スポーツ食育インタビュー
アイスホッケーチーム 王子イーグルス
久慈 修平 選手
4歳ではじめたアイスホッケー。やめたいと思ったことは一度もない。
「アイスホッケーを始めたのは、いつごろですか?」
「幼稚園にアイスホッケーチームがあって、4つ上の姉が入っていた影響で3歳の時に入ったんですけど、すみっこでスティックで雪を集めて雪だるまを作るだけで(笑)。そのときは結局スケートをやり、4歳からアイスホッケーを始めました。」
「幼稚園にアイスホッケークラブがあるってすごいですね! スケートは簡単にすべれるものですか?」
北海道は、当時はアイスホッケー環境がすごく整っていましたね。スケートも、幼稚園の時から教室があったし、小学校でも体育の授業でスケートがあるので、多分ほとんどの苫小牧(とまこまい)の人はスケートが出来ます。」
「そのときは、1日どのくらい練習していましたか?」
「スケート教室という形では、週3~4回。アイスホッケーのチームに入ったら、ほぼ毎日やっていました。小学校1年から6年までは、野球とアイスホッケーを両立してやっていました。」
「野球とアイスホッケー、どっちが好きだったのですか?」
「父親が野球をずっとやっていたので、父親的には野球をさせたいって思いがあり、僕も野球も大好きでずっとやっていました。でも中学校に上がる時にどっちか選択(せんたく)しなきゃいけなくて。多分父は野球を望んでいたと思うんですが、僕の中ではアイスホッケーの方が上回ってる部分があったので、アイスホッケーの道を選びました。」
「全然ちがうジャンルを両方されていたとは、スポーツ万能だったのですね。」
「スポーツは基本何でも好きで、何でもやりたい思いが強かった。体育の授業も好きでした。どっちが“得意”ではなく、どっちが“好き”かの判断で、アイスホッケーに決めました。」
「苫小牧は地域的に、野球も強いですよね。」
そうですね。僕は駒澤大学附属苫小牧高校(こまざわだいがくふぞくとまこまいこうこう)の出身で、マー君(田中将大投手:現ニューヨーク・ヤンキース所属)の1年先輩なんです。甲子園にも応えんに行きました。甲子園に行った年から、野球をやりたがる子どもたちがすごく増えて、アイスホッケーをやりたがる子どもが少なくなったのは、本当に残念な事だと思います。」
「勉強との両立は大変でしたか?」
「大変でしたね。やはりつかれている中、勉強しなきゃいけないので。両親からは両方出来ないとダメだと常々言われ、塾にも通わせてもらっていたので、夜は勉強をやっていた方かなと思います。」
「やめたい、と思った事はありませんか?」
「アイスホッケーを、ですか?! やめたいと思ったことは、本当に一度もないです! この先も、多分ないと思います。」
バランスの良い食事を作ってくれた母に感謝しています。
「子どもの時は、どのような朝ごはんを食べていましたか? また、好ききらいはありましたか?」
「朝は目玉焼きと、野菜と、パン……洋食派で。あとはヨーグルトとコーヒー牛乳。きらいなものは、レバーですね。これは今でも変わらず苦手です。ちょっと生臭い感じとか、口の中に感しょくというかにおいが残るので。野菜は、セロリがちょっと苦手ですが、あとはきらいなものはないですね。刺身(さしみ)も昔はあまり好きじゃなかったんですけど、今はほとんど食べられるようになりました。」
「ご家庭の食事で、何かおぼえていることはありますか?」
「僕の母親は栄養士の免許を持っていましたが、小さいころはそれがどういう意味なのか分かっていなくて、ただ出されたものを食べていました。今考えると、すごくバランスの良い食事だったと思いますし、今でも母親には本当に感謝しています。母親から栄養に関して厳しく言われることはなかったのですが、小さい時はやはり量を食べていたから、おかずもたくさん出してくれていました。」
「中学校は給食で、高校はお弁当との事ですが、お弁当で印象に残っていることはありますか?」
「2段のお弁当箱で、下はごはん一杯で、上におかず。卵焼きは毎日入れてほしくてそれだけはお願いして、あとは色んなおかずが常に4~5品入っていました。僕らの高校は昼から専門体育の授業でアイスホッケーをするので、消化の事を考えると1時間目の授業後にお弁当を食べないと、消化できないような状態でした。」
