”心(精神力)” “技(技術)” “体(体力)”は日々の努力により向上する!
スポーツをする上で欠かせないトレーニングとは、なんでしょうか?
フィジカル(肉体)を鍛えたり、テクニック(技術)を磨くことももちろん大切ですが、それと同様に、もしかしたらそれ以上に今、重要視されているもの、それは「メンタルトレーニング」です!
どのようにすれば、メンタルが鍛(きた)えられるのか? メンタルを鍛えると、どのような効果があるのか? について、スポーツ心理学ご専門で、『修造チャレンジ』でもメンタル面のサポートをされている
専修大学教授(同大学スポーツ研究所所長)の佐藤雅幸先生にわかりやすく教えていただきます!
「スポーツ栄養講座」でおなじみの久保田尚子先生との対談形式で、全5回にわたってお届けします。
ジュニアスポーツ選手だけでなく、こどもの育成・指導に役立つヒント満載で、全ての回必見です!
佐藤雅幸(さとう まさゆき)先生
82年日本体育大学大学院体育学科研究科修士課程修了。専修大学教授(スポーツ心理学)、同大学スポーツ研究所所長。同大学女子テニス部の監督を務め、92年は王座優勝を果たした。現在は同女子テニス部統括。94年には、長期在外研究員としてカロリンスカ研究所(スウェーデン)に留学した。
松岡修造氏が主宰する「修造チャレンジ」におけるメンタルサポートの責任者としてとして活躍中。
久保田尚子(くぼた ひさこ)先生
順天堂大学等の非常勤講師などを歴任しつつ、スポーツ栄養を中心とした栄養関連業務に従事。
<主な栄養サポート歴>
JリーグFC東京(トップから育成年代)、女子ソフトボール日本代表(2004年アテネオリンピック支援帯同)
<主な雑誌連載>
月刊誌『サッカークリニック』 、《勝つための栄養セミナー》等多数
食育情報サイト「ごはんだもん!げんきだもん!」の取り組み
当サイトの『スポーツ栄養』のコーナーでは、スポーツと食事の深い関わりや運動時の食事・水分摂取方法など具体的にアドバイスしています。
また、『スポーツ食育インタビュー』では、様々なスポーツジャンルで活躍されるアスリートの方々に、幼少期から現在に至るまでの生活習慣や食生活をうかがい、アスリートにとって食事や栄養がどの様に関係しているかを貴重な体験談を交えて教えていただいています。
メンタルトレーニング その前に・・・①
子どもの能力を決めつけ、マイナスなレッテルをはらない!
ネガティブな暗示ほど、効果がある!?
- 編集部:
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ジュニア世代の子どもは自身のメンタルを意識するより、単純に「スポーツが楽しい!」、「試合で勝ちたい!」と純粋な気持ちが強く、精神を育てている最中、良い意味でまだ定まっていない段階だと思います。
ただ大人になると、「わが子はメンタルが弱い」と決めつけたり、“ここぞ”という大事な本番に、本領発揮できないと思ってしまう傾向があります。無意識に心の弱さのせいにしたり、不安からネガティブ発言をしてしまう様な気がします。
- 佐藤:
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子どもは今が“成長過程”なので、 感性豊かに、ワイルドに、悲しいときは悲しんで、嬉しい時は一生懸命喜べば良いんです。
それを見守る親御さんが、「PKであなたはいつも外す」とか「あなたは競り合いになると弱いのよね」と決めつけてレッテルを貼る(=ラベリング)。
それをやると本人も「俺は競り合いになると弱いんだ」と思ってしまいます。ネガティブ要素やマイナスの暗示はすごく効いてしまうんです。
子どもへのNGワード 「絶対」「やっぱり」
- 編集部:
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負けた時につい「やっぱり駄目だったか」みたいなことを言ってしまいますね。いけないと思いつつ…「ほら、やっぱりね!だってやってなかったし、やってないのに出来るわけないよね!」と説教したくなってしまう親の気持ち…理解できます(苦笑)。
- 佐藤:
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「やっぱり」はね、ダメなんですよ(苦笑)。“やっぱりそうなったかの心理学”で「やっぱりね」はくり返すんです。
交流分析という心理理論では、そういう人は「そうなのよ、絶対!」って、「絶対」とか「100%」などの言葉を使いやすいんです。
私たち専門家は、親御さんが「子どもはメンタルが弱い」と言えば、その子に対して忍耐力はないかもしれないが、闘争心はないか?など、“美点・長所・武器”を探します。
メンタルのテストは何のためにするかというと、自分の良い所やトレーニングをしていない所などを見つけ出す手段で、自分はこうだと決めつけるためではありません。
それを一番最初にお伝えてしておかないと、変な方向に行ってしまうんです。 - 編集部:
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心理学テストは、出来ない事を探すものではなく、まず“出来る事を知る(探す)ことが大事”なんですね!
