スポーツ栄養学

「最近よく聞く『アイススラリー』って何?」
今月の話題:“プレクーリング”とは?

すでに、梅雨入りした地域があったり、梅雨の最中でも真夏のような暑さや湿度の高い日があったりと、すでに熱中症への対策は必須の季節になってきました。今年は、昨年流行語大賞を受賞した「地球沸騰化時代」に匹敵する猛暑の予報が出ています。そこで、熱中症対策用として広告でも目にするようになった“アイススラリー”について考えてみましょう。

「アイススラリー」は、すでに5年ほど前から“スポーツドリンク”とは区別したものとして発売されています。“アイス”とはまさに“氷”、“スラリー(slurry)”とは、もともとは「固体粒子が液体の中に懸濁している流動体」のことです。つまり、“アイススラリー”とは、スポーツドリンク(液体)と細かい氷の粒子の混合物で、”シャーベット状のスポーツドリンク”ともいえるもののことです。アイススラリーとスポーツドリンクの成分は似ているのですが、この二つの大きな違いは、“流動性”です。液体だとさっと飲み込んでしまいますが、流動性であれば食道をゆっくり通過します。

では、“スポーツドリンク”ではなく、“アイススラリー”を熱中症予防で利用することの最大のメリットはなんでしょうか? 一番のポイントは“スポーツドリンク”に比べて“アイススラリー”の方が、“深部体温”を下げやすいということです。ふだん私たちが測っている体温は“皮膚温”(体の表面の温度)で、外環境の影響を受けやすいといわれています。一方、”深部体温”とは脳や臓器など体の内部の温度のことで、外環境の影響を受けにくくほぼ一定に保たれるようになっていますが、その深部体温が何らかの理由で上昇したのが“熱中症”です。

結論

暑い環境の中での運動時には深部体温が上昇します。深部体温の上昇を抑えて、熱中症を予防するためには、“発汗”が大事です。発汗が出来るためには、深部体温を冷やしていくことや予め水分補給をしておくことが有効といえます

具体的なポイントは
①暑さが予想される際は前もって“アイススラリー”などを運動前に補給しておくこと(プレクーリング)
⇒“アイススラリー”などを運動前に摂っておくことで深部体温の上昇を防ぐのに有効です(ただし、冷たいもので腹痛を起こすなど冷たいもので体調不良になりやすい方の場合は注意が必要)
②熱中症になってしまうと、「飲み込む力」が弱くなるということも言われているので、熱中症を発症する前のアイススラリーも含めた水分補給が大事
ということになります。

“プレクーリング”とは?

前項でも少し説明した“プレクーリング”は、“アイススラリー”が身近な存在になると同時に、耳にすることが多くなってきている言葉です。今までは“冷たいもの(水や麦茶、運動時間が長くなる時は必要に応じてスポーツドリンク)”での水分補給が推奨されていましたが、前項にあるようにシャーベット状のアイススラリーだと水やスポーツドリンクという液体での水分補給に比べて、のどから胃を通って腸へ到達するまでの時間がゆっくりになります。つまり、効率よく深部体温を冷やすことが出来るわけです。深部体温が冷えていることの良い点は、運動によって深部体温が上昇するまでの時間を伸ばすことが出来る(運動時間を長くすることが出来る)ということにもなります。

公益財団法人日本スポーツ協会の熱中症予防のパンフレットなどでも“身体冷却方法”の一つとしてアイススラリーも紹介されていますが、冷たい水分補給でも見られるように、中にはアイススラリーを摂ることでも腹痛などの症状を訴えることもあるようですので、注意も必要です。

冷たいものの摂取に対して過敏な方は、“手のひら冷却”といって、手のひらなど体の末端部分にある“動静脈吻合(※手のひらや足の裏などにある動脈と静脈を結ぶ血管の部位のことで、深部体温をコントロールする部位のこと)”部分を冷やすことで体温を下げる方法も熱中症予防に効果があると発表されています。

栄養学担当者プロフィール

久保田 尚子 先生

順天堂大学等の非常勤講師などを歴任しつつ、スポーツ栄養を中心とした栄養関連業務に従事。
<主な栄養サポート歴>JリーグFC東京((トップから育成年代)栄養アドバイザー、女子ソフトボール日本代表(2004年アテネオリンピック支援帯同)など
<主な雑誌連載>月刊誌『サッカークリニック』《勝つための栄養セミナー》等多数

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