編集部:「卓球のトレーニングメニューを教えてください。」
田中さん:「週に2回ウェイトトレーニングをやって、あとはプライオメトリックストレーニング、スピードトレーニングやアジリティ、インターバルトレーニングなどで回復力をつけたりをしています。ウェイトトレーニングはウェイトルームで行い、インターバル他のトレーニングは卓球場や、陸上競技場もあるのでそこに走りに行ったりしてやっています。」
編集部:「脳が疲れた時のエネルギー補給は、何が良いですか?」
ひさこ先生:「脳も疲れますね。脳のエネルギーは食事から。ただ糖分といっても一時的には甘い物を欲求(よっきゅう)すると思いますが、糖分は甘いものだけじゃなく、主食が消化して吸収される段階でブドウ糖になるから、長いスパンで考えれば脳のエネルギーには主食が適しているかと思います。」
田中さん:「練習後、選手はすぐ食堂に行きます。午後は3時半からの練習なので、ちょっとお腹が空いてしまう場合に補食のゼリーとバナナは準備していますが、足りない時は自分たちで買ってきて食べています。」
編集部:「試合中食べていいんですか?」
田中さん:「はい。バッグがベンチに置いてあり、そこから取って食べます。」
編集部:「テニスの試合と一緒ですね。錦織選手はよくバナナを食べていますよね。」
田中さん:「それと同じです。1ゲームごとにベンチに戻(もど)れるので。エネルギーゼリーや、時間がある時はおにぎりやバナナを摂(と)っています。」
編集部:「試合の間じゅう、集中力を切らさず続けるのは大変ですね。」
田中さん:「卓球は『100m走全力疾走(しっそう)しながら、チェスをするようなものだ』とたとえられるくらいです。今はもう故・荻村伊智朗氏(元国際卓球連盟会長、元世界チャンピオン)がおっしゃられたのですが、まさにその通りだなと思います。
サーブも上回転とか下回転、ナックルとか横回転とか斜めとか色々あるんですが、それによって相手が返してくるコースが大体決まってくる。ボールが返る先が決まっているから、先に動いておいて、打つ、という感じ。スピードと頭脳戦。選手たちは考えたり感覚だったりで、5手6手先を読んでやっているんです。」
編集部:「今後、ストレングス&コンディショニングコーチの需要(じゅよう)が増えていきそうですね。」
田中さん:「そうですね。就任当初は僕しかいなかったんですが、各学校や所属チームもそういう必要性を感じて、徐々に増えていっています。やっぱり、ケガをしないのが一番評価をしていただいているところだと思います。腰とか肩とか、そういったところが慢性的(まんせいてき)に故障が多かったんです。卓球は一側優位性(いっそくゆういせい:体の片側が他側よりも優先的に使われること)のスポーツなので偏りがちなのですが、筋トレをしたり可動域を出したり、トレーニングすることによってケガは予防されていきました。」
編集部:「選手の食生活や生活習慣などの指導もされるのですか?」
田中さん:「今は12歳以下の代表、18歳以下の代表、ナショナルチームを見ていますが、卓球協会に非常勤の栄養士がいるので、講義を一緒に聞いて、子ども達に代弁して教えています。食堂で自分でお盆に取ってこさせたものを見て、『足りないもの何だと思う?』と考えさせる指導なども。ナショナルトレーニングセンター内にある食堂『サクラダイニング』の栄養士も協力的にみてくれているので、良い環境が作られています。
最初は好きなものしか取らなかった選手も、体づくりの大切さを知り、副菜などをお盆にいっぱいとるようになる。トレーニングも頑張って、体が大きくなり結果も出ると、今度はそれを見ていた下の子たちもしっかり食べるようになっていきました。やはりナショナルチームの大人になってからより、小さい時から教育、食育していく方がやりやすいです。」
ひさこ先生:「大人になると頭ではわかってても、やはりなかなか直せないことが多いと聞きます。たぶん本人たちもすごく歯がゆいと思いますので、“小さいときからの食育”はぜひ大事に続けて欲しいと思います。」
田中さん:「トレーニングもそうですが、何事も小さいうちからやっていく事が大事だと思います。」
編集部:「家族が出来るサポートがあれば教えてください。」
