スポーツ食育インタビュー
INAC神戸レオネッサ
髙瀬 愛実 選手
野菜がきらいだった子ども時代。朝食に魚は欠かせない!
「高校までは北海道で育ったとのことですが、子どものときは好ききらいはありましたか?」
「小さいころは基本的に食わずぎらいで、好ききらいが多かったです。野菜を食べなかったり……。好きな物しか食べなかったですね。肉とご飯ばかりでした(笑)。魚も好きだったのでタンパク質はしっかりとっていましたが、本当に野菜がダメでした。」
「今も野菜を食べられないのですか?」
「いえ、今は食べなきゃという気持ちもあり、サラダでも何でも食べるようになりました。今でも唯一(ゆいいつ)嫌いな野菜はナス。でも最近は、味を工夫したら何とか食べられるようになりました。」
「では、好ききらいはどのように克服(こくふく)したのでしょうか? ご両親は食べなくても許してくれましたか?」
「いえいえ! うちの親は厳しかったので、食べるまで席を立たせてもらえませんでした。ただ野菜だけでなくドレッシングも苦手だったので、特に生野菜は苦労しました。温野菜にしてもらう方が食べやすかったのでそうやって食べるようにしてました。」
ひさこ先生の栄養アドバイス
温野菜は色の濃い野菜も食べやすくなり、量も生よりたくさんとれるのでとても良い方法です! ただ、“生”の良さもあるので、生野菜と加熱した野菜料理の両方を食べるようにするのが理想です。
ドレッシングが苦手とのことですが、おいしいといわれているドレッシングは脂質が多いので、アスリートにとって全く問題ありません。むしろ、ポン酢しょうゆ、塩+レモン汁、味噌を付けるなど自分に合ったものを見つけることをおススメします。ドレッシングをたっぷりかけて生野菜を召し上がるよりも、栄養的にもよいと思います。
「特に好きな食べ物は何でしたか?」
「料理名で言えば、オムライスが好きです! 小さい時はとにかくお肉とご飯ばっかり食べていました。兄弟が多かったので、基本大皿に盛られて取り合いながら食べる感じでした。」
ひさこ先生の栄養アドバイス
“一人盛り”だと自分の食べるものの量が把握(はあく)できたり、好きなものだけを選ぶことがないという利点はありますが、育成年代のスポーツ選手にとってはある程度“食べるスピード”が大事になってくることもあるので、兄弟で大皿から取り合って食べるというのは良い経験でしたね!
「朝ごはんの主なこんだては?」
「朝ごはんは和食でした。ご飯におみそ汁に魚が定番。あと、納豆とか。私は小さいころからご飯・魚・みそ汁の3つがそろったメニューが大好きで、朝ごはんの魚だけは母にワガママを言って、いつも出してもらっていました。一番好きなのはサンマで、季節になるとよく食べていましたね。他の兄弟はパンとかあるものを食べていたんですけれど、末っ子の特権か、私だけ特別あつかいだったのかもしれません(笑)。」
ひさこ先生の栄養アドバイス
骨の多い魚はとかく嫌われがちですが、実はサンマなどの“青魚”には肉には含まれていないDHAやEPAといった栄養成分も豊富。「朝からサンマ!」はおススメです! 朝食欠食、あるいは食べても“菓子パンだけ”などのかたよった朝食摂取(せっしゅ)が心配されている中、“朝食しっかり”は理想的です!