教えられたものは忘れやすいが、自分でつかんだものは一生忘れない
- 佐藤:
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子どもにクイズを出し、すぐ回答を言わず少しずつヒントを与えていきます。すると、「よくわかった」、「(意味が)つかめた!」と言います。心理学でもよく、
「教えられたものは覚えているか忘れるかどっちかだが、
自分で掴んだものは一生忘れない」という考え方があります。
レイナー・マートン※著のスポーツ心理学の本にも、
「飢えた人に魚を与えれば、魚を食べつくした後はまた空腹になって死んでしまうけれど、魚の釣り方を教えれば一生飢えない」
と書いてあります。やはり自分で掴ませないと伸びません。
世話を焼いて口元まで食べ物を運んであげるのではなく、自分で箸を使って口に入れて、自力で食べるという、
そのエネルギーを燃やすことが大事。
“メンタル”もトレーニングすることで向上する!
- 佐藤:
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例えば筋肉が弱い子がトレーニングをして栄養を摂れば、筋力が鍛えられて強くなります。それと同じで特性はあるにせよ、国際的にもスポーツ心理学会の定義でも、メンタルトレーニングまたは、サイコロジカルスキルトレーニングと言われているように、
『メンタルもトレーニングをすることによって向上する』
という基本に則っています。闘争心が低くても、そういうトレーニングをすれば闘争心は高くなる、という風に。 - 久保田:
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体だけじゃなく、心もトレーニングすることによって、確実に向上するということですね。
目標は近く(イメージしやすい程度)に設定する
- 編集部:
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メンタルトレーニングとは、例えば試合の前によく勝つイメージをシミュレーションをするトレーニングなどありますがそれでしょうか?
- 佐藤:
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そうですね。メンタルトレーニングとは、心理的スキルを身に着ける方法で、「サイコロジカルスキルトレーニング」とも言われています。目標の設定も、その「サイコロジカルスキルトレーニング」になります。
例えば、「位置について、よーい、ドン!」と言われても、ゴールがない場合、どこまで走ればいいかわからず困りますよね。
ゴールがわかれば、あそこまで走るんだとそこにエネルギーを集中できます。ただ目標が100キロ先とかあまりに遠いと、それもイメージ出来ません。だから目に見えるところにゴールをセットする、これも心理スキルなんです。
よく言われるのが、立ち幅跳びをしてマックスがあったとしたらその10%先の110%ぐらいに線を引くとすごく良い記録が出ると言われます。
ゴールセッティングのレベルをどの辺にするかも、メンタルトレーニングのひとつです。
メンタルトレーニング その前に・・・②
失敗をなんでも“メンタル”のせいにしていては、成長しない!
- 佐藤:
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スポーツで最高のパフォーマンスを発揮するためには、当然のことながらメンタルだけではダメで、 体力、技術そしてメンタル、と総合的にアプローチしていくことが重要です。まさにかけ算のようなもので、どれか一つ欠けてもダメ、という事です。
最近スポーツ心理学、特にメンタルトレーニングが認知されてきて、負けるとすぐ「メンタルが弱いせいだ」と言われます。確かにメンタルもあるでしょうが、私自身テニスのコーチをやっていた経験から言わせていただくと、負ける原因は、実は大体が技術や体力の問題で、メンタル以外のものだったりします。なのにメンタルだと決めつけてアプローチしても、結局は深みにハマっていきます。急がば回れで、もう1度体力や技術を見直した上で、やっぱりメンタルにも問題があった、と結論付けないといけません。
- 久保田:
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そうでないと、メンタルという言葉が“隠れみの”になっちゃいますよね。
- 編集部:
- 『メンタル=強化しづらい部分』と考えがちで、「緊張したから」とか「気持ちが焦って」という言い訳が通りやすく、逃げ道になりやすいのかもしれません。「メンタルだけはどうしようもないね」と周囲を納得させてしまう十分な理由になってしまう傾向はありますね。
- 佐藤:
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なぜか「メンタル」に非常に?異常に?興味を示す選手や親御さんがよくいます(笑)。 セミナーなどでもよく、「メンタルが強いと思う人」、「弱いと思う人」どちらかに手を挙げてもらい、メンタルが弱いと思っている人に、「じゃあメンタルって何ですか?」と聞くと「・・・」。何か分かっていません。色々混ぜこぜにして、まとめて「メンタル」にして、自分は弱いと思い込んでいるんです。
一概に「メンタル」と言っても 種類があって、九州大学徳永幹雄名誉教授らが作成したDIPCA(心理的競技能力検査)によれば、12の要素に分けられます。(※)
次に一つ一つ自分のメンタルの強いところ、弱いところを明らかにした上で、トレーニングをしていきます。そしてようやく、パフォーマンスの向上に繋げていく、というやり方で進めていきます。栄養学も同じ事が言えませんか? 一概に食べる、食べ物といっても・・・ - 久保田:
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確かにおっしゃる通り、「好き嫌いをなくしましょう!」などの大括りな一つの表現などもそうです。(好き嫌いは)無いにこしたことはありませんが、嫌いなものがあってもそれをカバーできる能力があれば、とりあえずはそれで支障が出ることはない、などの様に、一概に言えないことが多いです。