田中さん:「最近の子は体が固くなってきてるので、練習前後と入浴後は必ずストレッチをしてください。もちろん食事もバランス良く3食しっかり食べさせるのも大切です。あと、身の回りのことを出来ない子が結構多い。整理整頓がしっかり出来る子は、頭の中もきっちり整理されていてスマートに考えられるので、自分で出来ることは自分でやらせると良いと思います。」
編集部:「今スポーツを頑張っている子どもたちにもアドバイスをお願いします。」
田中さん:「子ども達には、親や先生たちのいうことをしっかり聞いてほしいですね(笑)。そして自分で出来ることはしっかりやりましょう。それと、子供のころに専門スポーツだけじゃなく、色々な遊びをしておくと、体の広域性(こういきせい)も上がってくるので、テレビゲームばっかりせず、たとえばジャングルジムやアスレチックなどで遊ぶとか、友達とサッカーをやるとか。色々なスポーツや遊びをしてもらいたいです。」
ひさこ先生:「スポーツの世界は、伝統もありますが、科学的にやっていくことによって、もっとレベルアップしていくと思います。科学的な立場で活躍なさるトレーナーさんは、とても大事な立場で、重要な役割を担っていらっしゃると思ってます。何より栄養士の立場から言わせていただくと、普段(ふだん)選手のそばにいることの多いトレーナーさんの立場を存分に生かし、私たち栄養士と同じ目線で選手に栄養面でもアドバイスを伝えてくださっていることが、すごくありがたいです。」
編集部:「田中さんがある記事で、『これが自分にとって大事かどうか、分かってやるのと、知らずにやるのとでは大きな違いがある』と言われていて、とても共感しました。意識がある、ないで差が出るのでは、と思います。」
田中さん:「やらされてやっている選手は、合宿中はやりますが、所属チームに帰った時まで継続しないんです。だから次の合宿でまた1からトレーニング、毎回がオリエンテーションになってしまう。ナショナルトレーニングセンターの食堂ではしっかり摂(と)っていても、他でラーメンばっかり食べて太ってもどってきたり… … 。逆に自分にそれが大切だと思ってやっている選手は、普段からちゃんとトレーニングも食事も継続していきますし、自ら時間を作って『トレーニングしたいので見てもらえますか?』と言ってくる選手もいる。みんながそういう風になってくれると、全体的にもっと良くなっていくと思います。」
編集部:「栄養士やトレーナーに色々アドバイスをもらいに来る選手は、やっぱり伸びますよね?」
田中さん:「はい、質問してくる子はそれだけ興味があるという事なので、そういう子が増えればいいですね。」
編集部:「最後に、田中さんの今後の夢や目標を教えてください。」
田中さん:「卓球男子は、まだオリンピックでメダルを取ったことがないので、リオデジャネイロオリンピックでメダルを取るための、ちょっとした力になれれば。どの程度役に立つか分からないですが、そのためにやっていきたいと思ってます。
長期的な夢は、できる限り現場で活動した後に、後進を育てることをしたいです。また今は、選手が指導者になった時にトレーニングや栄養、メンタルの重要性をちゃんと理解できているようにサポートをしていきたいです。」
編集部:「頑張ってください、応援しています!本日はありがとうございました。」
8月のリオデジャネイロオリンピックに向けて、選手もコーチもメダルを目指して全力で頑張っているんですね。
私たちも、卓球日本男子代表をはじめ、リオデジャネイロオリンピックで戦う選手のみなさまを心から応援します!
埼玉県生まれ。小学1年から野球を始め、埼玉栄高2年春にセンバツで甲子園出場。高校在学中にスポーツトレーナーの道をめざす。専門学校を経て、仙台大学に進学、トレーニングの知識や技術を学ぶ。大学卒業後、森永製菓株式会社(ウイダートレーニングラボ)に入社。2010年4月より卓球男子日本代表の専属フィジカルコーチ(ストレングス&コンディショニングコーチ) を務める。12年3月森永製菓退職、独立。現在、日本卓球協会と個人契約を結んでいる。ストレングス&コンディショニングスペシャリスト (CSCS)、パーソナルトレーナー(NSCA-CPT)、NSCAジャパン認定検定員、南関東アシスタント地域ディレクターの資格をもつ。