってました。小学校3年生からクラブに入団しましたが、学校の休み時間もずっとサッカーをしていました。」

「当時は今ほど女子でサッカーをやる子はいなかったのでは?」

「そうですね、最初は一人でした。女子で初めて入部し、部活も15歳までは男子とずっと一緒にやっていました。」

「身長は昔から高かったのですか?よく食べていたのでしょうか?」

「大きかったですね。よく食べてたのは間違いないです(笑)小学生の頃は男子より女子のほうが大きかったり成長が早かったりしますが、中学生になって徐々(じょじょ)に追いつかれ…今までスピードで勝てていたのが勝てなくなりましたが、どうやって勝とうかと考えるようになったので、それも良い経験でした。」

「小さい頃はどういう食生活でしたか?朝昼晩しっかり食べていましたか?」

「わが家は4人(父、母、兄、本人)そろって必ずしっかり食べていました。私はお米が大好きで、今フランスに住んでいますが、フランスでもお米が主食です。パンも美味しいですが、断然お米なんですよね(笑)。」

「子どもの頃で覚えている家庭料理の特長などありますか?」

「食卓の真ん中に大きなメインのお魚かお肉がある。例えばオムレツがあって、手元に納豆、お味噌汁があるという感じ。フランスのリヨンは大きな街で納豆もスーパーに売っているので、今もほぼ毎日食べています。フランスでは“くさい”って言われていますが(苦笑)。」

子供の頃苦手だった牛乳、選手になってからは飲めるように

「乳製品は食べていましたか?」

「ヨーグルトは食べていました。牛乳は苦手で(苦笑)。小学校の高学年くらいから給食でも飲めなくなって、こっそり返してました…誰にもバレていなかったと思います(笑)。」

「低学年の頃はガマンして飲んでいたんでしょうね。高学年になって知恵がついてきて飲まなくなったのかな。」

「そうかもしれません(笑)。食べるものほとんど好き嫌いありません。小さい頃からほとんどなんでも食べられて。なのに牛乳だけはちょっと…なぜですかね?でも今は大丈夫なんです。ちゃんと買って飲むくらい。ただストレートは飲みたくない、色が苦手なのかな。」

「ご両親は無理には飲ませようとしなかったのですか?」

「しませんでした。絶対に飲みなさいとは言われなかった。」

「いつから飲めるように?」

「選手になってからです。飲んでおこうかな、みたいな感覚で。」

「でも体格とかを見ると牛乳を飲んでいた感じはしますよね。」

「みんなにそう言われます(笑)が…飲めなかったんです。」

「好きな食べ物は何ですか?」

「何でも食べますが、今はお肉ですね。焼肉、しゃぶしゃぶ大好きです。フランスではほとんど自炊して食べています。よく食べるのは豚か鶏。フランスには豚の薄切りは売ってないので、自分で薄切りにして冷凍保存しています。」

「魚、野菜は?」

「魚、野菜も好きです。子供の頃はなすが苦手でしたが、今は大好きです。色がダメだったんですよね(苦笑)。」

「朝練がある日、朝ごはんは食べられていましたか?」

「朝練だけでなく夜遅く帰っても、何か食べたいと伝えれば母が用意してくれました。」

ひさこ先生の栄養アドバイス

“牛乳”はカルシウムもたんぱく質も多く含まれる成長期にはぜひ摂りたい食品です。
とはいえ、中には牛乳が嫌いだったり、牛乳を飲むとおなかが痛くなったりする人もいます。牛乳が飲めるようになるまでは、同じ栄養素を持っているヨーグルトで代用することもとても良い方法です。

また、私はいつも『家族は最強のサポーター』と言っているのですが、食事の支度をしてあげることも家族が出来るサポートの一つです。もちろん、“食の自立”も大事なことなので、いずれは自分で出来るようになることですが、環境づくりをしてあげていればタイミングに合わせて食事を摂ることの大事さも自然と身に付いてくると思います。