おやつはチーズ、おにぎり、うどん!牛乳もたくさん飲みました。
「小学生のころの体格はどんな感じでしたか? いつごろから大きくなりましたか?」
「細くはなかったかもしれませんが、4年生くらいまで小さかったです。5、6年生になって急にのびました。牛乳を飲むと身長がのびるって本当ですか(笑)? 髙瀬家は牛乳をよく飲む家でした。普通の家より飲んでいたかも。私も牛乳大好きだったので、下校して家に帰ってまず牛乳。北海道は牛乳が美味しいから、よく飲んでいました。」
ひさこ先生の栄養アドバイス
残念ながら、牛乳を飲んでいれば背がのびるという訳ではなく、身長に関わる一番の要素は遺伝(いでん)です。でも、骨の材料になるものをしっかりとっていなければ当然影響されるので、成長期に牛乳を飲んでいたのは良いことです。ただ、牛乳を飲んだら飲んだだけ身長がのびるわけではないので、“水代わり”に飲むことには問題もあります。
「他の乳製品もよく食べていましたか?」
「小さい頃は、さけるチーズをよく食べていました。母と一緒(いっしょ)に全部むいてからつまんで食べてた記憶が。それはおやつによく食べてました。うちは、おやつにおかしはほぼ出てこなかったですね。小腹が空いたら家にあるもの食べなさいと言われていて、それこそ大好きな納豆だったりチーズだったり。」
「補食(ほしょく)として食べる感覚だったんですね。」
「そうですね、学校から帰っておなかすいたら、おにぎりとか冷凍うどんサラッとゆでて食べてました。」
ひさこ先生の栄養アドバイス
おにぎりや冷凍うどん、冷蔵庫の納豆やチーズがおやつ! 素晴らしいです! チーズだけでなく、牛乳やヨーグルトなどの乳製品は成長期の選手のおやつにはもってこいです。
兄姉の影響で、幼稚園のころから自然とサッカーを始めた
「小学生からサッカーを始められたそうですが、キッカケは何だったのですか?」
「兄姉が5人いて、一番上の姉以外はみんなサッカーをしていたんです。だから幼稚園児くらいの時から、自然とサッカーを始めていました。本格的にサッカーを始めたのは小学校1年生からだったと思います。ずーっと物心ついた頃から兄姉がやるのを見てきたので、自分も早くやりたかったから、正式に少年団に入れた時はうれしかったし、楽しかったです。」
「成長期のからだの変化で、問題はありませんでしたか?」
「いえ、あまりケガもしなかったし、基本的に骨がしっかりしていたので、骨折などの故障もありませんでした。牛乳を飲んでいたおかげかな?」
ひさこ先生の栄養アドバイス
“骨がしっかりしている”ことはケガ予防の点からもとても大きなポイントです。骨の強さとも言える“骨密度”は20代がピークと言われていますので、一生の財産とも言えるじょうぶな骨を獲得するためにも、バランスのとれた食事や牛乳・乳製品などをしっかりとる食習慣はとても大事です。
「ただ、身体つきが女性らしくなってきた中学3年から高校くらいまでの時は、体重の変動がはげしかったので、大変でしたね。やっぱり身体が重くなると動きがにぶくなったり、逆に軽くなりすぎると走れなくなったり。
でも高校になったころには、自分のベスト体重がどれくらいなのかを量りながら調整する事ができました。」
ひさこ先生の栄養アドバイス
自分の体と向き合うことはとても大事です。きちんとしたデータを見ていれば、間違った無理なダイエットなどもなくなると思います。
サッカーをやめたいと思ったことも…
「いつまで男女混合でサッカーをしていたのですか?」
「小学校から中学校までは男子のチームでさせてもらっていました。ただ週末になったら車で3時間位のところに女子のサッカーチームがあったので、そこでもやっていました。」
「男女の差を感じましたか?」
「小学校くらいまでは女子の方が身体も大きいので強いし、スピードもあって当たりも強かったりしたんですけど、やはり中学2年生くらいになったら男子が急にグーッと成長して、男女差を感じるようになりました。
中1くらいまでは男子にかけっこも負けなかったんですけど、中2くらいからはもう全然かなわなくなってきました。サッカー自体、戦術や技術などは補(おぎな)えるのですが、フィジカル面の男女差はうめられないところがあるので。」
