スポーツ食育インタビュー

日本の女子ソフトボール界を代表するピッチャー、上野由岐子(うえのゆきこ)選手。前編では、子ども時代の食生活についてうかがいました。 そして今回の後編では、選手としての食生活や、食事に対する熱い思いをたっぷりと語っていただきました!

セルフケアの基本は食事。自分が食べるものに責任を持つこと。

「遠せいで、国内だけでなく海外に行くことも多いと思いますが、そういうときはどのようなものを食べていますか?」

「遠せいでは、朝食はバイキングスタイルが多いんですが、最初の1~2年は毎朝同じメニューを食べるくらい、好きなものしか食べていなかった。でもアテネオリンピック以降、食事に対する考え方が変わりました。
アテネオリンピックでは、自分は体調面で失敗した、という意識がありました。だから体調維持(いじ)のために色々な勉強をして、自分の口に入れるものは自分で責任をとれるようにしよう、と考えるようになったんです。
自分が食べたものは、体に直結しています。マッサージをして体をほぐすのも大切だけれど、食事で自分の体をコントロールしてあげないと、すぐに体調に出てしまいますから。」

セルフケアの基本は食事。自分が食べるものに責任を持つこと。

「すごい!『食事で自分の体をコントロールする!』 標語にしたい言葉ですね!。」

「セルフケアの根本は、食事にあると思っています。きちんと考えて食事をすれば、お腹もいっぱいになるし、体にもいいし、『自分でしっかり管理している』という意識も生まれる。一石三鳥です(笑)。」

「具体的に、どのようなメニューを選ぶのですか?」

「まずは、炭水化物でごはん。おかずは、たまご・肉・魚・豆の4種類の中から、必ず2種類を入れます。野菜はできるだけ温野菜でとるようにします。生野菜だと、どうしても必要な栄養素をとるために量を食べないといけないので・・・。緑黄色野菜やイモ類、食物せんいが豊富なレンコンなどを意識していますね。栄養価が高いものは、ちょっとでも食べていると安心できるんです。もちろんその日の体調や気分もありますから、量は加減しますけれど。元気でたくさん食べられるときは、生野菜のサラダをたっぷり食べたりもしますよ。」

「そういえばアテネのときに、たっぷりのサラダを食べていたのを思い出したわ。」

「牛乳が苦手なので、その代わりの乳製品としてヨーグルトはよく食べてます。和食でも洋食でも、食事のプラスアルファにちょうどいい。ホテルの朝食によく出るカットフルーツは、そのままだと食べにくいので、無糖(むとう)のヨーグルトをかけたり。休みの日も手軽だからよく食べますよ。ヨーグルトは体にいいから『間食しちゃった』というざいあく感がないところもいいですよね(笑)。」

「試合がはじまると、食生活は変わりますか?」

「基本は変わりませんが、夕食のときのタンパク質を肉よりも魚、肉の場合もとり肉にするとか、あげ物ではなく焼いた形にしています。
試合後すぐに移動する場合は、やはりゼリー飲料をとったりもしますけど、間食をしすぎて食事がとれなくなるのは、自分にとって一番体がリカバリーしない、最悪のパターンなんです。」

「試合の時に何を食べたらいいかたずねられる事が多いのですが、競技種目によって多少ちがいはありますが、基本的な考え方は上野選手のおっしゃる通りです。」

「栄養のことも、わからなかったらまず母に聞いています。母は自分のことをアスリートとして見てくれていて、きちんとアドバイスしてくれる。体のことは、手間もお金もケチるな、と。ケチった分だけ、体に代しょうがくるから、しっかりしたものを食べて、その分かせぎなさい、と言われます(笑)。」

食事のコントロールでは、ガマンではなく「前向きな意識」

「海外で、食生活のちがいにおどろいたことはありますか?」

「まずは味つけがちがうので、同じメニューでも日本とはちがった料理を食べているみたいです。サラダも、海外の野菜は固いし、ドレッシングもこい味のものが多い。だから野菜は、ほぼ塩かしょう油で食べています。ヨーロッパの食事は油が強いかな。食べやすかったのは、カナダやオーストラリア。日本食も多くて、おいしかったです。
外国人選手は、朝食にシリアルをよく食べていますね。朝から大きなボウルにガシャガシャ入れて、牛乳をかけて。『あれで、よく体がもつなー』と感じました。」

