今回は、史上初・日本選手権5冠を達成した女子競泳選手の池江璃花子(いけえりかこ)選手のお母様である池江美由紀さんにお話をうかがいました。池江選手の幼少期から現在に至るまで、保護者としてご家庭でどのようにサポートをしていらしたのでしょうか?

幼児教室の「雲梯(うんてい)」で能力を発揮!

「池江さんは幼児教育の専門家で教室の代表をなさっています。ご自身のお子様にも幼児教育をされてこられましたが、幼児教育で大事な事は何ですか?」

「幼児教室では、能力開発を行います。子どもはみんな、最初は同じ能力をもって生まれてきて、発育過程の環境や刺激(しげき)が、脳の発達や能力に影響を及ぼすと言われています。どういう環境を作れば良いか、どういう刺激を与えていったら良いのかを、小さなうちから教室に来ていただき、親御さんやお子様に指導しています。長女は1歳から、長男も次女の璃花子も0歳から12歳まで、教室でレッスンを受けていました。」

「幼児教室の教育に雲梯(うんてい)などの運動を取り入れて、璃花子さんも幼児のころからやっていたそうですね。」

「運動選手にするつもりでやっていたのではなく、小さいうちから体を動かすと、脳にたくさん刺激がいくのです。璃花子が産まれる前から教室に雲梯があり、ずっとそこでやっていました。5~6年前に家を建て直して、現在の自宅内にも雲梯をつけました。」

「璃花子さんは、相当早いスピードで雲梯の能力を発揮されていたようですね。」

「そうですね。3人目の子どもで私にも経験値もありましたから、生まれた時からアクティブに扱って、指にぶらさげたり、雲梯にもぶらさげていました。彼女の小さいころの遊び相手は雲梯というくらい。
保育園に行く前のころは、構ってほしくて『見て』と言ってくるんですが、付き合えないので、『今度はこれができるようになったら呼んで』」とお題を出したりすると、一生懸命練習して、ひとりでどんどんできるようになっちゃいました。」

姉兄の影響で、3歳から水泳をスタート

「お母様は、運動が得意だったのですか?」

「私は昔から運動してました。小さいころから水泳もしていましたが、選手になったら練習がきつくなり、すぐやめてしまいました。走るのが一番好きで、陸上競技をやっていました。璃花子が色々なスポーツができるのは、その影響もあるかな。」

「3人のお子様がみんな皆水泳をされたのは、お母様の影響ですか?」

「いえいえ、私は小さいころに水泳から逃げてしまったので、逆にやらせたくなかったんです。長女に色々習い事をさせる中で、小2ぐらいから水泳をやらせると、どんどん進級していきました。それで長男も璃花子も、自然とそれぞれ3歳くらいから水泳をやるようになったんです。長男は、現在大学で水泳選手として大会にも出場しています。」

「皆さん素質がおありだったのですね。水泳は、どのくらいの頻度(ひんど)で通っていたのですか?」

「週1回くらいでした。とにかく選手にしようとか、全然思っていませんでしたし。」

「でも璃花子選手は、5歳のときに4泳法で50泳いでいたということで、人並み以上の能力を発揮されていましたね。」

「多分そうだと思うんですけど、当時は別にそんなにすごい事だなんて思っていませんでした。マスコミの方に、今思い出すとそうでしたって話をすると、それはすごいですね!と言われ、後になってわかりました。」

「水泳が生活の中心ではなかったのですか?」

「全然そんなつもりはありませんでした。幼児教育をやっていたのも、いつか自分が大好きな事や得意な事にめぐりあった時に、素地(そじ)ができていれば集中力や記憶力、センスなどが様々な方面で磨かれ、グングン伸びていけるかな、と思っていたので。体を動かすのに一番簡単だったスポーツの習い事が、たまたま皆がよくやる水泳だったというだけです。」

「スポーツ全般が得意なのですか?」

「小さいころは冬はスキーをしていましたが、水泳を始めたら他の運動はできなくなりました。毎回リレーの選手には必ずなっていたと思いますが、うちは全員がそうだったので、別に普通の事ですね。」

