スポーツ食育インタビュー
池江 美由紀 さん
成長期は中1から。今では体格も世界レベルに
「睡眠について、気をつけていることはありますか?」
「とにかく昔から早く寝なさい、とそればっかり言ってきています。」
「小学生のときは、何時くらいに寝ていましたか?」
「水泳を毎日やってたので、10時過ぎたら寝るか、いつでも寝られるような環境にしていました。早ければ10時、ふだんは10時半~遅くても11時までには絶対寝ていたと思います。」
「学業については、厳しくしていましたか?」
「璃花子に関しては、あまり勉強をしろしろと言うところがなかったですね。宿題どうなのとかも、聞きもしなかったですね。それは自己責任ですから。休み時間や、放課後に学校でやってきてたんじゃないですかね。学校向けのプライドはあったみたいなので。」
「代表に選ばれる方は、子どもでも時間の使い方が上手なんですよ。きっと休み時間に宿題をやったりお友達と共同作業したり、時間の使い方がお上手だったんじゃないですか。」
「体格は、いつぐらいから急に大きくなられましたか?」
「中学生になってからです。中1の夏ぐらいまでは、まだ棒人間みたいな感じだったんですけど、そこから身長が伸びると、徐々に。今はもう身長は止まったと思うんですけど、この半年、オリンピック前ぐらいから肉付きが良くなってきました。あんなに肩幅などが横に張っている選手って、日本にはいないと思うんですね。世界大会に行くとああいう体の人ばっかりなので、世界に向けての大きさにはなってきてるんじゃないかなとは思います。」
試合の日には、口に入りやすい小さめのおにぎりを用意
「海外の食事はバイキングスタイルですが、璃花子選手が意識してとられているものは何か、ご存知ですか?」
「水泳のことは全然家で話しませんが、オリンピックの時に食べる物がないとは言っていました。なんだか変な臭いがすると。」
「臭いと食欲が削(そ)がれますね。でも食べないとパワーにならないですね。」
「そうですね。でもきっとハイパフォーマンスセンターで補食を用意したり、和食を提供していたと思います。」
「試合の朝、何か特別なものを食べていますか?」
「特に変わらないです。同じクラブのご父兄に、『璃花子ちゃん、昨日の夜は何食べさせたの?』って聞かれた時に、一昨日の残りのハヤシライスだと言ったら、『そんなんでいいんだ』と言われました(笑)。試合だからといって、特別に何も。ただ家から出かける大会の時は、小ぶりの鮭のおにぎりなんかを持っていきます。最初は色々おかずも入れてたんですが、全然食べないんですよね。仕出し弁当が出たりするのですが、小さいおにぎりはポイポイと口に入りやすいからいいかなと。」
「一番いいと思います。でもおかずを食べないのは、わかる気がします。先日の日本選手権などでもレース20分後にまた次のレースがあると話をされていましたが、そんな小刻みに4日間で10レースもやっていると、おかずまで食べていたら、消化できません。」
凡人には理解できない、ちょっと宇宙人っぽいところがあるんです(笑)
「お母様から見て、璃花子選手がここまで強くなったのは、人と違うどんな努力をされたからだと思いますか?」
「うーん…ないですね。逆に周りの人より欠けてる部分の方が多いです。たとえば、自分で泳いだ後にビデオを観るとか、速い人のビデオを見て勉強するとか、絶対やりたがらない。尊敬する選手やなりたい人など、一切興味がない。とにかく水泳が好きだからやってるだけで、人の成績はどうでもいい感じです。」
「テレビで拝見している範囲ですが、競争心むきだしみたいなタイプではなく、おだやかな印象ですね。」
「ご自身の出した日本新記録が基準になってるので、“敵は自分の中の自分”みたいな感じが強いのでは?」
「ここ最近ですね。去年オリンピックに行って、ちょっとはそういうのが分かってきたかな。たとえば自由形で新記録を出したいとか、去年オリンピックで同い年の子がメダルを取ってたので自分も勝ちたいとか。誰かに勝ちたいという思いは以前からあったと思うんですけど、そのための努力をしようというのは全くない、マイペースですね。」
「じゃあ、もしそういう努力をなさったとしたら、もっと伸びる可能性がありますね。」
「いや、私は璃花子じゃなくなっちゃうと思いますね。そういう、なんかちょっと宇宙人っぽいところがあるんですよね。もうちょっと努力した方がいいんじゃないの?と思う時もありますが、でもそれをすると私みたいな凡人にしかならないんじゃないかなって。多分私には理解できないところを持ってる人なんじゃないかと思います。」
