スポーツ食育インタビュー

Vol.26 後編 京都サンガF.C. 山瀬 功治選手

Jリーグ京都サンガF.C.でMFとして活躍する山瀬功治選手の奥様は、プロのフードコーディネータ一。食生活では手厚いサポートを受けているからこそ、ケガに負けず現役で活躍し続けています。そんな山瀬選手の、食に対する思いをうかがいました。

苦しくても食べることが、エネルギーになった高校時代
山瀬功治選手

編集部:「スポーツをする上で、“食べること”を意識するようになったのは、いつからですか?」

山瀬選手:「小学校の時に所属していたチームでは、きらいなものでも食べるように言われていたので、野菜は体には良いものだ、という意識はありました。そのときは何が良いのかは知りませんでしたが、野菜を食べる事は大事だと思っていました。
より具体的に、ワンランク上の意識をし始めたのは、高校生くらい。高校時代でも、好ききらい関係なく残さず食べなきゃいけないのは当たり前で、プラス量。合宿や遠征(えんせい)でキャンプに行ったときなど、おかずや、ごはんなど炭水化物をたくさん食べるように意識していました。『食べられない選手は走れない』とか『体の強さは内臓の強さ』だと指導をされていたので。量を食べられない人は結構大変そうでした。」

編集部:「食べるのが義務(ぎむ)だったんですか?」

山瀬選手:「そうです。一人ごはん何杯とノルマが決まっていて。それがいいかどうかは分からないですよ。色々な考え方があるから。でも、やはり食べられないと体は動かないかな。特に成長期には、食べることが必要だと僕は思います。」

編集部:「栄養指導は受けていましたか?」

山瀬選手:「いや、指導というほどじゃないです。僕らが高校生の時って、今ほど情報がないので、『まず量を食べろ、内臓を強くしろ』と。
昔は水も飲まずに練習するのが精神的にも強くなると考えられていたけれど、今はNGですよね。その時その時の流れがあるから、何とも言えないですね。
ただ、何をするにしろ、それに取り組む姿勢を持っているかどうか、だと思います。僕は食べられる方だったからイヤじゃなかったけど、それでも苦しかった。たくさん食べるのが体の強さにつながると信じて、しんどくても食べた。自分のためだから食べようという意識を持ってやっていました。
自分から進んでやるか、やらされるかの差は大きい。やらされてるうちは、それがどんな素晴らしい食事であろうが、素晴らしい理論であろうが、僕は100%は身にならないと思うんです。でも今の時代はどうか分からないですね……。食べない選手もいるかもしれない。」

編集部:「しっかり食べるということは、基本的に間違いではないですよね?」

ひさこ先生:「量を食べるという時に、おかずだけでなく最近は敬遠されがちなご飯をしっかりとるということは大事なことだと思います。」

編集部:「その時の食事が、パフォーマンスに反映(はんえい)していましたか?」

山瀬選手:「今じゃ考えられないですけど、高校生の時は1日2試合やるのはふつうで、午前、午後と試合をしていました。でもそういう時こそ、苦しくても沢山食べている方がなんだかんだ言っても動けるなって。体が軽い重いとかじゃなくて、単純にエネルギー源を体が持っているかどうか、というのを感じました。」

試合中の山瀬功治選手

ひさこ先生:「そのためにも、しっかり食べることが大事、と。」

山瀬選手:「そうですね。そこまで食べていなかったら、もしかしたら午後の試合に途中(とちゅう)でガス欠になっていたかも、とは思います。」

編集部:「高校時代は、1日に何食も食べていたのですか?」

山瀬選手:「基本は朝昼晩ですけど、間食が多かったですね。昼ごはんはふつうに食べて、練習が終わってから帰る間、夕飯までの間になんかちょっと食べてとか。」

ひさこ先生:「1日2試合あるとき、午前と午後の試合の間にはお弁当ですか? 2試合あるから多目にとかではなく、ふだんの学校の時と同じようなお弁当ですか?」

山瀬選手:「基本的にはお弁当です。どこか地方に行くときは自分たちで用意できないんで、弁当屋さんに頼んで。でも地元で試合の時は、昼ごはんは親が作った弁当か、コンビニで買った弁当でした。あんまりそこは意識はしてなかったですね。」

ひさこ先生:「特におにぎりにしろとかいう指示はなく?」

山瀬選手:「そういうのは特になかったですけど、腹持ちのいい物は食べてました。炭水化物がいいとかそこまで深く考えてなかったですけど。でも腹がへらないものだと、やっぱりごはんですかね。」

