ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生ごはんだもん!げんきだもん!特別企画 スポーツ心理学×スポーツ栄養学 スポーツ心理学:佐藤 雅幸先生 スポーツ栄養学:久保田 尚子先生

第3回 スポーツ心理学 “メンタル・トレーニング”入門編 「“ネガティブ”を“ポジティブ”に変える!」

メンタル要素⑥ 「リラックス能力」

緊張感、不安や恐れ、迷いを持っていてもいい

編集部:

こどもにとって「いつも通りリラックスしてやる」ことは、簡単にできる子もいれば、神経質になって出来ない子もいてそれぞれですね。

佐藤:

こどものテンションをみてあげる事ですね。 日本人は人前に出れば緊張する。それは日本人のいいところでもあるわけで、緊張はしてもいい。そして、不安、恐れや迷いを持っていてもいいんですよ。本当は不安なのに、「私は大丈夫です」って言うのは、かなり嘘くさい(笑)。
ですが打席に立った時、「俺は打てない」「俺は外す」って思って打ったら、多分外れてしまいます。
だから不安は持っていていいけれど、行動をおこす時には、「俺はやれる!」と100%ポジティブな方向に切り替えましょう

「深呼吸」の腹式呼吸と胸式呼吸法

佐藤:

スポーツ種目によって、試合をする時の緊張や興奮レベルが高い方がいいのか、低い方がいいのかが違ってきます。
ライフル射撃で、「よし行くぞ!行くぞ!」といった興奮レベルではダメでしょうし、ラグビーであれば「ウォー・クライ」という戦い前に雄叫びを上げて興奮レベルを上げる事もあります。色々なタイプがあって、興奮レベルをどの辺にもっていくかが重要です。
時には緊張していたり、興奮が高くて困る場合ありますよね。それを下げるために、どうすればいいと思いますか? 大体みんな知ってる事です。答えは「深呼吸をする」。これが一番効果があります。ところがほとんどの人は、普通に呼吸は出来るからと、呼吸法をトレーニングしたことがありません。呼吸法を真面目にトレーニングすると、「なるほど」と思う事がいっぱいあります。  

【呼吸でテンションの上下をコントロール】

■緊張レベルが高すぎる、テンションを下げたい場合は→腹式呼吸
口をふさいで鼻から息を吸うと、自然と腹式呼吸になります。鼻呼吸すると、お腹に空気が入ります。

■緊張レベルが低い、テンションを上げたい場合は→胸式呼吸
鼻をつまんで、口から息を吸うと胸式呼吸になります。鼻をつまむと空気は腹まで入っていきません。

編集部:

先日あるアスリートが、「一般的に行っている呼吸法は間違っている事が多い。呼吸は文字通り、息を吐いてから吸うのが正しい方法」と言われていました。  

佐藤:

吐く方に時間をかけると、リラックスします。リラクゼーションになるんです。

編集部:

深呼吸をすると、自律神経の*副交感神経の働きが強くなるとか。簡単な方法でテンションのコントロールができるんですね。

*運動や活動を休んでいる状態は、副交感神経が活発になり、全身の余分な力が抜け、ゆったりリラックスした状態になると言われています。

メンタル要素⑦ 「集中力」

「集中」=「注意する」という考え方

編集部:

集中力って結構面白いんですよ。大体皆さん「集中力=コンセントレーション」って考えるんですね。テニスでもよく「1本集中!」って言うけれど、「何に集中してるの?」って聞くと、「え?」って考えます。
スポーツ心理学では、「集中力の研究」があり、「集中=アテンション(注意)」の意味で考えます。決断する時は、集中すると迷わない、という事ですね。

集中力を分解すると、注意の概念を大きく分けて「外」と「内」、それから「広い」と「狭い」とあります。

外側広い集中:全体を見て、情報を取り入れる集中
(例)テニスの場合、コート全体をみること

外側狭い集中:時計を見るなど、特定の事・もの一点に集中
(例)テニスの場合、ボールを見る

内側広い集中:複数の選択肢を検討する集中
(例)テニスの場合、ストロークのコースを考える

内側狭い集中:一つの選択肢にしぼる、決定する集中
(例)テニスの場合、ねらいを定めて打つ

久保田:

