日本代表センターバックとして2011年ドイツW杯優勝、翌年2012年ロンドン五輪銀メダル、2015年カナダW杯準優勝に貢献(こうけん)。現所属チームのオリンピック・リヨンではボランチもこなし、2015-16シーズンはリーグ優勝、カップ戦、チャンピオンズリーグ(CL)優勝、MVPも獲得し。今年からなでしこJAPAN新主将に抜擢され大注目の熊谷選手に、女子サッカー選手として世界で活躍するために必要なサッカーと食事の関係についてお話をうかがいました。

チームメイトに『そんなに食べるのになぜ太らない?』と驚かれます

「海外でプレーされていますが、食文化や生活習慣の変化はありますか?」

「ドイツはフランクフルトで、フランスはリヨン、どちらも大きな街で日本食レストランもあるし、フランクフルトにはスーパーもあるし、和食は手に入ります。基本的にはなんでも食べられるので、ドイツ料理でもフレンチでも困らない。海外にわたり、普段トレーニング後は毎日昼寝をしています。私は6時半とか7時に夕食を食べますが、フランス人はその時間に食べたら夜がもたないという考え方です。フランスはレストランが開くのが午後7時半くらいで、食べる時間も長いし遅い。でも私は昼から8時、9時まで食べずに待てません。それまでの生活の9割5分くらいサッカーで、大学になるまで夜に出歩く習慣もありませんでしたし、自炊した方が早いと思い一人の時は自炊するようになりました。私は間食なしで一日3食のみですが、その3食はいっぱい食べます。チームの中でもすごく食べる私にチームメイトは 『そんなに食べるのになぜ太らない?』とよく聞いてきます。日本人は欧米人より骨格が細く、やせて見えるようです。」

「海外選手との体格差はありますね。」

「全然違いますよ、重さとか。体重だけじゃなくてぶつかった時の重さがすごくて。外国人の選手は日本人アスリートみたいに見た目からスラッとしてるわけじゃないんです。お腹が出てる選手もいるし、日本人ほど神経質にしている感じはありません。お酒も飲むし…ドイツ人は普通にビール飲んでます。」

「海外の選手は食に対する意識が高いとは感じませんか?」

「感じないですね。女子は特にそうです。日本人は結構体脂肪を気にするけど、海外では『体脂肪の数値がなんなの?』ってくらいで。男女の違いはあるかもしれないけど。でも、お腹が出ていても走れて動けるから、むしろ最強なんですよ。日本人がぶつかっても勝てないんだもの。コンデション管理は、日本にいた時は神経質に毎日体重計ってましたが、今は日本にいた時ほどそんなに『増えちゃってる!』って思わないし、思ったら負けと思うようになってきてます。オフの時は増えすぎないようにはしていますが。」

「食堂はバイキングスタイルですか?」

「バイキングというか、前菜があって、そこから3つ取るんです。フルーツだったり、サラダ、チーズとかハムとかもあるんですけど。主食はパスタかご飯で、お肉か魚が選べて、お野菜が付いてくるという感じで。栄養士が献立(こんだて)をシェフに作らせているものです。」

「3つと制限が付いてるのがおもしろいですね。」

「取りすぎるなということだと思いますよ、たぶん(笑)。」

ひさこ先生の栄養アドバイス

最近は“主食”が敬遠されがちですが、主食の主な栄養素である“炭水化物”は運動時の身体を動かすエネルギー源としてだけでなく、実は頭を働かせる唯一のエネルギー源でもあります。その供給源になるのが《主食》としてのごはんやパンですが、それぞれ特徴があります。
例えば、ごはんは米と水だけで炊きますが、パンは美味しく作ろうとすると小麦粉だけではなく、バターや卵などを加えることになります。 また、一緒に食べるおかずもごはんは比較的どんなおかずにも合いますが、パンはバターを塗ることもありますし、どちらかというと油を使ったおかずが多くなりがちです。
脂質を控えることも必要になってくるアスリートにとっては、好みもありますが、どちらかというとパンよりもごはんの方がおススメです。熊谷選手のようにごはんが大好きなことは、選手としてとても良いことですね!