「女子サッカーの良さ、利点はありますか?」
「女子の方が痛みにもメンタル面も強いかもしれませんね。自分自身、メンタルが弱い部分は相当ありましたけど、コンディションがあまり良くない時の持って行き方というか、今日はダルいなと思っている時のスイッチの入れ方とか。そういうのは小さいときから持っていたものかもしれません。しんどい時こそ今日はがんばろう! みたいなスイッチはありました。」
「サッカーをやめたいと思ったことはありますか?」
「一番イヤだなって思ったのは、小学5年生になる時にチームを移った時でした。他のチームに呼ばれ女性コーチのもとでやる事になったんですけど、まだ小学生だったんで自分に決める権利がない。自分がやりたいようにできず、つらかったです。
男子のメンバーの中に、女子一人で急にポンっと入れられて……思春期というのもあって、周りの男子がどう接していいのかわからない感じが伝わってきた。今までのチームでは『メグ』と呼ばれていたのに、『髙瀬さん』とよそよそしい感じがイヤだなって思って……結構、練習をサボってました。
プレイでは負ける気がしなかったし、サッカー自体は順調だったんですけれど。」
「その状況(じょうきょう)を乗り越えられたのはなぜですか?」
「5年生の間はずっとその状態だったんですが、6年生になって3人しかいない女子メンバー同士が仲良くなれて、そのおかげです。同じ年の子が仲良く接してくれて、助けられました。」
「友達の力で救われたんですね。チームプレイの競技には大事ですね。」
「個の力も大事ですが、協調性は本当に大事です。最近は特に思います。」
「ご両親は、髙瀬選手をどのように応援(おうえん)してこられましたか?」
「よく両親で試合の応援に来てくれました。口うるさくなく、試合についてもああしたら良かったのにとか評価することはなく、とにかく『頑張れ、頑張れ!』って。ほめてもらう事が多かった。好きなことを好きなようにさせてくれていたのは、大きな支えになったと思います。」
「食事の面でご両親が厳しかったということですが、食事以外でも厳しかったのですか?」
「本当に厳しかった……。小さい時に言葉づかいが悪いってよく叱られて、口を食器用洗剤で洗われた事がありました。口が汚いなら口洗ってあげるって。一度だけでしたが、苦かった(笑)。
でも中学生になって自分で物事を判断できるようになってからは、やりたい事をやりなさい、と自由にさせてくれました。ただ、最低限の礼儀(れいぎ)や人を敬(うやま)う事などは厳しく言われました。」
写真提供:INAC神戸レオネッサ
取材日:2014年8月7日
選手&チームのご紹介
髙瀬愛実
1990年11月10日生まれ。北海道出身。2010年FIFA U-20女子ワールドカップでなでしこジャパン選出。以来2010年 アジア競技大会、2011年FIFA女子ワールドカップドイツに出場。ワールドカップでは、ほとんどピッチに立てず悔しい思いをしたが、その悔しさをバネに着実に成長をし、2012年 ロンドンオリンピックでは銀メダル、2014 AFC女子アジアカップでは優勝に貢献(こうけん)。2012年には、得点女王、ベストイレブン、リーグMVPを総なめにした。
入団6年目、23歳という若さでINACのキャプテンに就任。少年のような顔立ちとは反対に、実は宝塚歌劇団が好きという女性らしい一面も持つ。
【INAC神戸レオネッサ】
なでしこジャパンの澤選手や川澄選手、女子中高生に人気の髙瀬選手が所属する、神戸の女子サッカーチーム。
2001年に創部、2005年にLリーグ2部に参入、翌2006年1部へ昇格。2010年全日本選手権にて初タイトルを獲得し、2011年に念願のリーグ優勝を果たす。現在リーグ3連覇(れんぱ)、全日本選手権4連覇中。チーム名の「レオネッサ」とはイタリア語で雌(めす)ライオンを意味し、美しく力強い様子を表している。チームマスコットは「らいむちゃん」。
“神戸から世界へ”をコンセプトに女子サッカーの更なる飛躍を目指して活動を行なっている。
公式サイト
http://inac-kobe.com/