管理栄養士・健康運動指導士の松峯敏和さんは、リオ・オリンピック、パラリンピックで日本選手に向けた調理を担当していました。恩師でもあるひさこ先生との対談で、オリンピックでのエピソードや、今後の目標についてお話をうかがいました。

スポーツ栄養に関わりたいと願い、シダックスに入社。数少ない男性栄養士として活躍

「専門学校卒業後は、どのように活動したのですか?」

「卒業して栄養士になりましたが、管理栄養士になるには実務経験が3年いるので、実践の場を探しました。卒業後すぐにスポーツ栄養の現場で働ける人は本当に一握りしかおらず、人脈も少ない中ですごく悩んでいた時、卒業生が何人かいた現所属先のシダックスの話を聞いた。スポーツ栄養に関わる機会も期待できて、給食の委託会社の中では一番理想に近いと感じました。オリンピックにも関わっている会社なので、スポーツ栄養をやりたくて入社する方達がたくさんいました。」

「多くの希望者の中から選ばれたのは、やはり熱意や、それだけの意気込みが買われたからでしょうね。」

「入社してからも、社内でスポーツ栄養の現場で活動されている方達と知り合い、人を紹介していただいたり情報を仕入れたりして、交流してきました。」

「栄養士の入社は多いのですか?」

「全国的に見れば多いです。基本的に現場となるのは学校給食や社員食堂、高齢者施設が9割くらいで、スポーツ栄養に携われる人は本当に一握り、1割いるかいないかです。」

「元シダックスの先輩からも、松峯君はとても一生懸命だと聞いています。リオ・オリンピックの時は、栄養士になって3年目で管理栄養士をまだ取ってなかったのに選ばれるなんて大抜擢(ばってき)だと称賛(しょうさん)されていました。」

「ひさこ先生から見られて、松峯さんが選ばれる理由は、どこだと思いますか?」

「とにかく熱意。熱意はすごいと思います。あとは、栄養士は人間相手の仕事だから、人間性とかとっつきやすさとかが大事。人間同士のつながりを深めていくんだから、ちょっと知識があったとしても、とっつきにくい人では務まらない。努力すれば知識は増やせるものだから、スタート時点では知識量が少なくても、人間性が大事だと思っています。そういう面で、松峯さんは努力をするし、人当たりはいいし、謙虚だし。女性が多い職域の中で男性がやっていくのは、相当の努力と思いがあるのではと思っていました。」

「男性が活躍することで、スポーツや食べることが好きなら栄養士や管理栄養士という選択肢もある、という事が伝えられますね。」

「セミナーでも、最近は必ずと言っていいほどスポーツ栄養をやりたいと言う方がいますが、そんな方にとって今日のインタビューは、とても参考になると思いますよ。色々な競技をやり、挫折や無理な減量を経験して多くのことを学んだ松峯さんのお話は、私も勉強になりました。ありがとうございました。」

「もし、私と同じようなことで困っている方がいたら、共感していただければと思います。ひさこ先生がおっしゃる通り、栄養士は女性社会で、男性はまだまだ少ないですが、だからこそ男性の誰かが広告塔となり、こういう栄養士もいるんだとアピールすることで、幅が広がると良いなと思っています。中には男性の栄養士が良いというクライアントもいるみたいで、需要は増えていると思います。」

「松峯さんが新たな分野を切り開いて活躍しているので、目標にする方もいると思います。」

「人と同じことをあまりやりたくないという気持ちが今の私の原動力になっていて、あえて男性が少ないところで活躍したいと思いました。競技をする時、『人と同じ事をしていたらそこまでだ』というのが親の考えで、また、『目標にされる人になれ!』とも言われてきました。その時は意味が全然分からずに適当に聞いていたんですが、大人になると『目標にされる人になりたい!』と思うようになりました。」

リオ・オリンピックのハイパフォーマンスサポート・センターで調理を担当した経験は、鳥肌モノ

「私は、アテネオリンピックに行かせていただいた事が思い出にも自信にもつながり、すごく良い経験をさせていただいたと思っています。あの頃にはなかったハイパフォーマンスサポート・センターは、どちらかと言うと試合当日にパフォーマンスを上げるための食事サポートだから本来のスポーツ栄養学とは少しギャップがあったのでは?という気もしています。リオ・オリンピックに行った経験を通して感じた事、考えが変わった事や行って良かった事などを教えてください。」

「一番感動したのは、ハイパフォーマンスサポート・センターは栄養だけじゃなく、他の役割もあると知ったこと。メディカルやトレーニングもそうだし、テレビが何台も置いてある戦略、分析をするような場でもあって、色々な方がたずさわっているんです。1人の選手、1つのチームを様々な角度から大勢がサポートしている4年に1度のオリンピックの重みや、見た事の無いほどの団結力、チームジャパンを感じられる場所で、そこに一番感動しました。こんなところがあるんだって。」