一番はケガをしないでプレイすること、それがすごく大切。

「世界で活躍するための秘訣(ひけつ)はありますか?」

「海外の選手に何をしたら勝てるのか、どうしたら負けないかを考えます。今からどんなにトレーニングをしても、黒人選手のスピードに勝つのは絶対無理です。自分にできることは何かを考える。リヨン4年目にして日に日に自分のやれること、生きてく術(すべ)を見つけることができていて、今はサッカーをやっていて楽しさしかないです。」

「海外の選手のすごさを教えてください」

「日本人は重荷を上げる時、テクニックを上げてどんどん重荷をあげていく感じですが、海外選手はノリと勢いでできるんです。細かいテクニックがないからそれ以上は上がらなくなりますが、彼女らは私たちが年月をかけてがんばってできたことを一発でできるんです。何だろうと思う、あれは。そこはすごいと思います。日本人がここまでやっているのに、負けるのはすごくくやしいです。自分たちがやってることがえらいとか全く思わないし、必要だからやってるのですが…日本人は本当に真面目です。」

「体格でおとる部分も真面目さとかで対等に戦えたり、結果にちゃんとつながっているから、トレーニングもがんばって続けられるんでしょうね。」

「海外に出てよかったのはどういう点ですか?」

「気づかなかったことに気づけた。自分が代表選手になった時、戦う相手を普段から知っているのと、知らないのとでは全然違う。また、自分一人でどれだけできるのか試したかった。海外6年目になり、良いことも悪いこともあるけど、日本では経験できなかったことができています。」

「今の目標は何ですか?」

「去年に続いてリーグ戦、カップ戦、チャンピオンズリーグの3冠を獲(と)ること。そのために自分が何をするかべきを考えています。今そこに身を置けていることは感謝しなきゃいけないし、幸せなことですが、毎日が戦いでもあります。この戦いに勝ち続けること、一番はケガをしないでプレイすること、それがすごく大切。あまり遠い目標はなく、その日その日を戦いたい。その結果、今やっていることが2019年W杯や2020年東京オリンピックで日本代表チームのために繋がればいいと思います。」

何時に家に帰ってきてもごはんを用意してくれたこと、感謝しています

「個の力とチーム力のバランス、チームプレーの良さを教えてください。」

「チームの力も大事ですが、やはり個の集まりがチームです。自分がどんなに調子が良くてもチームが負けることもあるし、逆に自分がすごく不調でもチームが勝ったりするのが、本当に面白い。自分の調子が良くてチームが勝てると、最高じゃないですか。そういうことを一人一人が思っていれば勝負になる。私は個人で勝つよりチームで勝つ方がよりうれしい。プレイしている側でも、勝つと普通に感動する。サッカーが一番輝ける場所で、自分を出せる舞台なんです。個人競技ができるとは思わないし、走るのも一人じゃできない、一人じゃやりたくない。」

「海外だと個人プレイが多いですか?」

「あんまり気が利かないんですよね。そういうタイプだとわかっていれば、その選手を生かすために何をしようか考えます。チームスポーツだとそういうことができる。日本人は気が利くし、周りを気にしてやっている。海外で生きるためには、それが生命線になる。海外の選手にそのタイプはいません。」

「自分の役割というのも感じられますか」

「あしが速い選手もいれば、速くない選手もいる。すごくテクニックのある選手もいればそうでない選手もいる。その中で、特化した自分の強みを、お互いが出してあげればいいじゃないですか。そうやってチームができていく。海外に行って感じるのは、みんな日本人みたいに器用じゃない。日本人も色んな選手がいますが、基本的にはみんな何でもできる。だけど海外の選手はスピード力のある選手でも、基本的な技術がなかったりします。自分が生きるなかでどうやって味方を生かすか。味方を生かすことが一番自分を生かすことになる、そう考えられるのは日本人だからだと思います。」