「お昼休みはお弁当を食べないのですか?」
「食べられないんです。そのままもう練習に行ってしまうので、お昼休みがない感覚ですね。練習を考えると、やっぱり4~5時間前には食べておかないといけないので、その時にお腹いっぱい食べていました。」
「そのような食べ方は、クラブの先生からの指導ですか?」
「いえ、自主的に。どうしても動く前ギリギリに食べてしまうと、練習がきついと、気持ち悪くなりもどしてしまうんです。他の部活の人達もやってました。」
「そういう食事のとり方でも良いのですよね?」
「もちろんです。競技によって多少はちがいますが、大体競技開始の3~4時間前に食事をとるのが一番良いと言われています。食べて消化しきれないうちに運動を始めると、横腹が痛くなって支障(ししょう)をきたすことも。さらに食べたものがエネルギーにならないうちに運動を始めても意味がないので、トップアスリートはそういうリズムにする選手が多くみられますが、高校生でそこまで考えていたなんて、本当に素晴らしいと思います。」
「午後の授業後は、何か食べるのですか?」
「おにぎりですね。練習が終わった時におにぎりを2個、3個食べて、帰宅して夜ごはんを食べる。」
「今もトレーニングや練習を始める時間と食事の時間の関係は守っていますか?」
「はい。今はチームで管理されていて、食事の時間も何時間前っていうので決められています。自分で考える時もありますし、チームが全部用意してくれる時もあるので、それにまかせてはいます。今チームでは4時間前に食事しています。」
「久慈選手はお母様が栄養士で恵まれていらっしゃいますが、学生時代に一番好きな食べ物は何でしたか?」
「母親の作るからあげは、大好きでした。あとメインのおかずよりも、副菜(ふくさい)っていうんですか、色々な種類を多く出してくれて。野菜の煮込みとか、マヨネーズで和えたものとか、酢で漬けたものとか、色々出てきました。小さいころからそうだったんで、どこの家庭でもふつうなのかなと思っていたんですけど、高校、大学で友人らに、そんなのゼイタクすぎるだろってよく言われました。」
東京暮らしでも、食生活をくずさないように心がけました。
「大学では、地元をはなれて自炊(じすい)されたのですか?」
「はい。東京の大学で1年目は寮(りょう)に入れず、部屋を借りて4人でシェア暮らしし、1年だけ自炊でした。今まで母親にかなり甘えてたので、料理はしましたけど、かなり大変でした。でも野菜はどうしてもとりたかったんで、毎日食べてました。昔から必ず、メインとごはんと、野菜を食べるっていうのがあったので。
自分ではごはんを炊いて、メインのお肉と野菜を炒めて、あとはおそうざいをスーパーで買ってきて食べるという形ですね。母親に、食事にはお金をかけなさいと常々言われていたので、仕送りでいつもおそうざいや野菜を買って、毎日食べていました。」
「『食べたものでからだは作られる!』素晴らしい教えですね。そういう考え方や食習慣って、育成年代(=ジュニア選手時代)が大事だとすごく思いますね。部活のパフォーマンスのためにも、食事をしっかり食べなきゃと意識されていたのですね。
新しい環境だと、せっかくの良い習慣もくずれてしまいがち。でも、そういう中でもちゃんと意識を高く持って、ずっとそれを続けてらしたのは、すごいと思います。」
「高校の先生から、大学に行くと色々な道があって、人に流されたり、ホッケー自体がダメになっていく選手が多いという話を聞かされていました。あいつは大学に行ってダメになった、と言われるのがどうしてもイヤだったので、これも勉強なんだという思いでやってました。アジアリーグに入るのも目標の一つだったので、からだを壊したらどうにもならないし。体を大きくするためには、栄養をとらないと大きくならないって理解していたので。食事に関しては、シビアに考えていました。」
「2年目からは寮に入られて、食事面はいかがでしたか?」