体に良い食生活を心がけ、栄養について学びました

「璃花子選手の、得意な教科は何ですか?」

「給食じゃないですか(笑)?うちはみんな、給食で大きくしていただいたと思います。」

「とてもありがたい発言ですね。」給食の有無による栄養素別摂取量の比較が様々発表されていますが、給食のある日(ある地域)の方が、一般的にしっかり摂取できています。

「朝食はどのような内容でしたか?」

「それぞれ、自分でパンを焼いて食べていました。自立する事が本人たちにはすごく大切な事だと思っていたので、何でも親がやってあげたりはしなかったです。でも、JISSの栄養教室で色々教わってからは、朝ごはんを作るようにしました。
璃花子が小6の時に、全国の小学生の中からトップ選手が集められて合宿があり、子どもたちが切磋琢磨練習してる間に、親への栄養指導がありました。こうなったからにはやるしかないな、って思いました」
※JISS
Japan Institute of Sports Sciences。日本のスポーツの国際競技力向上を目的に、東京都北区西が丘に設置されたスポーツ科学・医学・情報研究推進の中枢機関。

「お子様が小さいころから、栄養教育を色々受けられて気を付けてこられたのですね。」

「そうですね。食品添加物はすごく気を付けたり、有機農法でできた野菜を宅配してもらったり、そういう事はしていました。」

「お仕事されながらのお料理は大変だったと思いますが、何に気をつけて作られていましたか?

「出産前から、食生活にはすごく気をつけていました。私の子どものころは、ひどい食生活だったと思います。親が戦後生まれで、どんどん便利な時代になり、その流れに合わせて店屋物やファストフード、インスタント物などがすごく出回り始めたころで。」

「インスタントフードが出始めたころは、流行り物が注目され、遅れないようにというちょっとしたステイタスみたいなカン違いが起こっていましたね。」

「私の親に食の知識がなかったので、私たちは好きなものを好きなだけ食べたんですが、弟が成人になり痛風になってしまいました。私は縁あって栄養士の方もいるグループで食に関して学べたので、今までの食生活が間違っていた事を知りました。また幼児教室代表の先生からも食生活をご指導いただき、食の大切さを教わりました。助産院の母親教室でも、食に関してすごく指導していただきました。」

「栄養指導の場が広がってきているということですね。」今私たちは、栄養や食に関しての様々な情報を、いつでも手に入れることが出来ます。でも、だからこそ大事なことは、『日本のスタンダード』な考え方をまず学ぶことです。その上で、様々な考え方を取り入れるようにしましょう。

「産後に通った桶谷式母乳マッサージの先生は、私が食について大変影響を受けうけた一人です。食生活の中で、できれば玄米菜食や、 “まごはやさしい※”とか、野菜中心でなるべくおかずを魚介類にするなど、気をつけていました。ただ、豆類が良いと聞きたくさん食べさせていたらアレルギーが出た事があり、過剰(かじょう)にやればどんなにいいものもダメなんだということも学びました。」
※まごはやさしい
ま→豆類、ご→ごま、わ→わかめ(海藻類)、や→野菜、さ→魚、し→しいたけ(きのこ類)、い→いも類
昔から体に良いとされる食材の頭文字をとった言葉で、これらの食材をとる事で、いろどりが良く、栄養バランスが良い食事とされている

「そうなんですよね。どんな良い物でも食べ過ぎ、とり過ぎは危険ですね。実体験からなので、とても説得力があります。
ドーピング検査を受けるときは、薬にも気をつかうので大変ですね。」代表選手として、世界大会に出場するようになると、ドーピング検査も視野に入れるようになり、アレルギー対応も含め薬に対して気を使うようになってきます。

「皮膚(ひふ)に塗(ぬ)る薬などは丈夫だと言われてます。ドーピングに関しては、もうすごく神経を使いますね。璃花子本人は慣れているみたいですが、この間の試合では4日間ある中で初日の夜遅くに検査の人が来て、ホテルに帰ったのは深夜12時だったそうです。」

「ドーピング検査への対応は “強い選手”の宿命ですが、たいへんでしたね。」

「それは、睡眠妨害(すいみんぼうがい)になりますね!」

好きな食べ物は乳製品。練習前には炭水化物を準備

「給食が大好きだったという璃花子選手ですが、きらいなものはありましたか?」

「好ききらいはありますが、給食は特に困ることなく食べていたと思います。私はきらいだからって残して良いというしつけはしていなかったので、苦手でもなんでも食べないと終わらせませんでした。もし今食べられなくても明朝きちんと食べるのであれば、今日は食べなくても良いと言うと、翌朝食べてました。それがしつけだと思います。気持ちの問題ですからね。私は今の苦労より未来の苦労の方が子どもがかわいそうだと思うので、厳しくして欲しいと思います。璃花子はJISSへ行くとビュッフェで色々取れるので、美味しいらしくて食べ過ぎて困っているようです。」

「食べる量は、各自で調整できますからね。」JISSの食堂では、各選手が自分の目的やコンディションに合わせて選べるバイキング方式で食事が提供されます。その場で、栄養量や バランスが分析出来たり、希望すれば個別の栄養指導も受けられるようになっています。