持っているものを100%出すためには、食事が重要

編集部:「サッカー選手になってから、試合の朝に食べるメニューはありますか?」

山瀬選手:「試合時間にもよります。試合前は必ずチームで軽食を摂(と)るようにしているので、それは色々。炭水化物もあれば、パスタやうどん、おにぎりもあるし、フルーツも。そこは人それぞれです。僕は基本的に、パスタを食べるようにしています。」

編集部:「それは、何かこだわりがあるんですか?」

山瀬選手:「食べやすいからです。パスタにオリーブオイルと塩をかけて食べるだけ。」

編集部:「バイキングみたいに、色々ある中から選べるんですか?」

山瀬選手:「そうです。軽食はビュッフェスタイルになっています。僕はその時は炭水化物しか食べません。前日の夜は色々なものを食べますが、大体2日くらい前から、意識的に炭水化物を多く摂るようにしています。あとはバランス良く、ですね。お腹に残るようなものはあまり食べないようにしたり。アブラっこいものは基本的には食べないです。」

編集部:「小さいころから、アブラっこいものが好きじゃないんですか?」

山瀬選手:「いや、意識して。あげ物は基本的に食べないです。僕の場合は大きなケガをしたのが一番の理由で、そこから始まって、食生活などの知識を得た中で、取り入れるもの、取り入れないものにこだわるようになりました。」

編集部:「こだわっている食べものや、食べ方はありますか?」

山瀬選手:「そうですね。出来るだけ食べる時間帯を早くするようにはしています。特に夜。」

ひさこ先生:「食事を終えてから、寝るまでの時間を空けるということですか?」

試合中の山瀬功治選手

山瀬選手:「はい。空けて、出来るだけ胃の中に物を残さないようにする方が、夜食べたものを全部吸収しきった状態で、次の日をむかえられるような感覚があるので。」

ひさこ先生:「その感覚はすごいですね! お腹に残っている状態で寝ても熟睡(じゅくすい)できないですし、熟睡できなければ、成長ホルモンも分泌されません。最近は夜遅くまでの練習や塾で、夕食が遅くなるということも言われていますが、食事のとり方(時刻や内容など)を工夫して、食事が終わってから寝るまでの時間を空けるようにすることは成長期では特に大事です。」

山瀬選手:「あとは、白米だけじゃなく大麦も一緒に混ぜています。白米だけでもいいんですが、大麦の方が食物繊維、ビタミンとかミネラルとか色々入っている。栄養素的にもカロリー的にも、白米と大麦をあわせてたいた方が良いですよね。
年齢とともに代謝(たいしゃ)が落ちてきたので、食事も変わってきますよ。その時その時の体のコンディション、ケガがあるかないか、シーズン中かそうじゃないか、シーズン前のハードな時期かそうじゃないか。暑い時期、寒い時期など、そういうのも考えて色々変えてやっています。」

編集部:「アスリートにとって、食事はかなり重要だという事ですね。」

山瀬選手:「食生活に気をつかうかどうかは、間違いなく重要だと思います。気をつかっているからといって、サッカーで成功できる訳じゃないんですけど。
ただ、持っているものを100%出せるか出せないかは、コンディションだと思うんです。そのコンディションをどのように作るかと言うと、食事のしめるウェイトは相当大きい。長く現役を続けたいと思うなら、なおさら。
若い時は何とかなるんですよ。サッカー選手じゃなくても、サラリーマンだってそうですよね。暴飲暴食(ぼういんぼうしょく)、どんな生活をしていても体が動く。でも、やっぱり年齢とともに体って変わっていきます。そういう時に、若いころと同じように続けられるかどうかは、カラダのメンテナンスの部分。年齢を重ねてきた時に、今まで何をやってきたのかが、差になる。体に悪い物って、蓄積(ちくせき)されていくとも思うんです。だから、『歳を取ったな、若いころみたいに体が動かなくなってきたな、じゃあやってみよう!』だと、遅い。積み重なった疲労(ひろう)や、体に不要なものを取り除くのは、なかなか難しい。今までそういう習慣(しゅうかん)が出来てない選手がいきなりやろうとしたって、無理だと思う。そういう意味で、習慣って大事だと思います。
ストイックになれ、とは思いませんが、でも何かを成しとげる上で、最低限やらなきゃいけない事が、絶対あると思うんです。それが出来るかどうかは、目的を達成できるかどうかのポイントになってくるんじゃないですか。」

つづき
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