スポーツ栄養学

「疲労回復のもと“筋グリコーゲン”の話」
今月の話題:“噛むこと”の大事さ ~食事の摂り方から~

最近は“リカバリー”という言葉をよく耳にするようになってきました。“リカバリー”とは、まさに『回復』のことです。運動を継続するためだけでなく、翌日の生活や行動に影響しないためにも“リカバリー”を意識することは大事です。

“リカバリー”のポイントは、“筋グリコーゲンの回復”です。つまり、運動で使ってしまった(枯渇してしまった)エネルギー源(筋グリコーゲン)をいかに早く補充するかということです。では、そもそも“グリコーゲン”とは何か?ということですが、運動時のエネルギー源になるもので、私たちが食べ物として取り入れた糖質をいつでもエネルギーに変えられるように筋肉に貯蔵したものです。効率よく運動するためには、前もってエネルギー源としてグリコーゲンを蓄えておくことは今では広く知られるようになってきました。しかし、『運動後にはプロテイン!(ここで言う“プロテイン”とは、“プロテインドリンク”のことです)』というようにまだまだ『たんぱく質神話』は健在で、『使ったエネルギー源(≒糖質)のいち早い補充』が“疲労回復の大前提”というのは、まだ十分には広まっていないような気がしています。トレーニングで枯渇した筋肉中のエネルギー源の補充が“疲労回復の大前提”で、トレーニング後約1時間あたりまでがグリコーゲンの回復のピークといわれます。

つまり、筋肉を作るためのたんぱく質とともにエネルギー回復のための炭水化物(糖質)を合わせて摂ることで、体づくりも疲労回復も同時に出来るということです。特に、連日で練習するようなときについては、高糖質食(いつもより主食多め)を継続して摂ることで、筋グリコーゲンの回復に大きな差が出ることが実験結果から示されています。継続した運動時だけでなく、疲労を残したくない場合はたんぱく質に偏ることなく、常に主食を含めたバランスのよい食事が大事ということになります。

結論

まだまだトレーニングとプロテインの関係に熱心な方を見かけますが、速やかに糖質を摂取することもとても大事です。糖質を摂取することで、筋グリコーゲンの回復を促して疲労回復につながりますし、筋たんぱく質の分解を抑制し筋肉痛などの軽減にもつながります。練習後から食事までに間があるときなどは、練習後に鮭のおにぎりなどを食べることも疲労回復に効果があります。

“噛むこと”の大事さ ~食事の摂り方から~

小さな子どもが食べたもので窒息するという悲しい事故が報道されることがありました。もちろん、原因はいろいろあるかと思いますが、“噛む力”をはぐくむことも大事なことだと思います。
近年は“噛まないで済む軟らかい食事”が多くなっているため、大人も子どもも噛む力が弱くなっているそうです。噛む力が弱くなると、歯並びやあごの形に影響が出るといわれていますが、運動のパフォーマンスにも関係していることが報告されています。トップアスリートの中にも噛む力を強くして良いパフォーマンスを得るために、ボクシング選手というわけではなくてもマウスピースを使用している選手も多くなっています。

また、噛む力は運動能力だけでなく、脳にも良い影響があるそうです。それらのことを視野に入れて、これからは少し硬いものや大きく切ったものを一口で30回以上噛む練習を食事中に取り入れてみましょう。
とは言え、9歳の子どもでも噛む力はおとなの半分以下という説も紹介されているので、必ず飲み込むまで大人が一緒に食事をすることが大前提です。
また、食事中に水分を摂ると噛まずに飲み込むことにもなるので、水分を摂るのは食べたものをしっかり飲み込んでからにして、ゆっくり・しっかり噛んで食べることを視野に入れて見守っていきましょう。

栄養学担当者プロフィール

久保田 尚子 先生

順天堂大学等の非常勤講師などを歴任しつつ、スポーツ栄養を中心とした栄養関連業務に従事。
<主な栄養サポート歴>JリーグFC東京((トップから育成年代)栄養アドバイザー、女子ソフトボール日本代表(2004年アテネオリンピック支援帯同)など
<主な雑誌連載>月刊誌『サッカークリニック』《勝つための栄養セミナー》等多数

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