「璃花子選手の好物は何ですか?」

「納豆、チーズは好きですね。あとしょうゆ味のもの。お寿司はほとんどサーモンしか食べないですね。メディアで璃花子が給食をたくさん食べていたのが取り上げられたのですが、そんなにたくさん食べているなんて、私はそれまで知りませんでした。。給食がおいしいのはもちろんですが、やはり楽しく食べるのが一番だったんだと思います。」

「確かにそうですよね。選手と学校生活を両立していると、給食の時間の友人との交流は大事ですよね。」

「そうですね。やっぱり学校に帰ると、ホッとして楽しかったみたいですね。」

「おやつなど、好んで食べていたものはありましたか?」

「小さいころはおやつは食べないというか、なかったと思います。私が買わない。おやつをあげるとしたら、とうもろこしとかおいもなど。わざわざお菓子を買って食べさせるのは子どもにとって良くないと思っていたので、お菓子やジュースも一切飲ませなかった。たまに旅行先でソフトクリームなどを3人で1個食べるくらいでした。子どもの健康が一番だったので、健康に良くないかもしれないものは一切食べさせないようにしてました。」

「下校後練習に行く前は、何か食べていましたか?」

「璃花子が中学生の時、JISSに行ってからはおにぎりや炭水化物を必ず用意しておきました。用意しておかないと食べないで行っちゃうので。夕飯も基本は変わりませんが、多少お肉も使ったり、牛乳を買っておいたりとかはしました。姉と璃花子は乳製品、チーズ、ヨーグルトが大好きでした。インフルエンザ予防にも良いと聞いてから、ずっと飲料タイプのヨーグルトを1日1本飲んでいます。そのおかげか、インフルエンザには全然かかりません。インフルエンザにかかると、練習を1週間は休まなきゃいけないので、親の責任と気を付けています。ただ、練習とか海外遠征、合宿ばっかりで、なかなか家にいませんが。」

「この間の日本選手権の時のインタビューでは、『緊張しているけど、これが終われば家へ帰れる』って話していらっしゃいました。やはり、ご自宅が一番なんですね!」

「こんな家でも帰りたいって思ってくれてるんだって、私はうれしかったですよ。」

「すごいですよね。この言葉はお母様にとって、どんなにうれしいだろうって思いました。まさにお家がホームタウンなんですね。」

「いえいえ、本当に何もしてないんです私は。しっかりしてほしいっていうことをお題に子育てしてきたので、家に帰っても親に色々やってもらえる環境ではなかったんですけどね。」

記録よりも、人として正しくあることの方が大事

「璃花子さんが水泳に夢中になるのは、何に魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。保護者の立場でおわかりですか?」

「私にはわかりませんが、とにかく楽しいんじゃないでしょうか。3人の子どもはみんな楽しそうに水泳をやっていたと思いますが、とにかく上2人と違って、強いものを持っていました。
璃花子は昔から、意見がぶつかると自分の意見を通したがるんです。でも私も絶対折れなかったので、すごく大変でした。将来親以外の人を相手にしたら誰も折れてくれないわけですから、まずは親の私が折れないように、と頑張っていました。でも、もうどうしようもない時は、璃花子が言われて一番イヤがる『水泳をやめさせる』と言っていました。今でも、それを使います。水泳で速い事より、人間としてちゃんとしてくれる事が大事だから、いつでも水泳なんかやめろって言います。」

「璃花子さんは愛されるお人柄だと感じます。とても礼儀正しくて、明るい。それはお母様の教育や家庭環境が大きく影響しているのでしょうね。」

「今本人に楽をさせるよりも、もっと先で本人が苦労しない方が良いと思うので、親が子どもに迎合(げいごう)することはしませんでした。璃花子にも本当にするべきこと、しちゃいけないことが伝わったんじゃないかと思います。
家庭の中では、目上を敬うということを大事にしていました。小さいうちはつい下の子を可愛がって、上の子に我慢させたり、小さい子中心になりがちですが、一番えらいのは親であり、その次に兄、姉、璃花子は一番下と。うちでは子ども同士呼び捨てはせず、必ずお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ばせていました。たとえばレストランなどでも、小さい子から先に注文させず、お父さんお母さんが先、次はお兄ちゃんお姉ちゃんの順、一番下は最後まで待ってなきゃいけない、という事はすごく大事にしてきました。だから璃花子が中学生で日本代表になった時も、世の中を知らない年だったんですが、目上の方に対して敬意を払うなど、そういう事は苦にならずにやれていたはずです。」