「寮では朝昼晩と食事が出ました。好きなメニューの時もあれば、あんまり好きじゃないメニューの時もある。1か月ごとにメニュー表が出るので、好きじゃないメニューの日は自分で何か買ったり。家からたらこや明太子を送ってもらって、寮で出るおかず以外に、それでごはんを食べたりしてました。」
「献立表を見ながら、『この日は嫌いなメニューだから外食にしちゃお!』という対応の選手が多いと思うのですが、自分の苦手なメニューの日に“追加のおかず”を考えている選手はそう多くはないと思います。しかも、“ご飯がススムおかず”を用意されたのはすごいことで感心しました。」
乳製品で体調を管理しています。
「アイスホッケーははげしいスポーツですが、どういう所を特にきたえていたのですか?」
「プロのレベルだと、全身バランスよく筋肉がないとダメですし、どこかだけ強くても、バランスが悪くなる。上半身、下半身、どちらも使う競技だから、両方きたえないといけない。体当たりや時にはケンカをしなきゃいけないスポーツなので、メンタルもかなり強くないといけないスポーツだと思います。」
「メンタルは、自然と強くなるものですか?」
「気持ちの弱い選手はいますし、プロの方がモチベーションの維持(いじ)が難しいですね。結果がすべての世界で、ファンの見る目やチームからの目、色々な目があるんで、自分のメンタルの持ちようは、なかなか難しいものがあると感じています。」
「プロになって、気をつけていることはありますか?」
「常に体が万全じゃないといけないんで、一番気をつけている事は、カゼをひかないことです。そのために毎日、ビタミンのあるものと、ヨーグルト、乳製品は欠かさずとっています。小さいころから冷蔵庫にヨーグルトなどの乳製品がよく入っていて、すごく好きでした。僕の中では乳製品で体の管理をするという考えがあって、腸も整ってくるので。」
「乳製品の効果は出ていますか?」
「そうですね、かなり出ていると思います。カゼもほとんどないです。乳製品をやめた事がないので、やめた時にどうなるのかが分からないんですが(笑)。」
「海外の遠征(えんせい)で、ヨーグルトがなくて体調をくずすこともありましたか?」
「ありましたね。海外でもスーパーに行けばあるんですけど、最初は海外のヨーグルトがどんなのか分からなかったので。ヨーグルトのない生活をすると、どうしても食べたくなりますし、何かこう、リズムがつかない。便もいつもこの時間に出てたのに、何で出ないんだろうとか。ヨーグルトは自分のリズムを作るのにもいい感じですね。」
ケガをしたときには、ビタミンCをこまめにとりましょう!
「アイスホッケーは短時間で交代していますが、やはりそれだけハードで体力がもたないものですか?」
もたないですね。常に全力疾走(しっそう)で息もすぐ上がってしまいますし、1分もてばいい方。全力で走れば、もう30秒でつかれてしまいます。状況によっては2分以上出なきゃいけない時もあるので、その状況によってそれに合わせた動きをします。」
「試合や練習後、すぐに何かを食べるのですか?」
「今はチームで栄養補給のゼリーが置いてあるので、試合が終わった後はすぐに補給してます。あとはサンドイッチとおにぎりが、常に試合前から置いてある。試合前に食べる人もいますし、終わってからすぐ食べる人もいて、殆どの人がそういった補給はすぐにします。どうしても疲れが残るので、いかに軽減させるかって考えると、そういった栄養補給がかなり大事なんだと思ってます。」
「これまで大きなケガをされた事は?」
「アジアリーグに入ってからの大きなケガは、ヒザの靭帯断裂(じんたいだんれつ)が初めてで、今回の経験で色々な事を学びました。リハビリ中何を食べたらいいかチームの食事担当の人に聞き、青魚がいいと勧められ食べたりしています。大きなケガをした時に、ただ休んで治すだけじゃなく、体の中から痛みを取っていくっていうのが大事なことなんだと学びました。」
「私は靭帯(じんたい)のケガの選手には、ビタミンCもしっかりとるように勧めます。骨や靭帯、軟骨(なんこつ)の成分にはコラーゲンが多く含まれているのですが、コラーゲンの生成にはビタミンCが欠かせないのです。またケガの時はいつも以上に心身ともにストレスが多くなるものですが、ストレスから自分の体を守る抗ストレスホルモンもビタミンCがないと出来ないのです。」