「経験しなければ、分からない事よね。」

「そうなんです。1人の選手、1つのチームを支えるために、これだけの人が関わってサポートして、その団結力でメダルを狙うっていうチームの結束をすごく感じて。毎日1か所に何十人と全員で集まって報告会みたいな事もしているし、選手についてみんなで話し合い戦略を練ったり、栄養の事など全体でミーティングしていました。」

「それはもちろん国別ですよね?」

「そうです。ハイパフォーマンスサポート・センターは日本チームだけの建物なので、日本選手をサポートしてるトレーナーとか、色々な関係者がいるんです。これが究極のスポーツ栄養で、これこそ選手が最高のパフォーマンスを発揮する事ができる所じゃないかと。だからリオ・パラリンピックも金メダルはなかったんですが、銀メダルは過去最大で、日本のオリンピック史上メダル最多になって、そういうのがあったからこそ結果につながったんじゃないかと。今思い出しただけでも本当に鳥肌が立つくらいです。」

「食事をご担当というのは、レシピから調理までですか?」

「そうです。オリンピックはフル・ミールと言って3食、パラリンピックは補食という形でした。」

「基本は選手村の中にある食堂で、そこは各国のメニューや宗教にも対応したメニューがあります。また、ファストフード店のような施設もあり、IDを持っている選手やスタッフなら24時間利用できます。それとは別に、各国がやっているハイパフォーマンスサポート・センターのようなものがあります。日本のハイパフォーマンスサポート・センターには日本語メニューがあり、飲み慣れたみそ汁などの日本食もあり、選手は両方うまく使い分けて利用しています。オリンピックでは食事の形態で3食出されるのですが、パラの場合はお弁当とかミールボックスみたいな軽食をテイクアウトで出したりする、そこへ派遣されていたんですよね。」

「私もシフト制でお弁当みたいな感じの補食を用意していて、オーダーが入ると作ったりしていました。」

「試合にあわせてとんでもない早い時間にオーダーがあったりしますよね。でも大体、皆予約制ですね。」

「おっしゃる通り、様々な競技場を転々としていて、競技団体によっては移動しないといけない。選手村に日本人棟があってそこに皆さん寝泊まりしていますが、そこから試合会場がすごく離れていると、朝早くから出発しないといけないので、早朝に対応することも実際ありましたね。」

「移動が結構大変なんですよね。」

「オリンピックは3食出るので、そこで食事を済ます事は可能でした。パラリンピックはおにぎりとか補食しか出ないので、やっぱりメインのおかずとかは食堂で食べてました。パラリンピックはまだまだスポーツ栄養というのが浸透していない。JISS※を使えるオリンピックの選手たちは栄養指導もありますし、知識もある。パラリンピックの選手達もそういう知識はあるものと私は思っていましたが、やはりJISSをなかなか利用できない事もあり、競技団体のトレーナーや監督、選手自体も知識を得る環境があまりない。だからスポーツ栄養に接する機会がないのだと思いました。オリンピックのトップ選手には行き渡っているんですが、パラリンピックの方にはまだまだ…というのが一番感じた事です。」
※JISS(Japan Institute of Sports Sciences) 国立スポーツ科学センター: 日本のスポーツの国際競技力向上を目的に、東京都北区西が丘に設置されたスポーツ科学・医学・情報研究推進の中枢機関。

「もどかしいところもあるのですね。」

「踏み込んだ話をすると、パラリンピックの選手は基礎代謝などの数値やデータが健常者と比べて大分変わります。研究自体がまだまだ進んでいなくてデータが全くない状態で、手探りな部分があります。現状まだそんな状況で、この選手にどのくらい食べさせたらパフォーマンスが上がるとかが定まってないため、指導する方も手探りの状態なんです。」

「欠損部位によっても違うなど、10年以上前からずっと問題にはなっていますね。」

「そうですね。現場に行くまで全然知らなくて、そういう問題に直面して痛感しました。自分は選手と直接やり取りするわけではなく、帯同してるスタッフや、スポーツ栄養アドバイザーとして直接選手についている先輩方とやり取りして、料理を作って届けるという作業がほとんどでした。決勝戦の前などは、現地でなかなか食べられないおにぎりを依頼されて、おにぎりにちょっとしたメッセージを添えたりもしました。獲ったメダルをみせてもらった時は本当に感動しましたし、競技後選手の方達がすごく美味しかったとお礼を言いに来てくれたのが、一番嬉しかったです。このために頑張った1か月、スポーツ栄養ってそういう事なんだ、選手に結果残してもらってはじめて自分たちがやってきた事が正しかった事につながるのかなって思った瞬間でした。」

ジュニア世代への指導が面白い!目標はひさこ先生のような存在になること?!

