スポーツ栄養学
「熱中症予防はふだんの心掛けから」
今月の話題:“スポーツドリンク”と“経口補水液”の使い分けは?
毎年「今年の夏の暑さは…」という言葉を耳にすることが多くなってきました。今年も例外でなく“暑い夏”が予想されることから、一般財団法人日本気象協会が推進するプロジェクト「熱中症ゼロへ」では、今年を「地球沸騰化時代」と位置づけた熱中症対策を活動テーマにしているとのことです。
「こまめな水分補給」という標語は、ここ数年朝のニュースや天気予報のコーナーでも折に触れて伝えられています。この中でも特に“こまめな”はとても大事なことです。
以前、小学生年代のサッカー大会の休憩時に子どもたちがおいしそうに水を“ガブガブ”飲んでいるのを目にしたことがあります。飲み終わった子どもの一人が、自慢気に体を揺らしながら「ちょっと聞いて、おなかの中に水を一杯チャージ出来たよ!」とおなかを揺すりながらちゃぽちゃぽする音を聞かせてくれました。水分補給の大事さを理解してこその行動なのだと思いますが、このなかには注意しなくてはならないことがあります。
- ①水は胃では吸収しないので、早く腸への移動を促すことが大事
- ②そのためには胃の中にたまっている水の量が多くなりすぎないよう一度に飲む量の調節も大事
- ③水分摂取はとても大事だけれど、一度に多く摂り過ぎると胃液が薄まってしまう可能性もある
などが挙げられます。
熱中症予防への心掛けとして、もう一つ守って欲しいことが「汁物付きの朝食摂取」です。既に知られていることですが、個人差や環境などにもよりますが、就寝中には約500㎖くらいの水分が失われているといわれています。そのために起床時の水分補給の大事さが言われていますが、さらに汁物付きの朝食摂取もとても有効なことです。みそ汁などの汁物は、水分+ナトリウムなどのミネラルや具によってはビタミン類、さらには多少のエネルギーも摂れるまさに「食べるスポーツドリンク」ともいえるものです。
結論
“熱中症”は、毎年犠牲者が出るなど注意が必要なものです。特に「地球温暖化」からさらにレベルの上がった「地球沸騰化時代」という新語が出てきている近年は、特に注意が必要です。とは言え、一日3食、バランスよく食べる、特に欠食しがちな朝食は、“汁物付き”にしてしっかり摂るというごく日常的なことを守ることで、かなり防げるものです。もちろん基本ともいえる「こまめな水分補給」を守ってこそですが…。
“スポーツドリンク”と“経口補水液”の使い分けは?
“スポーツドリンク”とは、水分、ミネラル、糖分、電解質をバランス良く配合した飲料(清涼飲料水)のことで、胃腸への負担を軽減しながら吸収速度を上げるようになっています。経口補水液に比べて塩分(電解質)が少なく、糖分も多くなっています。また、スポーツドリンクは「スポーツ時に欠かせない飲料」と思われがちですが、何が何でもスポーツドリンクというような飲み方をしていると塩分や糖分の摂り過ぎにもつながるので、飲み方(与え方も含めて)には注意が必要です。
ちなみに、一般的なスポーツドリンク500㎖には砂糖に換算して約30~35gの糖分、食塩に換算して約0.6gの塩分が含まれています。”日常的に食事をしっかり摂っている”が大前提ではありますが、運動時間や運動の内容によっては水だけでも問題ない場面もあります。
一方“経口補水液”は、脱水症のための食事療法(経口補水療法)に用いるものなので、スポーツドリンクよりもナトリウム、カリウム等の電解質量が多いうえ、水や電解質の吸収を早めるために糖質が少なくなっていますので、当然味の面では、スポーツドリンクとはかなり異なるものです。過度な発汗による脱水症や脱水を伴う熱中症には有効ですが、ふだんの水分補給用にはむしろ使用しない方がよいです。
それぞれの目的や状況に合わせて、水、スポーツドリンク、経口補水液を正しく使い分けられるようにして下さい。
栄養学担当者プロフィール
久保田 尚子 先生
順天堂大学等の非常勤講師などを歴任しつつ、スポーツ栄養を中心とした栄養関連業務に従事。
<主な栄養サポート歴>JリーグFC東京((トップから育成年代)栄養アドバイザー、女子ソフトボール日本代表(2004年アテネオリンピック支援帯同)など
<主な雑誌連載>月刊誌『サッカークリニック』《勝つための栄養セミナー》等多数
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