「将来はサッカー選手」澤さんにあこがれていた子ども時代

「小さい頃からサッカー選手になりたいと思っていましたか?」

「サッカーを始めてから本当にサッカーが好きになって、サッカー以外はほぼ考えていなくて、小、中学の卒業アルバムには、『将来はサッカー選手』と書いていました。
私が小学生か中学生の頃、『情熱大陸』という番組で澤さんが特集されていたのを観ました。その時澤さんはアメリカのアトランタビートというチームでプレイしていたのでそれを録画してずーっと観ていて、小中どちらかの卒業アルバムに『アトランタビートでプレイしたい』って書いていました。まさか自分が代表で一緒にプレイできるなんて、思ってもいませんでした。」

「澤さんがあこがれの選手だったのですね。」

「はい。でもテレビの中の人でしたよ、ほんとに。今もそうなんですが、純粋(じゅんすい)に、好きで、楽しんでサッカーをやっていたので。中学生で実家を出ましたが、つらい、苦しいと思ったことはないです。何回かはあったのかもしれないけど、覚えていない。」

「試合に負けてくやしい思いをしたときは、どうやって気持ちを切りかえていましたか?」

「やめたいとか考えたことがなくて。落ちこんだりはしないかな…してもしょうがない(笑)。北海道を出て高校に行き、改めて自分の力の無さと、上には上がいるということをすごく感じたので、むしろもっとやらなきゃっていう気になりました。それまではあまり努力しなきゃとか、がむしゃらに思ったことはなかった。」

「 『やめたいと考えたことない…』これはすごいです。本当にサッカーが好きなんですね! また、悔しい経験を次の目標に出来る選手特有の『切り替え力』もしっかり備えていらっしゃるのですね。 」

「それはあるかもしれない。負けると落ちこむというか、くやしい。高校生になって日本代表に呼ばれ、日本代表として戦うことになって新たな責任を感じながら戦って…それが変なプレッシャーになったりはしないんですが、負けるとくやしくて。もうあのくやしさを感じたくない!という意味ではふり返ることはあるけど、その他はふり返らない。」

「自分を元気にさせる食べ物はありますか?」

「食べることはほんとに大好き!好きな人と会っておいしいものを食べるのも。今、日本に帰国して1~2週間ですが、それが一番充電になりますね。大体一通りのものは食べてきました(笑)。」

「料理はどこかで習われたのですか?」

「大学で一人暮らしを始めてから、今は簡単レシピがネットにもあるのでお世話になっています。食べたいものを食べてます(笑)。好きなものを食べる中でも、サラダを意識して食べます。もともとサラダも好きなんです。今日はお肉ばっかり食べてるなと思ったら、野菜を食べます。」

ひさこ先生の栄養アドバイス

“バランスのとれた食事”はスポーツをするしないに関係なく、誰でも(特に成長期)ではとても大事なことです。バランスのとれた食事を続けるには、熊谷選手のように『きょうはお肉ばかり食べている』と無理のない“自己チェック”を習慣化することが大事です。

朝抜くなんて信じられない!お腹へったと思った時点で、集中力は切れてます

「栄養指導を受けたことはありますか?」

「栄養指導はJISS(※)との代表合宿中に2回程と、筑波大学時代に受けたことがあると思いますが、あまり覚えていません。良いと言われたものを食べるくらいです」

「きっと身についているからあまり覚えてないのかもしれない。お話を聞いていて、好き嫌いはないし、食品でも目新しいものについ手が出るとおっしゃっていましたし、料理に対してもこれがいいと言われたら、受け入れるタイプだと思います。言葉としての記憶はなくても、逆に身について自然にできるようになっていたら問題ないです。」

