スポーツ食育インタビュー

アメリカで活躍するも挫折を経験し、日本に帰国。母やコーチの支えで復活を果たした元プロテニスプレーヤーの森上亜希子さんに、苦しかった経験や現在の活動についてお話を聞きました。

試合中に足がつる!原因はナトリウムのとり過ぎ?

「試合中の捕食について教えてください。途中でバテて困った事はありましたか?」

「それで悩んだ時期があって、自分では試合前に十分食事をとり、試合中も飲んでも良いと言われていたものを摂取していましたが、一時期脚がつるのが止まらなくなったことがありました。そこまで苦しい環境だったわけでもないのに、第1セットを終えるとつり始めて、その後はまたつるんじゃないかと気にしながら試合に出ないといけない。血液検査をしたところ、ナトリウムとカリウムのバランスが崩れていると言われました。」

「試合中に足がつるのは、選手にとってどんなにつらかったかと思います。理由はいろいろあるかと思いますが、食事に関係するのは、水分補給がうまくできていないことやミネラルバランスが崩れていることと言われています。」

「一つ思い当たるのが、栄養士からのアドバイスです。汗で塩分が出ているから塩を多くとった方がいいと言われ、何かにつけて塩をかけて食べていました。それが良くなかったのかもしれません。」

「昔も発汗量が多いときに“塩を舐める”と言うことはよくありました。
今でも発汗量が非常に多いときは塩を舐めることもありますが、直接舐めると摂りすぎになることもありますよね。塩分の摂りすぎは発汗量を抑えて、体から熱が逃げにくい環境を作ってしまうこともあるので、直接舐めるよりもスポーツドリンクなどで補給するほうがおススメです。」

「試合中、足がつった際に補給するとよい食べ物はありますか?」

「よく言われていますが、カリウムが豊富なバナナは良いと思います。最近はミネラル補給用のゼリーもあるようです。その他にはトマトジュースやスポーツドリンクももちろん効果があると思います。」

ひさこ先生おすすめ!「汁物」は食べるスポーツドリンク

「試合中の水分補給は大丈夫でしたか?」

「割と汗っかきなので、自分では気をつけていたつもりです。水とスポーツドリンクを混ぜて飲むようなものを2本用意していました。」

「1試合でどの程度の水分補給をされていましたか?」

「1試合大体2時間半くらいだとすると、多分3リットルは飲んでいたと思います。練習前の体重と練習後の体重を測って、そこで誤差がなければ体内の水分量は問題なし。結構気をつけていた方だと思います。」

「1試合3リットル近く飲むのであれば、水だけを補給すると体内のミネラルが薄まる心配があるので、水分補給にはミネラルを含んでいる水(麦茶)とスポーツドリンクとの併用をおすすめしています。私は、試合前の食事には必ず汁物を飲むように言っています。そうすると汗で失うナトリウムも取れるし、具沢山にすれば野菜から溶け出たカリウムもとる事が出来て、さらに水分もとれる。私は、“汁物は食べるスポーツドリンク”だと言っています。」

「その汁物はおみそ汁ですか?ミネストローネとかでも良いのですか。」

「もちろんミネストローネでもいいと思いますが、トマト味のスープが苦手な選手や脂質の多いベーコンが気になる選手もいるので、みそ汁の方が万人向けの場合もあります。」

イップスになり日本に帰国。母や監督の支えでピンチを乗り越えた

「テニスを辞めたいと思う程の挫折やご苦労はありましたか?」

「ありました。テニスを辞めていたかもしれない一番の危機は26~27歳の頃で、グランドスラム4大大会の本選に出場し世界ランキングも2桁をキープ出来ていたとき、ある日突然バックハンドが打てなくなったんです。多分イップス※だったと思います。今までどれだけバックハンドを打ってきたのかわからないぐらい打ってきているはずなのに、グリップの握り方もよく分からなくなって、バックバンドが怖くなってしまったんです。試合をはもちろん、練習でも打てなくなっちゃった。そうすると練習コートに行くだけでも涙が止まらなくなり、一番好きな睡眠もとれなくなりました。どんなに緊張してもどんなに負けが続いていても睡眠に関しては問題なくとれていたのが、全然眠れなくなり、目をつぶると打てなくなる瞬間がフラッシュバックし続けてついには寝るのも嫌になり、夜中にアメリカから日本の母に電話して相談する日々が続きました。さすがに母もこれはまずいと思い日本から飛んできました。
テニス生活をする上で、アメリカは練習コートやトレーニングする施設がすぐ近くにあり環境も整っていて間違いなく自分に合っていたと思います。ただそれが逆に、オンとオフの切り替えが出来ない環境でもありました。母から『一旦日本に全部引き揚げよう、これでは鬱(うつ)になってしまうかもしれない。私にとってあなたはテニス選手である前に私の娘で、あなたのこれから先の人生を考えるとテニスなんかやめてもいい、日本に帰ってきなさい』と言われ、荷物を全部引き揚げて帰国しました。
日本に戻りしばらくは何もせずの状況でしたが、そんな時に当時の日本代表監督が自宅に来て、フェドカップに出てほしいと言われました。テニスは基本的に個人スポーツですが、フェドカップは国別対抗戦で団体戦です。私は日本を代表して戦うことが好きでしたし、チームのみんなで戦う団体戦が好きだったのもあり、フェドカップになると勝率が良かったんです。でもチームは4人しか選出できないので、私のような戦力にならない選手を入れるなんてすごくもったいない。「今の私はこんな状況でチームに入るのは無理です。他の方を選んでください」とお断りしました。ですがそれから毎日2ヶ月位通い続け『試合に出なくていい、あなたがチームにいるだけでいいから』と説得されました。チームメイトはライバルでもありよき友でもありますが、自分の弱みは見せられない。私がこういう状況になっていることは一切話していなかったので、絶対試合に出ないという約束でチームに入ることにしました。しかし国の代表選手として全く練習しないわけにはいかないため、初心者のやるような練習から始めました。その練習に毎回監督も来てずっと見守り続けてくれていました。
結局私は試合に出ないまま日本の勝利が決まったのですが、残りのダブルスで杉山愛ちゃんと組んで出るように言われました。当時日本のダブルスは世界ナンバーワンで、しかも杉山愛ちゃんと組むということは負けられない。とにかく必死にやるしかなくて…とにかく入れるだけみたいな感じでしたが、愛ちゃんにかなり助けていただき、試合に勝つことができました。それで安心したのか、その後大会に出ているうちになんと自分のピークがそこで来て、ツアータイトルが取れたり、ウィンブルドンの3回戦まで行けたりしました。自分の人生最大のピンチを救ってくれたのは、母や監督の存在が大きかったと思います。」
※イップス(yip)
精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレー(動き)や意識が出来なくなる症状、運動障害。