テニスのように試合時間の読めないスポーツでは、集中力はそれを支えるエネルギー源をチャージしているかどうかも大きいのではないでしょうか。特に長時間のゲームになった場合、 “エネルギー補給するタイミング”“何を摂るか”はとても大事だと思います。選手によっても違うと思いますが、基本的なエネルギー補給技術を普段から身につけておくとか、普段から食事の摂り方に気を付けることができれば、自然と違いが出てくるのではないでしょうか。もちろん練習なくして、食事だけで勝てるわけではありませんが、試合当日に一番良いパフォーマンスに持ってこられる環境の一つが“食事”なのでは、と思います。
どんな競技の選手も、試合で最高のパフォーマンスを出すためには、様々な“コンディション調整”が必要です。コンディション調整の中では、食事の果たす役割も多いと思います。持久力、スタミナなどもそうなんですが、もしかしたら食事は「心のスタミナ」にもなるかもしれませんね。

スポーツ心理学栄養学

血糖値の上がり方が違うものを組み合わせて食べると集中力が切れにくい!?

佐藤:

大学時代の私の失敗談で、ある雑誌に「血糖値が上がっていれば集中力が増す」と書いてあり「これだ!」と思い試合前からオレンジジュースをバンバン飲んだんです。血糖値を上げているのだから集中できる、と思いながら。とても暑い真夏の大会で、ファーストセットは良かった。ところが、ある時からなぜかボーっとしてきて急に体がだるくなり、結果負けました。今思えば、血糖値を上げる方法を間違えていました(笑)。

久保田:

それはありますね。長い時間パフォーマンスを継続していくためには、
試合開始時間から逆算して“血糖値の上がり方が様々なものを組み合わせる”方法も一つだと思います。具体的には“すぐにエネルギー源になるもの”“ゆっくりとエネルギー源になるもの”上手に組み合わせておくと比較的長時間エネルギーを維持できます
もちろんオレンジジュースもすぐにエネルギー源になるうえ、クエン酸も含まれていますので、おススメの食品です。

佐藤:

やっぱり1試合の中での食べ物、補食や水分補給はとても重要で、何セットやっても何時間やっても、集中力が切れることなく続けてやるための秘訣だと思います。

【食べ物がエネルギーになるためには“血糖”のコントロールが重要!】

ご飯、パン、果物、アルコールなどに含まれている“糖質”は体の中で“ブドウ糖”“果糖”に消化・吸収され、血液を介して全身に運ばれます。この血液中のブドウ糖を血糖と言います。血糖の量が増えて血糖値が上がると、血糖をコントロールするホルモン“インスリン”が分泌されます。

【インスリンの働き】
その1 ⇒ 血糖をグリコーゲンに変えて肝臓に蓄える
その2 ⇒ 筋肉など体を動かすエネルギー源に変える
その3 ⇒ たんぱく質や脂肪の合成を促進する

空腹でも、食べものの消化吸収ができていればエネルギーチャージOK!のグッドコンディション

編集部:

お腹がすいたらカラダだけでなく気持ちのテンションも下がる、エネルギーのたくわえがあれば、心も体も元気でやる気が出る、ということですね。ただ、「満腹だと体の動きが悪く、空腹時の方が調子が良い」という人もいますね。

久保田:

消化と吸収の時間のバランスを考えると、必ずしも胃の中が空っぽになること=お腹がすくことが、血糖値が下がっているということではありません
以前、女子ソフトボールに同行した際、あるドクターが選手に「お腹が空っぽになったのを、アスリートとしての空腹感と捉えてはいけない」と説明され、すごく的を得た話だと思いました。
運動する時点で胃の中で食べ物が消化しきれていない場合、その段階ではまだエネルギー源になっていない為、決して良い状態とは言えません。
逆にお腹は空っぽだけど、エネルギーはチャージ出来ている、という方が良い状態と言えます。
空腹時にすごく力が出るというのは、もしかしたら消化しきれているので、良い意味で「一番エネルギーチャージが出来ている状態」なのかもしれませんね。

佐藤:

やっぱり1試合の中での食べ物、補食や水分補給はとても重要で、何セットやっても何時間やっても、集中力が切れることなく続けてやるための秘訣だと思います。

全5回連載
次は、第4回「感情はコントロールできる!」をお楽しみに!
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