世界のトップアスリートたちを担当してきた中村さんの目からみた、レジェンドになるために必要なものとは? またスポーツトレーナーというお仕事についてもたっぷりお話を聞きました!
編集部:「トレーナーになろうと思われたきっかけ、出会いを教えて下さい。」
中村さん:「体を動かすことが好きだったので、最初野球をしましたが、次にテニスをして、やっぱりテニスが好きだという気持ちからですね。そこで強くなりたいということで食事も変わり、高校卒業後アメリカに渡り、テニス関係の仕事がしたいからコーチになろうかと。当時は技術的な指導者は、コーチしかなかったので。 90年ぐらいから少しずつフィジカルトレーナーという、体を動かす方のポジションがうまれてきました。体を動かすことが好きだったのと、選手と関わり色々クリエイティブにやりたいというのがあり、技術指導とは違う何かをやろうと思った時、フィジカルトレーナーに結びつきました。」
編集部:「トレーナーの立場から見て、準備できている基本的な体とはどんな状態ですか? 指導がしやすい、たとえば食事をしっかりとり、睡眠も十分とっている、その他何か必要な要素がありますか?」
中村さん:「プレーするのに何が必要か、スタートは色々あると思います。ちゃんとできてるから、じゃあ試合に出ようっていう形ももちろんあると思いますが、やろうとした時がスタートだと思うんです。
プロの世界でも、食生活がめちゃくちゃな選手もいるし、技術がめちゃくちゃだけども、フィジカルが強いとか、色々自分の武器があって弱さがあって、その中で生きているプロがいます。子どもたちに僕が一番気を付けている事は、完璧(かんぺき)を求めてトレーニングをしても、結果が完璧であることにはこだわり過ぎちゃいけないということ。
ご両親に特に伝えたい事は、食事もちゃんとしなくちゃいけないけど、良い意味で逃げ場を作っておかないといけません。これが良い・これじゃなきゃダメ、だけだと頭がカチカチになってしまう。だからトレーニングにしても、体の動かし方にしても、『これで準備OK』という状態があるとは思うんですが、そこに到達しないと試合に出ない、になってしまうと、それだけでストレスになるし、変なプレッシャーになってしまいます。」
編集部:「トレーナーの仕事は、体も食事も精神面もトータル管理する大変な仕事ですが、その魅力(みりょく)を教えて下さい。」
中村さん:「現場で選手と一緒に生きる、というところ。僕の今までの経験から『中村メソッド』として、1.運動、2.栄養、3.リカバリーの3つを提唱しています。
最初のかけ出しのころは、運動トレーニングをして選手をきたえようとスタートしましたが、そこを究めようといろいろなハウツーを学んでも、選手の育成としてはやっぱりキャパが小さかった。選手のキャパを大きくしようとつき詰めると、やっぱり選手が健康体でないといけない。そこを徹底(てってい)しないと超一流にはならない。超一流の選手は食事もトレーニング。私生活の1日のリズムの取り方に関しても、非常にきめ細かくやっている。僕も学び、選手はトップに行けば行くほど徹底していきます。そういうことを指導者にも次の世代の子ども達にも伝えていきたいですね。
伝えていくことで、いい化学変化がうまれ、ある意味自分を自制する事にもなります。やっぱり良いと知った上で食べるのか、知らないでただお腹いっぱいになるのか。意識的にやってるのか、無意識なのか、その違いは大きい。本を読んだり、書いたり、人から聞いたり、話をすることだけでもどこかに残っていると思う。それが蓄積されれば、少しずつ変わる可能性があリます。」
ひさこ先生:「そうですよね。それにつながる話ですが。あるサッカー選手が、『僕たちプロのサッカー選手は、好きなサッカーをすることで、お金を頂いている。そんな幸せはないと思う。だから、リズムがずれてしまうから夜遅くまで遊ぶこともしたくないし、お酒を飲むことも肝臓の酷使につながるのでしたくない。それはサッカーをプロでする人間の当たり前のガマンだと思っている。つまり、サッカー人口の本当にひとにぎりの人間だからこそできるガマンなんだ。』と言っていました。」
中村さん:「選手もそれがプライドになってるんですよね。そこが自分と他の選手との差だと。トップの選手であればあるほど、自制心が強い。だから勝つのは当たり前だっていう自信につながってくるんです。それほどいろいろ小さいステップを常にふんでいっている。」
ひさこ先生:「競技は違っても、トップに上がるための意識、努力って同じですね。」
中村さん:「プロ意識は共通してますね。」
編集部:「トレーナーに必要な技能を教えてください。」
中村さん:「全部です。自分が興味を持つこと。栄養でもいいし、体を動かすことでも何でもいいと思うんですが、やっぱり自分が興味を持ってまず究める、つまり勉強するということ。この仕事は人に自分の知識を伝えることなので。
僕の場合は海外で活動しているので、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、異文化のいろいろな考え方を持つ国で、様々な伝え方が必要です。変化球で来たら、こっちも変化球で受けないといけないので、幅が必要。そのためには、知識をできるだけ自分の中にためこむ時間が必要です。
これから指導者になりたいという方は、自分だけの経験だけでは時間が限られ難しいので、いろいろな指導者の本を読んだり、いろいろな人の苦い経験だったり成功例を聞いたり、本などから学ぶ事も大切だと思います。」