食事のコントロールでは、ガマンではなく「前向きな意識」

「シリアル自体は穀類(こくるい)ですから、エネルギー源の炭水化物もふくまれていますし、ナッツやドライフルーツが入っている場合はミネラルもとれます。さらに、一しょに牛乳やヨーグルトを合わせれば、栄養的に悪くありません。問題は量をたくさんとりにくいので、シリアルだけが主食だと運動時には“もたない”ことも・・・。パンなどを加えて“主食2品”にしたり、おやつにするにはおススメです。」

「ファストフードを食べる選手も多く、日本人とは食の基本ラインがちがうな、と感じました。日本人選手は、試合中にはあまりファストフードを食べませんね。」

「アテネオリンピックのとき、選手村にハンバーガーショップがあって、選手たちが『いつ食べようか』と相談していたのを、よく覚えています。『予選リーグと決勝リーグの間にするか、それとも決勝リーグが終わるまで取っておくか』って。
いつでも飛びついて食べるのではなく、試合をメインに考えて勝つためのコンディション作りをしているんだな、と感心しました。」

「自分の中に、アスリートとしてのプライドというか、意地のようなものがあって。今食べたいものを食べて体調をくずして負けるなら、勝ちにこだわって、勝つためにガマンしようと・・・。いや、ガマンではないですね。もっと前向きな意識です。」

「でも、食べざかりの若い選手たちは、食事を管理するのは大変ですよね。」

「私は、今は後はいを指どうする立場にあるのですが、練習後すぐにおかしを食べようとする選手には、注意しています。『運動した後の空腹時に食べるものが、一番よく吸収(きゅうしゅう)されるんだから、それをおかしにしちゃダメ』って。『ちょっと待てばごはんが食べられるんだから、少しだけガマンしなさい』と言っています。」

「お母さまに教えてもらったことを、今、上野選手が若い選手に伝えていらっしゃるのね(笑)。」

「本当にそうですね。今は、母の言っていたことがよく理解できます(笑)。」

食事の大切さを、家族でしっかりと考えてほしいです。

「最後に、スポーツをがんばる子どもたちと、それを支える家族の方へ、メッセージをお願いします。」

「食事の時間を、大切にしてください。家族がそろって食事をする団らんの時間を持つことは、とても大切だと思う。
もし子どもが反こうしても、そこはガツッと食べさせて(笑)。親は、子どもがキライで無理に食べさせているのではなく、子どもの体のためにやっているんだということ、食事の大切さをしっかりと伝えてあげてください。
スポーツ選手は、技術力が上がるのも大切だけれど、上手になるためには食べることも同じくらいか、それ以上に大切です。食べられる量=体力です。体力をつけるなら、しっかり食べる。食べる選手は動けるし、持続力もあります。
一流の選手になるためには、テクニックだけをみがくのでなく、私生活や人間として一流になることが近道だと思う。スポーツが上手になりたいから、しっかりご飯を食べよう、と考えるようになってほしいです。」

「ありがとうございました!」

取材日:2013年2月13日

選手&チームのご紹介

上野由岐子選手

1982年7月22日、福岡県生まれ。九州女子高校(現福岡大学付属若葉高等学校)に世界ジュニア選手権で優勝。
'01年日立高崎(現ルネサスエレクトロニクス高崎)入社。'04年アテネ五輪でチーム銅メダル、'08年北京五輪ではエースとして金メダル。'12年7月の世界選手権で米国を破り、42年ぶりに優勝。173cm、72kg。

【ルネサスエレクトロニクス高崎 女子ソフトボール部】
日本ソフトボールリーグ女子1部所属。1981年に旧日立高崎工場創立10周年記念事業として創部され、2010年にルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスとの合併により、ルネサスエレクトロニクス高崎 女子ソフトボール部にチーム名を変更。 群馬県高崎市を拠点とし、過去の優勝回数は、リーグ8回、全日本総合15回、全日本実業団2回、国体11回の計36回の全国最多を誇る。

編集部より

“強い弱いは執念(しゅうねん)の差” インタビュー終了後、上野選手にサインをしていただきました。「何か一言、コメントを」とお願いしたところ、しばらくの間色紙をじっと見つめ、そして力強くていねいに書かれた言葉が・・・「強い弱いは執念(しゅうねん)の差」。この言葉に、胸を打たれる方は多いのではないでしょうか? 私たちの想像ではおよびもつかないような、壮絶(そうぜつ)な死闘(しとう)を繰り広げてきたからこそ、最後には「精神的な強さ」が勝敗をわける・・・。そのことを身をもって経験されてきた上野選手から生まれたこの言葉に、深い想い(メッセージ))が感じられます。 上野選手、これからもご活やくをお祈りしています。本当に、ありがとうございました!