ひさこ先生:「アメリカの食生活は肉が多くポテト以外の野菜は少ないなど、バランスがとれた食事とは少し離れているようなイメージがありますが、具体的にはどんな食事を勧められているのですか?」
中村さん:「アメリカは経済的にではなく思考回路の貧富(ひんぷ)の差が極端で、できる人はできる、興味がある人はやる、やらない人は全くやらない。その差がすごくハッキリしています。意識が高い人は、オーガニックなものや食事に関してとても気を付けます。意識がないとファストフードになる。それが長年蓄積されてくると、雲泥(うんでい)の差が開きます。
スポーツは勝負の世界ですから、私達トレーナーは勝ち負けのプロセスから話していき、体をきたえるために必要な物、リカバリーのために栄養素は何を食べたらいいか、どういうものを食べたらいいか、と教えていきます。意識が高い子は変わる。それを理解できない場合はしかたがありません、押さえつけはできないので。」
編集部:「選手への指導で気を付けられていることは何ですか?」
中村さん:「とにかく正しい情報が大切です。それと同時に気を付けていることは、僕も一緒に実践しています。そこが現場にいる一番の楽しさでもあります。一緒に共有できる空間や時間をもてます。指導者として常に選手と一緒に成長したいという気持ちがあるので。
僕はスムージーが大好きで、選手にもとってほしいと思い、常に彼らに見えるように持っていく時もあります。僕もトレーナーなので健康体でいたいですし。また、選手のご家族の意識も大事なので、協力してもらいます。選手は指導者や家族など周りからもエネルギーを得ることができます。少しでも刺激(しげき)を与えられたらと思います。」
編集部:「早寝早起きなど睡眠についても指導をされますか?」
中村さん:「回復にはやっぱり睡眠8時間はとってほしい。1日の生活の中の疲れ、ストレスを解消するのは、栄養もストレッチもマッサージも必要ですが、睡眠も大切です!
最初の3~4時間の睡眠で体が修復され、成長ホルモンが出て、その後に脳の活性化というリズムがあります。人生の1/3は寝ているので、絶対さけては通れません。
今はスマホやゲーム、テレビがある環境で、子どもが睡眠の重要性を意識するのはすごく難しいと思います。やはり親が愛情を持って意識付けをしていく必要があります。
自立神経の交感神経(緊張状態)と副交感神経(リラックス状態)にもオンとオフが必要です。人生においても一日においても、オンの時間は活動し、オフはちゃんと休む時間を作る。時間を上手に使っていかないとパンクしてしまいます。パンクしなくても自分の中でエネルギーがどんどん減り、気力がない子、気力がない家族となってしまうので、メリハリをつけるよう工夫をしないといけません。」
編集部:「海外のスポーツ選手について、日本の選手は『体格がすごく良いが、食事を見ているとハンバーガーとポテトを食べ甘い炭酸飲料を飲んでいる。食べ物に気を付けていなくても体力も持久力もあり、あの体格が保てるなんて、日本人と体質が違いすぎる』とよく言われます。実際はどうですか?」
中村さん:「実際そうですけれど、彼らはその分ケガをします。そして1回ケガをすると、ほぼリカバリーできない。結局今まで能力だけでやってきた選手はそうなります。そこが海外で日本の選手が一番学ぶ事で、管理された中で強くなってくると、やらされてる感がありますが、管理されてる分正しい情報が入ってくるんです。でも海外の選手はほぼ放し飼いというか、能力だけで上がってきている選手が多い。
でも彼らに正しい栄養などの知識を与えると、ハングリーな気持ちがあればそういう選手は本当にレジェンドになれます。海外では、能力のある選手はどんどん飛び級で上がっていきます。日本のスポーツ世界の場合は、まだそこが確立されていないようですが。」
ひさこ先生:「日米では、トレーニングに対する考え方も意識もかなり違うと聞いていますが、まだずいぶん開きがあるかと。」
中村さん:「国民レベルでの体の意識がちがいますね。欧米ではエネルギーという言葉を結構使い、スポーツマンだけでなく一般の人でも自分の活力、エネルギーは体内から生まれ、その人の存在感というか意識付けのために体をきたえるという感覚があります。きたえるとはボディビルとか大きくなるとかではなく、スポーツ等で汗を流し、自分のエネルギーを得ること。運動することによってエネルギーが上がってくるという、意識が違うのでは。」
ひさこ先生:「エネルギーという言葉自体の浸透度(しんとうど)も全く違いますね。日本だとエネルギーとカロリーが同じように使われていることがすごく多い。エネルギーという言葉自体を伝えていく事が、すごく大変だと感じます。」
中村さん:「選手がいるフィールドなりコートで、エネルギーを出す事を“エナジー”と言うのですが、エナジーを出力する、そういう意識付けです。それには体を動かすこともあるし、食事、リカバリーの3つが上手に組み合わされると、体の本質的なもの、本能が生みだされるんです。
日本だとどうしてもある意味上っ面だけ。欧米はいろんな運動している人の数が多く、経験が豊富なため、考え方も豊かで自分に合ったものをチョイスできる環境があります。」
ひさこ先生:「やはり意識が広くないと様々な選択ができませんね。」
中村さん:「それには興味もないとダメです。」
東京都町田市出身。私立桐光学園高等学校卒業、米国チャップマン大学卒業(スポーツサイエンス専攻)。
米国フロリダ州をベースに活動し、海外で幅広いネットワークを持つフィジカルトレーナー。ナイキUSAアドバイザリースタッフ。アスリート形成をモットーに、主要3項目(トレーニング、栄養、リカバリー)から成るフィジカルプロジェクトを提唱している。
2004年、IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーにて盛田正明テニスファウンドへトレーナーとして参加、錦織圭を担当。
2005年、IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーのトレーニングディレクターに就任。フィジカルトレーニングの総括、300名のフルタイムの生徒、IMG ELITE(IMG契約選手)、マリア・シャラポワ、マリー・ピエルス、トミー・ハース、錦織圭等を担当。
2010年、オーストラリアのテニス協会(テニスオーストラリア)トレーナーに就任。バーナード・トミックのツアーに帯同。オーストラリアデビスカップチームのコンサルタントを勤める。
2011年~現在、マリア・シャラポワの専任フィジカルトレーナーに就任。
2014年~現在、ゴルフ米国女子LPGAのジェシカコルダのNakamuraPerformanceをスタート。