ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生

第4回 スポーツ心理学 “メンタル・トレーニング”入門編 「感情はコントロールできる!」

メンタル要素⑧ 「自信」

不安と向き合い折り合いをつける。乗り越えたら、自信になる

佐藤:

勝ったら自信がつくことは、よくあることだと思います。自分はこんな強い人に勝てたんだ、だから自分は強いんだ、と。
でも、“本当の自信”というのは、試合前に「やれるか、やれないか」を問いかけた時に、「やれそうだ!、やれる!」と言えることなんです。だから試合前に自信をもって挑むという事は、自分がこれまでやってきた積み重ねがあるからこの試合に勝てるという気持ち、「自信がある」ということです。

編集部:

試合前に不安があっても良いのですよね?

佐藤:

試合前に「緊張してます」と言う子の方が、いざ試合となると意外にやれて、「大丈夫です!やれます!」なんて最初から言ってる子ほど、「動けませんでした…」というケースがあります。
不安を乗り越えて、試合に出る時は「やれる!」という自信を持つことができているかどうかです。

久保田:

タンキング(あきらめの状態)から始まり、そういう過程を通ってくれば、最後は自信をもって試合に挑める、という事ですね。

佐藤:

不安を持っていてもいいけれど、それにちゃんと折り合いをつけられると、自信が持てるんです。
長野オリンピックでモーグルの里谷多英選手が優勝しましたが、彼女は試合前に精神的にとても乱れていたそうです。彼女のコーチは「今から泣くなら泣いてもいい。不安とか恐れとか、乱れてもいい。今ここは乱れる場所だ。だけどここから1歩出たら、試合に出るまでの間にちゃんと気持ちの整理をつけておけ」と言ったそうです。その結果、優勝されました。

同様に色んな悩みを持った学生がカウンセラーの元に相談しに行くと、「ここは悩むところです。悩みを入れる箱をイメージして、全部その箱に入れていって下さい。今度ここへ来た時、この悩みの箱をまた開けましょう。」と言われ、ふたを閉めて出て行かされます。現実に立ち向かうため、一つ折り合いをつけるため、悩みと向き合う方法を使います。

編集部:

許容をはるかに超える悩みは、一旦吐き出した方が次に進めるという事ですね。


感情を上手く吐き出して、気持ちを切り替える 

編集部:

試合中、感情をむき出しにすることは不利になりますか?

佐藤:

日本人は試合中、感情的になり始めたら大体ダメになっていきます。だから気持ちを落ち着かせて、感情をあまり出さないようにやっていく方がいい、とジュニア選手などにも教えています。
ところが海外遠征でオーストラリアやアメリカの選手と試合をすると、外国人選手は感情的にラケットをバンとへし折ったりするんです。すると日本の選手はみんな驚いて、きっともうダメになると予想しますが、違うんです。彼らはバンとへし折ったら、それはそれで終わり。スキッとして、よし、もう1回新しくやろう!と切り替える事ができます。
それはやはり宗教観とか色々あるんでしょうね。日本人はラケットをバンと投げたら「罰が当たる、ラケットの神様に怒られる!」といった感情がわきますが、彼らはそんな気持ちはなりません。

編集部:

国によって違いますね。日本人は感情をさらけ出す事はみっともない行為として、自制する傾向がありますね。

佐藤:

でも、(松岡)修造君は、我慢できなくなると「よし!これで終わりだ!」って声を出して気持ちを切り替えます。これが大事なんです。
ずっと引きずったり我慢しながらやっていると、体がガチガチになってしまいます。本番でパフォーマンスを発揮できる子は、感情の変化の“段階”を踏んでいます。


≪試合中の感情的な変化≫

①タンキング(あきらめ)

試合中のエモーショナル(感情的)な動き。
「ダメだ」「もう無理だ」と思う一番悪い状況

<タンキング・レスポンス>
行動はグダグダ。ボールを打っても、理由もわからず“もうダメだ…”となる。
体調や天候など、色々なものに責任を転嫁する。

②アンガー(怒り)

ジェームス・レーヤー博士の理論によると、タンキング(あきらめ)の次にくる感情。

<アンガー・レスポンス>
失敗すると「何だよ、バカ野郎!」とラケットをバンッと投げたり、コートを蹴ったり、ラケットをへし折る、という感情的な状況。これは一見、すごいエネルギーがあって良いように思えるが、実はネガティブなエネルギーになっている。

ジェームス・レーヤー博士
ヒューマン・パフォーマンス協会(HPI)の会長,CEO(最高経営責任者)および共同出資者であり,エネルギー・マネジメント技術の第一人者

③チョーキング(ビビる)

アンガ-(怒り)を越え、一つドアを開けて踏み込むと次にくる感情。

<チョーキング・レスポンス>
パフォーマンス途中に窒息してしまったようにからだが上手く動かなくなるような、ビビってしまう反応。
不安や恐れもあるが、でも勝ちたいという気持ちもあり、ビビってしまう状態。行動が早く視線が定まらない、呼吸が浅いといった反応がある。これは実は良いサイン。

④チャレンジ(挑戦)

チョーキング(ビビる)をもう1歩行くと表れる感情。
タンキング(あきらめ)から、いきなりこの感情には飛ばない。

<チャレンジ・レスポンス>
恐れや迷い、不安が吹っ切れた状態。

佐藤:

テニスのチャンピオンたちはほとんどはナーバスで、ロッカールームでは不安にじっと立ち向かい、それを乗り越えてコートに入って来ます。でもコートに入ったら堂々としています。たとえばナダルはアップの後、「よしやるぞ!」とガーッと走り回ります。こういう段階を経ているので、コートではビビらないんです。
ところがこの段階を踏まずに、「今日はできるよ!」と言っているのが一番危ないタイプ。感情の段階を経ていないので、コートに入ったらいきなりビビる。だから緊張は外でしっかりしておくこと。先に経験しておく、緊張し切ると、もう緊張できなくなるんです