「あまり緊張しないタイプですか?」

「しないですね、小さい頃も…でも初めての代表の試合は緊張しました。」

「PK戦はどれだけのメンタルが必要なんでしょう。」

「入ると思ったら入ります。迷ったら終わり。けりたくない人は絶対けらないほうがいい。普通に考えて、サッカーやってる人があの状況でゴールを外すわけがないんですよ。私はどんな時もとにかく楽しむって決めてるんです、PKも。キーパーとのかけ引きって結構楽しいんですよ。外れたらキーパーとのかけ引きに負けたんです。」

「夢に向かってがんばっている子どもたちにアドバイスをお願いします。」

基本的なことですが、よく食べてよく寝ること。ほんとに大事なことなんです!

「子どもをサポートする保護者に対して、選手の立場から思うアドバイスをお願いします」

「自分の親のことしかわかりませんが、送りむかえもイヤなを顔せずにやってくれましたし、一番感謝してるのは、何時に家に帰ってきてもごはんを用意してくれたこと。それは感謝しています。両親共に教師なので中学時代は勉強のこともきびしく言われました。当時は面倒くさかったんですが、今考えればありがたかったと思います。勉強する時間がなかったから要領(ようりょう)だけはよくなりました(笑)。あの時は全く分からなかったけど、今はすごく感謝してる。何年もたたないとわからないことですけどね。」

ひさこ先生の栄養アドバイス

選手として良い結果を残すための要素は《練習》と《睡眠》と《食事》の3つと言われています。もちろん練習ありきですが、練習をいくら頑張っても、練習を効率的にするためのエネルギーの確保は食事由来ですし、ケガをしないための身体づくりの材料も食事由来です。そして、しっかり睡眠をとらなければ健やかな成長や疲労回復も難しくなってきます。
熊谷選手のことばのように“基本的な生活習慣”を守れることは、本当に大事です。

取材日:2016年12月22日

選手&チームのご紹介

熊谷 紗希(くまがい さき)選手

1990年10月17日、北海道出身、26才。 171センチ。ポジション:DF(MF)
常盤木学園高等学校サッカー部時代の2008年に全日本高等学校女子サッカー選手権大会優勝。全日本女子ユースサッカー選手権大会2006-2008年優勝。高校2年で日本代表に初選出、3年で主将として全日本女子ユース3連覇。筑波大学体育専門学群卒業後、2009年浦和レッドダイヤモンズ・レディースに加入、全試合出場、チーム優勝に貢献。2010年W杯U-20主将として出場。アジア競技大会出場、優勝に貢献。2011年W杯全試合フル出場、優勝。ロンドン五輪全試合フル出場、銀メダル獲得、 2015年W杯準優勝。2013年に移籍したオリンピック・リヨン(フランス)ではボランチも務め2015-16シーズンでリーグ優勝、カップ戦、チャンピオンズリーグ優勝、自身初MVP獲得。2017年なでしこJAPAN新主将に指名され、今後益々活躍が期待されている。

編集部より

クリスマス休暇に帰国し、限られた日程の中、本インタビューに快く応じて頂いた熊谷選手は、終始エネルギッシュで、周囲に元気を与えてくれる明るいお人柄でした。さらに頭の回転の速さを物語るテンポ良い受け答えで多くの貴重なお話を聞く事が出来ました。“サッカーは子供を大人にし、大人を紳士(淑女)にするスポーツである“をまさに体現されている熊谷選手の今後益々のご活躍をお祈りしています。

今回は、食とスポーツをつなぐ情報誌『スポーティーライフ』とのコラボ・インタビュー記事となっております。
当サイトと同様に主にスポーツ栄養を中心に情報発信されている『スポーティライフ』春号(4月28日発売)でも熊谷選手のインタビューを紹介しています。ご興味のある方は、『スポーティライフ』HP(http://sportylife.jp/)でご確認下さい。

【お知らせ】
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