ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生

第3回 スポーツ心理学 “メンタル・トレーニング”入門編 「“ネガティブ”を“ポジティブ”に変える!」

一つの絵の後ろに、もう一つの絵がある~ゲシュタルト心理学~

佐藤:

一般的に“メンタルトレーニング”と言うと、ポジティブ・シンキングや、笑顔を作る、というイメージのようですね(笑)。
診断でよく使う『ルビンの花瓶』の絵は、「花瓶」にも「向かい合っている2人の横顔」にも見えます。その場合、ゲシュタルト心理学では、「図」(figure:知覚の点や線の焦点が合わさって目がいきやすい方)と「地」(ground:知覚の焦点から外れて背景になり地味な方)があり、目立って見えている方を「図」、見えづらい方を「地」といいます。「地」があるから「図」がある。ですが同時に両方の絵(人の横顔と花瓶)は見えません。見えるのはどちらか一方で、花瓶が見えている時は、人の顔は後ろに引っ込んでいます。
それは、見えているものの裏には、その時には見えていないものがある、という事なんです。
「不安」があってもそれにちゃんと折り合いをつけていけば、その上に築いてきた「自信」が浮き出てくるということを教えてあげると、不安を抑えられます。

ゲシュタルト心理学:
人間は自分が興味のあるものを「図」と認識して、それ以外を「地」と認識するという理論。

劣勢を優勢に切り替えるには、気持ちを切り替える時間が必要

編集部:

試合で劣勢なのに何かのきっかけで流れがガラッと変わることがありますが、メンタル要素が大きいのではと思います。どうすれば試合中のネガティブな気持ちを、ポジティブに転向する事ができますか?

佐藤:

よくありますね。負けそうだったのに指1本引っかけて逆転する感じの事を、英語の「フック」と表現します。調子の良い時はできるだけリズムよく進め、自分がポイントを取れない時はゆっくり時間をかけて進めます。”時間”もすごく重要です。その点テニスは時間制限が無いのでそれが可能ですが、引き分けも無いため、勝敗がつくまで続けます。
サッカーはボールが止まっても必ず点数が入るわけではありませんが、テニスはボールが止まった時には必ずどちらかにポイントが入ります。1回1回、止まったら必ずポイントが入るので、“エマージェンシー・スポーツ”と言われています。試合中ずっとサイレンが鳴っている感じで、このストレスは大変なものです。
負けている時は、 雨降ってこないかなぁとか、ナイター設備になり1拍置くと形勢が逆転する事もあるので「太陽沈まないかな」など考えたりします。
一旦負けたと思って切り替えると、試合再開時に今度はやれそうな気になる。逆に勝っていた方が、すごい劣勢になります。

編集部:

そういう運も味方につけると、より逆境に立ち向かえますね。

子どもは目を離した時に成長する

編集部:

スポーツをする子どもへの親のサポートは、どの程度が良いのですか? 過保護にベッタリ世話を焼く親や、本人と指導者にほとんどを任せて遠くで見守るだけの親など、色々なパターンがあると思います。

佐藤:

それはどうでしょう。世界のトッププレーヤーの親御さんにも2通りあり、異常にベッタリの親もいて、テニスの世界でコート立ち入り禁止にされた親御さんもいます(笑)。でもそういう人も、トップアスリートを育ててこられたわけです。
一方、一切前に出てこない親もいて存在感が無いけれど、実際には存在する(笑)。なので、結局どちらでも良いと思います。
コーチの立場で、親御さんのコントロールはなかなかしづらいものです。
どちらにしても、主体となる子どもが伸びていくような関わり方が大切です。どちらの親も、要は子どもにタフになって欲しいのですから。ただ、面白いのは、子どもは“目を離した時に伸びる”ということがあります。

私の息子は3人兄弟で、テニスが上手になって欲しいと長男から熱心にテニスを教えていました。結局、あまり手をかけなかった次男がプロになりました。じっと見ていられると、逆に伸びないんじゃないかと思います。

何年か前に「選手の育成、農業に学ぶ」という内容のコラムに書きましたが、農業では肥料は(種や苗のそばに)直接やらず、対象から少し離して肥料をまきます。そうするとどんどん成長し、そこにしっかり根が張っていきます。面白い話だと思いませんか。

編集部:

なるほど、いい例えですね。あまり干渉し過ぎず、少し距離を置く方が育つということですね。

子どもを励ます時、「次がんばろう!」とポジティブな感じで励ますと良いですか?

佐藤:

いや、それもどうかと。ありがちなのは、選手のことを「いいね、いいね」って褒めまくる「褒め殺し」みたいな指導者。初めのうちは良いんですが、選手は「またか」と段々その人を信用しなくなっていきます。
誰でも褒められれば気分は良いけれど、段々レベルに合わせていかないと。普段褒めないのに、いいねって言われると、それは本当に響きます。そういうバランスを考えたコーチングを親御さんにもおすすめします


タイムラグ(時差)をよく考え、ピークに持ってくる!

佐藤:

何でもそうですが、タイムラグがあります。
睡眠の専門家の先生から「昼寝など短時間で寝る時、どうやって起きるか知ってる? 昼寝する60分とか30分前にコーヒーを飲むんですよ」と教えてもらいました。コーヒーがなければ目がスキッと覚めるような飲料でも良いとのこと。「コーヒーなんて飲むと目が冴えるのでは?」と言うと「違う」と言われました。  

久保田:

そうですね、コーヒーのカフェインの作用が効いてくる時間が、昼寝から覚めたい時のタイミングに合わせられ、そうすると気持ちの良い目覚めになるということですね。
胃の中に入っている状況ではカフェインは作用しないので、カフェインが体の中に吸収され、それが効きはじめる時間をちょうど昼寝から目覚めたい時間に合わせるのがポイントです。 

編集部:

なるほど。昼寝を30分以上すると、眠りが深くなり過ぎて良くないといいますね。

スポーツ心理学栄養学

「心」「技」「体」を整えるには、基盤となる身体づくり=“食事と睡眠”が大事!

佐藤:

うちの子どもは母乳で育てましたが、たっぷり飲ませればぐっすり寝た。ちょっとしか飲まないと、すぐ起きた。
食べるエネルギーと寝るエネルギーは互いにすごく交感(感応し合うこと)していて、その交感がパフォーマンスを発揮する時の爆発力に影響している。全てそこに繋がるんじゃないかと思います。
錦織君もそんなに食が太い方ではなかったけれど、やっぱり戦いきるためにそれも訓練したようです。若いころから訓練した方が、(大人になって)苦労しないで済みます。 

編集部:

ベース(基礎)がしっかりしていると、パフォーマンス向上につなげやすいのですね。

久保田:

衣食足りて礼節を知る」ということわざがありますが、「礼節」を「心」と考えると、心も技術的なパフォーマンスも、やっぱり基盤になる体作り、それは寝ることや食べることでもあり、それができていないとダメなのではと思います。

衣食足りて礼節を知る
人は生活に余裕ができて、初めて礼儀や節度をわきまえられるようになるということ

佐藤:

そうですね。“心を動かすために、体を動かす”という考え方もありますね。
ある歌手は、体を鍛えていないとコンサートはできないと考え、筋トレをされているそうです。昔はスレンダーでしたが、何万のお客さんと自分が1対1で戦って勝負する意気込みから、神経を研ぎ澄ませるためにもトレーニングされています。

編集部:

アーティストもある意味アスリートですね。


全5回連載
次は、第5回「効果があることを実感する = 続けられる!」をお楽しみに!
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