「すごいですね。ご自身の娘でありながら、選手として、人間として親の立場を離れた見方をしていらっしゃいます。」
「璃花子にとって水泳は、彼女の人生を豊かにするものではありますけれど、人間としてどうかがまず一番大事なベース。おかげ様で本人が水泳ですごく頑張ってて楽しくしてるのでそれはいいんですけど、やっぱり大事なところは水泳の記録ではないと思っています。璃花子の人間性自体が悪くなるのでない限り、本人が自由にやればいいんじゃないかと思います。」
失敗を経験するから、子どもは成長する
「ご自宅で兄姉3人いらっしゃる中で、璃花子選手はどういう存在ですか?」
「かわいがられてますし、本当にすごく仲がいいです。璃花子は考え方が年齢に比べて少し幼いんです(笑)」
「メンタルの面で、落ち込んだ時や精神的にちょっと弱っている時は、どういう対応をしていますか?」
「腫(は)れ物に触るようにすべきではないと思ってるので、親はいつでも普通に接してあげることがいいんじゃないかと思います。私もすごく気にしますけど、気にしてない風にしてあげる方がいいんじゃないかなって思ったりしてます。
今まで璃花子は大きなアクシデントもなく、記録も順調にまだ止まらずに伸びていってますし、彼女自身は何もないです。楽しくやってますし、別に記録が伸びなくっても、人間性がきちんとしてれば、まぁそれでいいんじゃないかと思ってるので、親がコーチのようにワイワイ言ったりすることは全然ないですね。それは子どものためにならないだろうと、私は思うので。」
「すごい記録を出されても、ご自宅での璃花子選手はいつもと変わらないのでしょうか。」
「別に変わらないです。家を1歩出たら、みんなから東京オリンピックの話など散々言われて本人もわかってるでしょうから、家族は何も言わないです。たまに私がちょっと言うと、『プレッシャーかけるような事言わないで』って言われたりしますから。
私はできれば、合宿や試合の話など色々聞きたいんですが、全然答えない。ものすごく頑固です。でも璃花子以上に私も折れないから、大変です。収拾がつかなくなると、お姉ちゃんが出てきてくれます。私と言い争って出て行ったこともあって、でも自分が困るくせに絶対謝りたくないと意地でも帰らない。そこで姉が璃花子のところに行って、『お姉ちゃんが謝ってあげるから中入ろう』って言ってくれて、璃花子が仕方なく謝るっていう感じ。お姉ちゃんは璃花子に甘いので、なめられてますよね(笑)。」
「水泳選手を目指しているお子さんや親御さんに、アドバイスをいただけますか?」
「あんまりガミガミ言わないこと。子どもに失敗させたくないから、親がガミガミ言ったりすると思うんですよね。先回りして色んな事をやってあげて、できないとガミガミ言ったり…。本人にもっと色々な事を積極的にやらせる機会を作ったり、参加させて失敗させて、本人自身に成長させる機会をたくさん作ってあげる、環境を作ってあげるってことをするといいと思います。今はお母さんたちが心配し過ぎてる、過保護ですよね。失敗させないようにしてる。でも子どもは失敗しないように、自分たちで気をつけていくんじゃないでしょうか。」
「そういう体験を重ねないと、子どもは成長しませんね。最後にお母様から璃花子選手に向けてメッセージをお願いします。」
「璃花子に向けてですか?そういう事言われたのは初めてですね。
基本的には今のままでいいかなって思います。璃花子に教えたいことは全部伝えてるつもりなので、人に愛される人であってほしい事ですね。」
「もう、実現されてる気がしますが。」
「いえいえ、まだ未熟ですし、成長過程なので、いつどんな落とし穴があるかもしれない。スランプになることもあるかもしれませんが、人間性が良ければ誰かが助けてくれたり、応援してくれたり、違う方向に行く道ができたりすると思うので。あまり水泳に縛(しば)られなくてもいいかな、と思うんですけれども。娘はどんな時でも娘ですから。」
「涙が出てくるような素敵なメッセージを、ありがとうございます。」
取材日:2017年4月20日
選手&チームのご紹介
池江 美由紀さん
幼児教室「七田チャイルドアカデミー本八幡教室」代表。一男二女の母で、次女は淑徳巣鴨高校/スポーツクラブ&スパ ルネサンス亀戸所属の女子競泳の池江璃花子選手。個人種目9つ、リレー種目5つ、計14種目の日本記録を保持し、今年7月開催の世界選手権では個人4種目、自由形のリレー2種目に登録し、大会中に出場選手を決める混合400メートルリレー、混合400メートルメドレーリレーに出れば最大8種目出場の日本代表期待のエースである璃花子選手や姉兄の3児を育てつつ、幼児教室の代表を務めながら増え続ける講演や取材などでもご活躍。