ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生

第2回 スポーツ心理学 “メンタル・トレーニング”入門編 「まず、自分の心の中にいる“敵”を倒す!」第1回 スポーツ心理学 “メンタル・トレーニング”入門編 「“メンタル”ってなんだ?」

メンタル要素④ 「勝利意欲」

負ける試合に出続けるより、ランクを落として勝てる試合で自信をつける!

編集部:

負ける試合ばかりしていると、もうダメだ…となってどんどんつまらなくなるので、勝てる環境をつくる事も大事でしょうか?

佐藤:

そうですね。“学習性無力感”というのがあって、これは私も昔アメリカに滞在していた中で経験した事があって、全部1回戦負けをくらい続け、トイレの中で泣いていた事がありました。
以前の専修大学の野球部や今の駅伝部がまさにそれで、出れば負けを繰り返していました。これが続くとやっぱり人は、この次やってもまた負けるだろうと思ってしまう。強いチームのユニフォームを見ただけで、やる前から負けたようになること=“学習性無力感”で、やはり“勝つ体験”が必要です。
それには課題をうまくコントロールしてあげないといけません。
若干レベルを落としても、グレードの低い大会で勝つ方法、勝つ感覚を味わって、そして次の課題に行く。

例)テニスの場合の最適な大会エントリー
1回戦で負ける大会に何回も出る ⇒ NG
最低3回試合が出来る       ⇒ GOOD!
1回戦、2回戦を勝ち、3回戦で勝つか負けるか、そういう大会を繰り返していくことで、鍛えられる。

佐藤:

3人の息子達がまだ幼い頃、私に相撲をとろうと言ってきました。組んですぐバーンと放り投げたら、もう二度と来なくなります(笑)。やっぱり最初はウーッとたえて負けてあげるわけです。でも何回も負けてあげるのではなく、時々バンと跳ね返してやる。ちょっと鼻が高くなってきたら、少しへし折ってみたり。
学習性無力感にならないように、勝利と敗戦の回数、バランスを取る事が大事なんです。  

久保田:

子どものうちは、対戦相手を選ぶこともコーチや親の仕事ということですね。

佐藤:

そうですね。プロの選手もそうですね。ボクシングも、初めは勝てそうな相手、そしてランク上の相手と上げていきます。
プロのコーチが一番腕を発揮するのは、試合の選び方。
今はちょっとグレードの高い試合に出しておいて、ポイントと試合数をこなし、そしてその後も勢いをつけて、とか。

シードが強いという思い込みを捨てる!
1%の確率なら、1/100回目がこの試合かもしれない!?だから “勝負は50/50”

編集部:

シード制についてはどうお考えですか?

佐藤:

日本では、「シード=強いもの」だという風に思い込んでいる傾向があります。
子ども達はトーナメント表を見ながら「自分はここで、こいつだったら勝てるな」と予想しながら勝ち進んでいくのですが、途中で止まってしまう。なんで!? と言いたい。

うちのテニス部の学生も同じで、全日本の大学選手権で優勝もしていますが、以前第1シードでフェドカップにも出ている日本代表の選手と1回戦で当たり、本人も周囲も絶対勝てないと思っていました。
僕が「この試合勝てる?」と聞くと、「絶対負けます」と言う。「絶対、だな?」 “絶対”という言葉、そこを確認するため聞き返します。

「1回目負ける、2回目も負ける……10回やっても負けるかな?じゃあ、20回やったらどうだ?」と聞きます。すると「20回やっても負けます」と言う。更に増やし、「100回やったらどうだ? 100回、だぞ?」と聞く。そうすると、「100回やったら、1回くらい勝てるかもしれませんね! もしかしたら勝てるかな? 相手がお腹こわしたりしたら、そういう事もあるよね? な~んて」と笑って言いました。
1/100回目はいつやってくるかわからない!そういうところから段々洗脳させていくんです。ひょっとしたら勝てるかもしれない?! と。

佐藤:

その学生の話の続きは、たまたま雨が降っていたり、練習時間が短かったり、普通なら3セットマッチなのに予選だから8ゲームマッチだったり……勝つ要素が次第に増えていったんです。「どうせ勝つか負けるかなんだから、思い切りいけ!」って言ったら、いきなり4-0までリードしました。ところがその後やっぱり「えっ、私が第1シードに勝っちゃっていいの?」っていう考えが出てきて、段々追い上げられ、6-5になりました。大体普通はここで負けてしまう事が多いんですが、「やっぱり自分はアドバンテージがこんなにあるんだ」と考えなおし、相手の焦っているのも分かってきて、結局8-6で勝つことができました。

勝つか負けるかは、ネガティブな方、挑戦していく方がそういう気持ちでいくと、ひょっとしたら勝つ可能性もあります。
みんなから「また引っかけましたね」なんて言われたけれど、これもやっぱり「戦術」なんですね。

自分の選手時代も、試合前に先生から「勝つか負けるか自分で何%だと思う? 優勝できる可能性は何%ぐらい?」と聞かれ、「負ける確率80%ですかね」と答えると、「バカ言うな!勝つか負けるかは50/50なんだぞ!」と言われた事を覚えています。

スポーツ心理学栄養学

習慣は急に変えられない。続けているからこそ発揮できる

佐藤:

心というか感覚を研ぎ澄ませることは、自分のコンディションにすごく影響しますので、ストレスがフルな選手の状況において、食事を美味しく食べることがポイント、楽しみはやっぱり食事になると思います。
やはりトレーニング期や試合最中の「食事」が大切で、自分の中でこれを食べるから体がこういう風に回復しているなどの理論を分かっていながら、実際に目で見て満足し、楽しんで食事をする、そういうことがすごく重要です。
やっぱり楽しんで食べないと、精神的にも効果がないんじゃないかと思います。

久保田:

おっしゃる通りだと思います。そして、その大前提は、『小さい頃の食習慣』やその『積み重ね』です。正しい食習慣が身についていることは、“美味しさ”や“楽しさ”にもつながってくるだろうと思います。
そういう食習慣は大人になってからではなかなか難しい、続けてきたからこそ発揮できるものだと思っています。
私はだいたい中学生ぐらいの選手から関わるのですが、本当はもっと幼い頃からの食習慣、食への意識が大切なのかな?と思うことがあります。そして、それは家庭で伝えることが一番だと思います。伝えるというか、自然にふだんの家庭生活の中で身についていくことが大事ですね。
その結果、嫌いな食べ物が出た時に、それを克服する術にもつながるんじゃないかと思います。

佐藤:

本当にそうかもしれないですね。『修造チャレンジ』も、当初は対象を16歳からにしていましたが、段々12歳とか低年齢の時からやらないとやはり間に合わないという事になってきました。
16歳で何かやろうと思っても、精神的なものもそうですが「習慣」を変えるのが大変です。育て方、それから教育もそうですが、幼い頃から高い目標を持ちつつ、ゴールを見ながら指導していけば、急に習慣を変えなくても良いんです。
精神的なものもやっぱり基本のところ、根っこにあり、すごく重要だと思います。

全5回連載
次は、第3回「“ネガティブ”を“ポジティブ”に変える!」をお楽しみに!
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