スポーツ栄養学
スポーツをする人の塩分摂取、どう考える?
今月の話題:『熱中症対策』の表示の意味は?
「熱中症予防に水分補給は欠かせない!」は、今では誰でも知っていることです。さらに、最近は「汗には塩分はじめミネラルが含まれているから、塩分の補給も必要では?」と皆さんの意識が一段階アップしてきているように感じることがあります。また、そんな声に応えるように「塩飴」や「塩タブレット」なども発売されています。塩分の摂り過ぎも心配されている中、“塩分摂取”はどのように考えればよいのでしょうか?
“地球沸騰化時代”と言われる今年の夏、梅雨明けしない時期から“熱中症警戒アラート”が発表され、“熱中症予防”について世の中全体で興味関心が高くなっているように感じます。また、最近は小学生からも“塩分補給”について質問されることもあります。 ただ、“塩分補給”は慎重に考えることも必要です。夏場のスポーツ時など大量発汗の時期を除くと、日本人は“塩分摂り過ぎ”の懸念が持たれています。WHO(世界保健機構)では、塩分摂取量は成人で5g/日を推奨していますが、日本人の平均的塩分摂取量は、男性10.9g、女性9.3gです(ちなみに、厚生労働省で定められる目標量は男性7.5g、女性6.5gです)。となると、敢えて塩分を補給することが本当に必要かしら?という疑問もわいてくるかと思います。
とは言え、汗はなめるとしょっぱい味がすることから、汗には食塩が含まれていることが分かります。それが分かると熱中症予防に真摯に取り組むがゆえに、水分補給と同時に「塩タブレット」や「塩飴」などを積極的に摂取する人がいます。では、多量発汗時期にはどの程度の塩分を失っているのでしょうか? 人により差はありますが、一般的に汗には0.4%の塩分が含まれているといわれています。今、500mlの汗をかいたなら2gの塩分も一緒に体外に排出されているということです。
このように、発汗量から塩分のおよその排出量が計算できます。そんな状況で、水のみを補給していると、食塩(ナトリウム)に代表されるミネラルが不足して自発的脱水(※)という熱中症を加速する可能性があることも知っておきましょう。もちろん、個人の体調や運動量だけでなく気温や湿度などの気象条件によっても異なりますが、環境省で発表される暑さ指数(WBGT)が基準値を超えているときは発汗量が多くなりますから、“塩分補給”も必要になってきます。
※自発的脱水:発汗によって水分と塩分が同時に失われるので、水だけで水分補給をすると体液がどんどん薄くなってしまいます。すると、私たちの体は体液が薄くなるのを防ごうとのどの乾きを自覚しなくなり、飲水をしようと思わなくなります。さらに、尿としても水分を排出するので、脱水の症状が進行します。このことを自発的脱水といいます。)
結論
「熱中症予防にはこまめな水分補給!」ということは、ずいぶん徹底されてきています。さらに最近は、発汗によって失われた塩分の補給の大切さも広まり、「塩タブレット」や「塩飴」も身近になってきています。とは言え、口当たりの良さや美味しさから塩タブレットや塩飴を摂り過ぎることには注意が必要です。日本人は普段の生活で摂取する塩分量がWHOで推奨する量よりも多く、生活習慣病予防の意味からは減塩が言われています。自分の発汗量を意識して、気象環境や運動量などを自分で把握しながら水分や塩分の補給をコントロールするようにして下さい。
さらにおすすめは、『汁物付きの朝食』の摂取です。朝食はエネルギー補給としてだけでなく、就寝中に失った水分も塩分も補充することのできる“食べるスポーツドリンク”ともいえる優れものです。
『熱中症対策』の表示の意味は?
ペットボトル入りの飲料などに「熱中症対策」という文言が表示されているのを見かけることが多くなってきています。厚生労働省のホームページにもスポーツ中に限らず職場でも熱中症予防について「身体作業強度等に応じて必要な摂取量等は異なるが、WBGT基準値を超える場合は、少なくとも、0.1~0.2%の食塩水、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20~30分ごとにカップ1~2杯程度を摂取することが望ましい」とありました。そして、10年ほど前から一般社団法人「全国清涼飲料工業会」が厚生労働省の推奨値に準じて「熱中症対策」の表示を可能にするガイドライン(飲料100ml あたり、ナトリウム濃度として40~80mgを含有する清涼飲料水)を作成しています。何においても、商品の表示を見て選ぶ習慣をつけることが大事です。
ただ、WBGTを含めた生活環境などによっても異なりますが、暑い時期のスポーツ中には、熱中症予防の点から必ずナトリウムが入っているものが必要というわけではありません。基本は汁物付きの食事をきちんととる⇒そのうえで1時間程度の運動なら水や麦茶などの水分補給で大丈夫⇒それ以上の時間になったり、WBGTの基準値を超えるような暑さの時にはスポーツドリンクなどナトリウムが添加されている飲料と併用することと考えて下さい。
栄養学担当者プロフィール
久保田 尚子 先生
順天堂大学等の非常勤講師などを歴任しつつ、スポーツ栄養を中心とした栄養関連業務に従事。
<主な栄養サポート歴>JリーグFC東京((トップから育成年代)栄養アドバイザー、女子ソフトボール日本代表(2004年アテネオリンピック支援帯同)など
<主な雑誌連載>月刊誌『サッカークリニック』《勝つための栄養セミナー》等多数
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