「ビタミンCはどのくらいとれば良いですか?」
「ビタミンCはとりすぎの心配はほとんどないので、選手の場合 普通の方の2倍以上は摂りたいですね。ただ、ビタミンCは水溶性(すいようせい)で一度にたくさんとっても尿(にょう)として出てしまいますから、なるべくこまめに。
また、コラーゲンは、関節部位やじん帯などのケガの回復に関わるだけでなく、“真皮”の成分でもあるので、すり傷などの外傷の回復にも関係します。ということで、スポーツ選手、特にケガをしているときにはビタミンCが大事ということになります。
もちろんバランスが一番ですが、ケガからの回復という観点からすると、たんぱく質やカルシウム同様にビタミンCは大事だと思います。」
「ビタミンCが一番手っ取り早くとれる食べ物は何ですか?」
「一般的にはフルーツですが、色の濃い野菜(緑黄色野菜)にもビタミンCは多くふくまれています。その他においも、じゃがいもとかサツマイモにも含まれています。ビタミンCは熱に弱いとよく言われますよね。でもじゃがいもとかサツマイモのビタミンCは、ビタミンCをでんぷんがコーティングしているので、熱を加えても他の野菜に比べると、比較的こわれにくいと言われてます。」
アイスホッケーは、子どもの心身を強くきたえてくれるスポーツです!
「アイスホッケーを続けてきて、良かったと思う事を教えてください。」
「この競技は、スピード感があり、展開が早い。頭も体も使いますし、そういう面白さが魅力(みりょく)です。
アイスホッケーがとてもマイナーなスポーツであることを実感していますので、メジャーにしたいという思いが強いです。色んな方にアイスホッケーを見てもらいたい。個人としての目標もありますが、今はメディアや取材を通して色々な方にアイスホッケーとはどういうスポーツか、伝えていきたいと思っています。」
「これからホッケーをやるお子さんに、伝えたいことはありますか? また、うまくなれるコツなどあれば教えてください。」
「アイスホッケーはテレビで放送されていないし、なかなか見る機会も少ないけれど、まずは観て、どういうスポーツかを感じてもらいたいです。それで始めたいっていう思いがあれば、スケートを滑る面白さ、パックを打つ、シュートする楽しさっていうのも感じてもらえたらと思います。
どのスポーツにも共通すると思うんですが、一番は大好きでないと続ける事が難しい。いくら向上心があっても、その競技が好きじゃないとうまくなっていかないと感じます。」
「保護者の方には、どういうことを支えてほしいと思いますか?」
「食事面もそうですがど、一番はやっぱり応えんしてもらえることですね。過保護すぎると、この競技はあまりうまくいかない。ケガは当たり前ですし。だから痛みに強くなるし、メンタルもきたえられます。転んだ時にも、これぐらいの痛みだったらと、強い気持ちになれます。それがいいのかは分からないですけど……アイスホッケーをやれば、強い子供になれると思います!」
取材日:2014年11月14日
選手&チームのご紹介
久慈 修平
背番号21。1987年生まれ。170cm・78kg。ポジションはフォワード。4歳からアイスホッケーをはじめ、駒沢大学附属苫小牧高等学校から早稲田大学へと進み、卒業後に王子イーグルスに入団。大学時代から世界選手権のU18に2回、U20に2回選出。その後も代表として活やくを続けている。【王子イーグルス】
本拠地は、北海道苫小牧。1926年に「王子スケート同好会」としてはじまり、1931年に「王子製紙アイスホッケー部」となった。翌1932年の第3回全日本選手権大会に初優勝し、以来、全日本選手権35回、日本アイスホッケーリーグ13回の優勝経験を誇る。歴史、戦績ともに、日本アイスホッケー界のリーダー的存在。2007-2008シーズンでアジアリーグ初制覇。2008-2009シーズンより、チーム名を「王子イーグルス」と改め、チームロゴも新しくなった。2011-2012シーズンは4季ぶり2度目のアジアリーグを制した。
公式サイト:http://www.ojiholdings.co.jp/hockey/