「これまで健康でこられましたか?」

「そこだけが取り柄なんですよね。風邪もひかないし。」

「コレを食べているから健康だ、というのはありますか?」

「これだっていうものよりも、絶対食事を抜かないんですよ。」

「それってすごいことです!」

「よく朝食を食べないとか言うじゃないですか。朝を抜くなんて信じられないです。朝食を食べても練習するとお腹がへるんだから。練習中にお腹がへったと思った時点で、集中力が切れてますからね。逆に、試合前や試合中にお腹へったって思いたくないから、食べすぎることがありました。試合中も満腹はイヤだけど、空腹もイヤなんです。必ず試合前とか、間隔(かんかく)をあけてこまめに食べるとか、試合の何時間前は食べてはいけないとか。昼にしっかり食べるから、あまりお腹がへるってことはないんですが、逆にへったらイヤだと思うから、ハーフタイムにゼリーを食べたり、バナナを食べたりしています。」

「熊谷選手のように海外で活躍されたり、なでしこのキャプテンをされる方は“食事”に対して意識が高いことが伝わってきますね。いつも『食べたものがエネルギーの素、食べたものがカラダの材料』を意識していたいですね。フランスのチームでも、ロッカールームにハーフタイムで食べられるものが用意されてるんですか?」

「フランスにはゼリーはないけど、バナナはありますね」

「どんなサプリをとられるんですか?」

「練習前、練習中、練習後のプロテインとか。自由にとれるよう置いてありますが、日本のものとあまり変わらないと思いますが、フランスのものは美味しくないからあまり飲みません(苦笑)」

※JISS(Japan Institute of Sports Sciences)
=国立スポーツ科学センターは、(公財)日本オリンピック委員会(JOC)・競技団体・大学・国内外のスポーツ研究機関と連携し、日本の国際競技力向上への支援を行っている。

取材日:2016年12月22日

選手&チームのご紹介

熊谷 紗希(くまがい さき)選手

1990年10月17日、北海道出身、26才。 171センチ。ポジション:DF(MF)
常盤木学園高等学校サッカー部時代の2008年に全日本高等学校女子サッカー選手権大会優勝。全日本女子ユースサッカー選手権大会2006-2008年優勝。高校2年で日本代表に初選出、3年で主将として全日本女子ユース3連覇。筑波大学体育専門学群卒業後、2009年浦和レッドダイヤモンズ・レディースに加入、全試合出場、チーム優勝に貢献。2010年W杯U-20主将として出場。アジア競技大会出場、優勝に貢献。2011年W杯全試合フル出場、優勝。ロンドン五輪全試合フル出場、銀メダル獲得、 2015年W杯準優勝。2013年に移籍したオリンピック・リヨン(フランス)ではボランチも務め2015-16シーズンでリーグ優勝、カップ戦、チャンピオンズリーグ優勝、自身初MVP獲得。2017年なでしこJAPAN新主将に指名され、今後益々活躍が期待されている。

編集部より

後編では、選手として日本代表や海外のチームで活躍される熊谷選手の食生活やサッカーにかける想いについて語って頂きます。 熊谷選手のインタビュー後編をどうぞお楽しみに! 今回は、食とスポーツをつなぐ情報誌『スポーティーライフ』とのコラボ・インタビュー記事となっております。 当サイトと同様に主にスポーツ栄養を中心に情報発信されている『スポーティライフ』春号(4月28日発売)でも熊谷選手のインタビューを紹介しています。ご興味のある方は、『スポーティライフ』HP(http://sportylife.jp/)でご確認下さい。 アスリート・指導者・保護者のための「食とスポーツをつなぐ情報誌」 『スポーティーライフ』では、トップアスリートに対して行われている、スポーツ栄養学に則った「栄養摂取(食事・サプリメント)」の情報をわかりやすく紹介しています。 巻頭インタビューでは、トップアスリート等の食に対する意識、考え方などについて紹介しています。

【お知らせ】 スポーツ栄養情報誌「スポーティーライフ(SportyLife)」 2017年冬号(1月31日発刊)は特集2本立て! ★競技別栄養シリーズ① 野球 野球で活躍するための食・栄養 BaseBall Nutrition ★広島東洋カープの25年ぶりリーグ制覇で盛り上がる広島県をクローズアップ スポーティーライフ全県めぐり 第2回 広島県