「その時期の食欲はどうでしたか?」

「食欲もなくなりました。トレーニングをしても食べないと筋肉もつかなくて、体力を消耗するだけで眠れない。悪循環におちいり、それが数か月続きました。自分の中では、その数か月が何年もの長さに感じていました。」

「その状況を乗り越えられたのは、周りの環境に恵まれていたことも大きかったですね。」

「あの時テニスを辞めていたら、やり残したことがいっぱいあって今きっと後悔していたと思います。辛くて辛くて眠れないくらい辛かったのを乗り越えさせてくれた母やコーチのおかげで今の人生があるので、続けていて良かったなと思います。現役中にこの話をしたことは一度もないです。そんな時代もあって、そこを乗り越えられたから今があるのだと。自分一人では当然乗り切れなかったことだと思いますが、でも頑張ったからごほうびもありました。」

一人ひとりの夢に向かって、諦めずに頑張ってほしい

「引退後の活動として、社会貢献活動の“スポーツこころプロジェクト”に参加して子どもを指導されていますが、その想いをお話しいただけますか。」

「私はテニスをしてきて楽しいから子どもたちにもテニスをやってほしいという思いはありますが、基本的にはどんなことでもいいので長く続けてほしいと思っています。勉強でもなんでもいいから、続ける中で大なり小なり挫折があって、それを乗り越えていくと思うので、スポーツに関わらずどんなことでも続けてほしいし、それには夢を持たないと続けられないとも思います。夢は人それぞれです。世界一になりたいという夢でも、町の小さな大会で優勝したいというのも立派な夢です。夢に大きさは関係ないと思うので、どんな夢でもそれに向かって頑張ること。たとえかなわなかったとしても、その努力はどこかできっと生かされると思います。“夢先生”をさせていただくときは、どんなことでも夢を持ってあきらめずに頑張ってねと話しています。」

「テニスの指導で、何かこだわりはありますか。」

「年代やレベルによって指導内容も違ってきますが、幼稚園や小学校低学年の子にはテニスを通していろいろな人とお友達になれるし、テニスを続けて上手になれば世界中の人とお友達になれて楽しいスポーツだよって話しています。高学年、中学生、高校生、プロ目指す子たちには「甘い気持ちを持っていると戦えないよ」とかちょっと厳しいことも言いながら、でも自分が本当にやりたい事はなんなのか、テニスにおいても大会の目標でもいいし、自分がやらなきゃいけないことを必ず一つ見つけて練習に取り組むよう言っています。テニスは技術的にいろいろあって正解があまりないスポーツなので、どちらかというと私はメンタルの部分で、大会の大きさに関わらず勝ちたいと思う気持ちを大切にするよう指導しています。テニスは基本的に試合の時間制限がないので、挽回ができる競技です。最後に握手するまでどっちが勝つか分からない、何が起こるか分からない。だから絶対に最後まであきらめないよう伝えています。」

「保護者の方のサポートについてアドバイスをお願いします。」

「あまり言わないことですね。色々言いたくなっちゃうと思いますがそこは我慢して見ているだけにして、何も言わずにコーチにお任せしましょう。食事や、送り迎えにしても本当に大変だと思いますが、そういうサポートが子どもにとって良いと思います。」

選手&チームのご紹介

森上亜希子(もりがみ・あきこ)さん

生年月日:1980年1月12日生まれ
出身:大阪市
身長:167センチ
利き手:右
バックハンド:両手打ち
キャリア自己最高ランキング シングルス41位

7歳からテニスを始め、13歳でIBM全日本選手権出場。14歳で世界ランキング4位(14歳以下)に。16歳でパーマープレファトリースクール(フロリダ)にテニス留学。17歳の時ウインブルドンジュニアでベスト4入りを果たす。
1998年、プロへ転向。2002年フェドカップ日本代表に選出され単複とも全勝。2003年全豪オープングランドスラム初出場初勝利。2004年からはコンスタントにグランドスラム本戦に出場し、アテネオリンピックでも日本代表に選出される。
2007年WTAツアープラハオープン初優勝(日本人選手8人目)、同年ウィンブルドン3回戦進出。2009年11月12日全日本選手権にて女子シングルス準々決勝を最期に第一線から引退。引退後はテニスの普及に関する仕事やプロテニスプレーヤーとしての経験を活かしたテニス解説を行う。また、明るい性格でスポーツ、バラエティー、コメンテーターなど幅広いジャンルで活躍中。