「今後の目標を教えてください。」

「今は色々な選手と関わる機会があって、たとえば埼玉のスポーツ栄養研究会から女子社会人や中学生の部活など、選手やチームへの指導依頼が来たり、関西の知り合いから選手を見て欲しいなど、ジュニアの世代中心ですが依頼を受けています。トップ選手にスポーツ栄養の指導をする憧れもありますが、ジュニア世代はこれからが楽しみで、関わらせてもらっていて面白いです。」

「トップ選手は技術も知識も完成していることが前提ですからね。」

「そうですね。ジュニアには伸びしろがある。自分も中学、高校と選手経験がある中で、スポーツ栄養の情報があればパフォーマンスや結果を変えられたんじゃないかと思っているので、自分とかぶる部分もありますし、だからこそ応援したくなります。自分ができなかった事を、選手やサポートされている方にしてもらう事を目標にしているので、ジュニア世代に関わっていきたいですね。」

「将来の大きなビジョンも教えてもらえますか?」

「それはもう、ひさこ先生みたいな存在に!」

「何言ってるの(笑)!」

「本当ですよ。オリンピックには委託業者として行きましたが、スタッフとして帯同するのが最終目標です。今回経験したからこそ、そうなりたいと思うのだろうし、感動した瞬間をもう一度経験したいという気持ちもある。その大きな目標に向かい、それまではジュニア世代を見ていきたいと思います。」

「ひさこ先生から、何かアドバイスはありますか?」

「私は担当するその競技の事も好きになり、選手の事も好きになって、関わる人達とリスペクトの関係を持ちながら、究極の目標に向かって仲間になりたいと思っています。その目標の結果、もしかしたら1位じゃないかもしれないけれど、共通の目標を持って、良い意味で自分の立場をわきまえ、他の方の部分をリスペクトしながらやる事がやはり大事なのではと思います。」

「管理栄養士の方へ、現在のお仕事のアピールポイントを教えてください。」

「この仕事のアピールポイントは、当たり前ですが“(選手の最大の目的の)勝つ”ということにメンバーの一人としてかかわることができ、喜びを共有できることです。私自身について言わせていただけるとアピールポイントと言うよりも最大の弱みというのは、若い頃は『スポーツ栄養学』という授業や専門書があまりなかったので、学生時代にしっかり学ぶことができなかったことです。ですから、ぜひ目的をしっかり持ったら、自分の強みや自信につながるような専門的な勉強をしっかりして欲しいと思います。」

「ひさこ先生は経験豊富だからこそ、広範囲にフォローしていただける安心感を選手の方々は感じられていると思います。こういうお仕事や背景を知って、なりたい職業の選択肢が増えるのは良いですね。」

「そうですね。夢ですね。」

「最後に、栄養士として大事にしたい事はなんですか?」

「栄養士としても、1人の人間としても目標や夢は絶対必要だと思います。目標や夢があれば、どこまででも行けるような気がするんです。逆にそれがなくなると自分を見失い、出来る事もできなくなるような気がします。私が栄養士になるまで遠回りしてきたから思うのかもしれませんが、夢、目標があったからこそ今の結果につながったし、自分はこの道1本でやっていきたいと思っています。
卒業の時に、ひさこ先生に『将来一緒に仕事が出来たらいいですね』と言っていただいたことを覚えていたので、今回対談の話をいただいて本当に嬉しくて。それも目標の1つでしたので。」

「嬉しい。ありがとう。」

「それと、上京してからずっと忘れないようにしている事に「感謝」という言葉があります。 幼いころから、父親によく言われていたのもありますが、関東に上京し、多くのお仕事をさせて頂けるようになった今、この言葉の意味をより感じるようになりました。 多くの方々との出会いや、普段仕事に打ち込めるのも、一人ではなく両親や恩師、友人など多くの方々の支えがあってのことです。感謝という言葉は、その人を成長させてくれる素晴らしい言葉であると考えています。今後もこの言葉を胸に、前進していきたいと思います。」

取材日:2017年12月15日

選手&チームのご紹介

松峯敏和(まつみね としかず)

管理栄養士、健康運動指導士
所属:シダックスフードサービス株式会社(管理栄養士として高齢者施設にて勤務)  2016年リオ・オリンピック、パラリンピックでは、日本選手に向けたハイパフォーマンスサポート・センターで調理を担当。
奈良県出身。龍谷大学 経済学部現代経済学科スポーツサイエンスコース卒業後、関東に上京し、専門学校に2年間在学、卒業し、現シダックスフードサービス株式会社に入社。実務経験を経て管理栄養士免許を取得。関東や関西などでスポーツ選手をはじめ、高齢者の方や子供達への栄養指導や食事を提供。普段は高齢者の方々や子供達への食事提供をメインに、『調理からの栄養指導』をコンセプトに普段の食事から栄養について興味を持ってもらう事を大切に活動している。スポーツ栄養サポート経験としては、高校男子ラグビー部、社会人女子ラクロス、中学生バドミントン部など。

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