編集部:「指導されている選手の食生活はいかがですか?」
柏原さん:「トップ選手になると、連盟(れんめい)が開く栄養講習会や栄養士の指導を受けています。必要な人は毎食写真を撮って、栄養士さんにチェックしてもらっています。試合前にトレーニングを全て調整してきて、あとやる事は体重を落とすだけ、となると減量してもらいます。この競技は少しの体重の差が大きく影響しますので、選手にとってはつらいでしょうね。
試合前は合宿で食事が出ますが、普段は自炊(じすい)で、かんたんに作れて野菜がたくさんとれる鍋が多いらしいです。」
ひさこ先生:「鍋料理は、特に一人暮らしの選手にとってはおススメです! 野菜も量がしっかりとれ、肉・魚貝・豆腐などたんぱく質も日替わりで入れることも出来ます。さらに、最後にうどんや雑炊(ぞうすい)にも出来るという優れものです。」
編集部:「選手の朝食はどんなスタイルですか?」
柏原さん:「早朝練習は5時半位からで、朝食に100%オレンジジュース・バナナ・ヨーグルトを食べて練習します。おにぎりも一応用意します。それが朝食になる時もあれば、9時ごろに改めて朝食を食べる時もあります。」
ひさこ先生:「以前は、朝食抜きで1日2食しか食べない競技の代表が相撲とラグビーでしたが、これらの競技も今は3食になってきています。分食は夕食にするイメージですが、ここでは朝の分食になります。朝食・昼食・夕食ではなく、1回目の食事、2回目の食事……という感じで1日4食とか5食にして、トータルで考えていきます。
オリンピッククラスの選手はそういう事もすでに身につけていて、わからずにやる自己流ではなく、基本を理解した上で自分に合う方法を見つけて行っています。」
編集部:「ソチオリンピックの食事風景を教えてください。」
柏原さん:「競技によって食事時間が様々です。 世界の試合で強行スケジュールは当たり前で、日本人はそういうのに弱く、海外の選手は突然時間が変わっても対応できる。それができなくちゃいけないんです。」
編集部:「海外の選手の食事で何か気づいた事などございますか?」
柏原さん:「平均的によく食べます(笑)。でも女子の選手は特に、太らないように野菜をとったり食事に気をつけていました。海外の選手には栄養オタクやこだわって食事している人が多いようです。」
編集部:「健康・栄養について、管理栄養士のひさこ先生に質問したいことはありますか?」
柏原さん:「女の子は甘い物が好きですが、体重管理していると太れない。ある程度気持ちが満たされるガマンの方法はありますか?」
ひさこ先生:「糖分と脂質を一緒に含むものは、より体脂肪を作りやすいと言われています。クリームたっぷりの洋菓子は体脂肪になりやすいので、和菓子の方がおススメです。もちろんとる量やタイミングもありますが……。
人間は身体が必要としている物をほっすると言いますから、甘い物が食べたい時は、身体が即エネルギーになるものが欲しかったり、脳が疲れていてエネルギーを補給(ほきゅう)したい時だったりします。アスリートならその時にほしいものを目だけで選んでしまうのではなく、頭で考えて選んでほしいと思います。」
柏原さん:「ショートトラックは40秒~3分位の間に力を使う競技で、もう少しパワーをつけたい、体力をつけたい、そういう時の食事の秘策(ひさく)があれば知りたい。」
ひさこ先生:「パワーをつけたい時は、一般的に肉などのたんぱく質をとると思われがちですが、たんぱく質だけでなく炭水化物をとらないとパワーのもとにはなりません。そのバランスが大事です。あとは自分の目標体重や競技の特性に合わせて、量も気をつける。バランスを守りながら、妥協点(だきょうてん)を見つける事も大事です。」
編集部:「子どもたちに一言アドバイスをお願いします。」
柏原さん:「指導者として各県でタレント発掘(はっくつ)事業もしていて、子どもに走ったりとんだりさせたり、柔軟性(じゅうなんせい)を見てどのスポーツに合っているか適性判断をしています。自分に合ったスポーツは必ずあります! 自分に合うスポーツを探してほしいですね。そして食事は、好ききらいのないよう、何でも食べましょう!」
編集部:「保護者の方が出来るサポートについて教えてください。」
柏原さん:「子どものうちは、向いているスポーツが自分でわからないので、親御さんがその子に合ったスポーツを選んであげてほしいです。専門的にわからないと思いますが、色々なスポーツを小さいころにたくさんさせて、判断するのが良いと思います。あと、出来るだけ早い段階で良いコーチをつける事です。相性もありますが、コーチとの関わりというのは非常に大きいです。」
最後に指導の際の信念をお聞きしたところ、「選手とコーチが共有の目標を持ち、それに向かって努力すること。苦境に立っても最後まであきらめない事」とお答えいただきました。
多くのトップアスリートの夢をかなえるために、全力を注がれてこられた柏原さんのこの言葉は選手にとってどんなに心強い事でしょう。
柏原さん、興味深いお話をありがとうございました!