「きっと自然にできていらっしゃったんでしょうね。」

「璃花子はリレーを組む事が多いのですが、年が10も離れた先輩方と組んでも、すごく仲良さそうに可愛いがってもらっている姿を見て、子育中は本当にこれで大丈夫かなと探り探りでしたが、間違ってなかったんだと思える瞬間でした。」

「璃花子選手は多くの偉業を達成されていますが、それ以上にキャラクターがさわやかで礼儀正しくて、みんなに愛される。それが一番の魅力だと思います。」

「ありがとうございます。私自身が、そっちの方が大事だっていつも言ってましたから。
ある大会の時、2日間の大会で初日に日本記録を出した翌朝、璃花子を車で送りがてら父兄席に並ぼうと思っていたのですが、玄関まで来た時に彼女の言葉がとても悪かったんです。『その言い方は何ですか!ちょっとぐらい記録がいいからってそんな事は絶対許されない!』って言ったら、本人も自分が折れないと先に進まないとある程度分かってるので謝ったんですが、その謝り方がふざけた謝り方で…私は彼女を置いて、そのまま車を出しました。」

「厳しい!」

「璃花子はかなり遅れてプールに自力で着きました。途中で璃花子に電話をかけても、絶対電話に出ませんでした。」

「でもそこまで厳しくされると、お母様の本気度が分かりますね。」

「そうですね。とにかく水泳で頑張ってほしいのはもちろんですが、親ですから。やっぱり人間性を大切にしたい。ごまかしながらやってたら、あの子の将来のためにならないと思いますから、そこはきちんとみなさんに愛されるような、応援されるような人になってもらうために、私がやらないといけない役目だと思ってます。」

「素晴らしいですね。子育て中の親は、そういう部分もすごく聞きたいところです。どうやったらあんなに素晴らしい人格に育てられるのかと思っていますから。」

「いえいえ。やっぱりお母さんたちがすぐ負けちゃうんですよね。負けた方が実は楽なんですよね。」

「特にせわしい時間の過ごし方してると、どうしても時間が大事になるから、こちらが我慢する方が楽、みたいな感じなんでしょうね。それを貫(つらぬ)かれるのが素晴らしい。」

「日本記録も作ってほしいけど、そんな事より親にそんな口の利き方してるのを直すことの方が、私には大事だって思えるんですよね。」

「まさか記録の裏に、そういう話があったとは…。」

「璃花子が皆さんに可愛がってもらえるのは、記録より、家庭教育がスタートじゃないかと思います。」

「そうですね。やはり今でも体育会系はタテの関係が厳しいじゃないですか。そういう中で、中学生がいきなり日本代表で入っていくのはとても大変だと思うんです。」

「すごく心配でした、私も。」

「でも日ごろのお母様のそういう教育があったからこそ、スムーズに入れたのでは。代表ってチームメイトでありながら、実は一番身近なライバルですよね。その環境の中でも人間関係が作れるのは、心の魅力があるからどうかが大事だと、私も選手と話したことがあります。それをちゃんと見越して教育しているとは。チームメイトとしては対等でも、年齢はどうすることもできない中で、ちゃんと理解してふるまうことができる中学生は、本当に立派だったと思います。」

「本当にそうしておいて良かった。本人はそこまで考える事はまだできなかったかもしれませんが、やっぱり体に備わっていたのかと。」

「代表に入る方たちはその競技の超エリートだから、カン違いするようなところも出てきますよね。」

「年下なのに先輩に挨拶(あいさつ)しないとか。でも見ていると、親御さんも全然挨拶をされないんですよ。やはり子は親の鏡だから、かわいそうですよね。代表メンバーの中に入っても、それでは全然周りに相手にしてもらえない。代表レベルになるとコーチも選手に遠慮(えんりょ)したり。親が真っ先に言わないから、そうなっちゃってるんだと思います。」

「チームメイトに対して、自分の立場をわきまえて行動ができるように教えられるのは、親だけですよね。」

取材日:2017年4月20日

池江 美由紀さん

幼児教室「七田チャイルドアカデミー本八幡教室」代表。
一男二女の母で、次女は淑徳巣鴨高校/スポーツクラブ&スパ ルネサンス亀戸所属の女子競泳の池江璃花子選手。個人種目9つ、リレー種目5つ、計14種目の日本記録を保持し、今年7月開催の世界選手権では個人4種目、自由形のリレー2種目に登録し、大会中に出場選手を決める混合400メートルリレー、混合400メートルメドレーリレーに出れば最大8種目出場の日本代表期待のエースである璃花子選手や姉兄の3児を育てつつ、幼児教室の代表を務めながら増え続ける講演や取材などでもご活躍。

後編に続く
乞うご期待!!次回更新日9月15日(予定)

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