ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生

第1回 スポーツ心理学 “メンタル・トレーニング”入門編 「“メンタル”ってなんだ?」

メンタル要素② 「闘争心」

勝負は負けるより勝つ方がいい!
ただし、大切なのは結果より、どれだけ熱くなれるか!

編集部:

ひとりっ子の子など特に競争心がない傾向があり、「あと少し頑張ったら1番になれるのに、自己満足しちゃって闘争心がない」という話をよく聞きます。
闘争心をもたせる方法などありますか?

佐藤:

僕がメンタル・トレーニングで関わった『修造チャレンジ*』では、そういう事もかなり準備してやっています。
「勝負事は勝つか負けるかだから、負けるより絶対勝った方がいい」とよく話します。
それでまず、一番単純なゲーム「じゃんけん」で勝つか負けるか勝負させていきます。じゃんけんで負けたからといって命を奪われるわけでもないし、人生が変わるわけでもないんですが、“どのくらい熱くじゃんけんが出来るか”をさせるんです。
また逆に“負けるが勝ち”のじゃんけんをさせたり。そういうことで気持ちの表現の仕方とか、かなり訓練になるんです。人によって表現の方法が違うので、その辺を訓練していきます。

今や世界で大活躍の錦織圭君がジュニアの頃、地元島根から参加して来て、皆の前でスピーチさせられた際、ボソボソ喋っていたその姿が今でも目に浮かびます。英語のスピーチも蚊の鳴くような小さな声で、修造君からダメ出しされていました。でも今は海外でも堂々とスピーチしていて、日本語より英語の方が力強い気もするくらい。これぞ訓練の賜物! だから、“訓練すれば出来る”ということです。

*修造チャレンジ
元テニスプレーヤーの松岡修造氏が代表となり、世界を目指すジュニア・若手テニスプレーヤーへのバックアップ、グランドスラム大会等で活躍できる選手を育成と応援、その感動を日本全国のスポーツファンと共有し、テニスをとりまく環境の整備を実施。
日本を「テニスの国」にすることと、日本テニス界全体の発展に大きく寄与することを目的に「修造チャレンジ」の取り組みは続いている。

何もしないで終わるより、失敗してもチャレンジする方がいい!

佐藤:

多分自分の中で物の考え方に一つのストーリーみたいなのがあって、その中で動いていると考えられます。失敗したらどうしようとか、こんな事言ったら恥ずかしいとか、笑われるんじゃないかとか。
でも失敗しても大丈夫、何もしないよりも、した方がいい!
『修造チャレンジ』でよく言うのは、「この期間中、何事もなく終わったら損だよ!ここは大きな失敗でもいいから何か問題が起きて、それを乗り越える訓練をするための場だから」と。当てられないようにするのではなく、当てられて、喋って、失敗していくことが大事。失敗したら今度は乗り越える方法をみんなで考える。失敗を機に、成功へ導いていく。成功したら、もっとその上を。
だから「失敗しても、成功してもいい!」と話しています。

編集部:
「無難にこなす」のは、勿体ないことなんですね。

メンタル要素③ 「自己実現意欲」

とにかく勝てばいい!ではなく、勝ち方やプロセスにこだわる

佐藤:

子どもの頃は実は“勝利意欲=勝ちたいと思う気持ち”が強くて、逆に自己実現意欲は低いんです。ところが段々歳を取ってキャリアを積んでいくと、勝利意欲が低くなって、自己実現意欲が高くなります。なぜかというと、自分の持ってるものをいかにして最大限に発揮するか、その後勝利がくっついてくると考えていくと、過度な勝利意欲が落ちてくるというデータがあります。

ジュニア選手にこのテストをすると、勝利意欲のスコアが案外高く出ますが、キャリアを積むにしがたって低くなる傾向がみられます。メンタルトレーニングをしていてなぜ低くなっていくの? と思いますが、その答えは、
自己評価がすごく厳しくなってくるからです。なので、自分が主観的に書くものは、本当は伸びているのに評価が小さくなったりします。
客観的に見れる人がやってあげる事がとても重要で、自己評価と他者評価が合わさらないといけません。自己評価をうのみにしてしまうと、メンタルトレーニングをしているのにスコアが低くなるという誤解を生じることがあります。

編集部:

わかりやすく言うと、どんな勝ち方でも勝てばいいという意欲と、勝ち方にもこだわって自分のやり方で勝つ意欲のことですね。

勝利意欲:とにかくこの試合に“絶対勝ちたい”という最後の決意、どちらかというと“結果論”
自己実現意欲:自分の持ってる能力を発揮すること。勝つために何をしたらいいかという“プロセス論”

編集部:

「自己実現意欲」とは、負けても自分の中での目標に達していれば納得できる、消化できるということですか?

佐藤:

やるだけやって負けたならしょうがない、と納得するところがある。だから負けても、変なパニックに陥らない。ここまで出来たけど、こう出来なかったから負けたんだと客観的分析ができます。

『修造チャレンジ』の例ですが、子どもは最初大きな夢を抱き「ウィンブルドンでチャンピオンになる、負けないよ!」と言い、いいね、いいね! って盛り上がるけれど、段々現実的になり、過小評価していきます。「あの人がここまでいけないから、自分もダメだ」とかそういう風に自分で勝手に堤防を作ってしまう。それをいかにして破っていくかもポイントになります。

編集部:

成長とともに、自分も周りもよく見えてきて、人と比較したり、良い面と悪い面を悟っていくのでしょうね。